ブック質問状:「下町ロケット2」 直木賞受賞作の続編にプレッシャーも

池井戸潤さんの小説「下町ロケット2 ガウディ計画」
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池井戸潤さんの小説「下町ロケット2 ガウディ計画」

 話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、阿部寛さん主演のドラマが話題になっている池井戸潤さんの小説「下町ロケット2 ガウディ計画」です。同作を担当した小学館「週刊ポスト」編集部の新里健太郎さんに作品の魅力を聞きました。

ウナギノボリ

--この作品の魅力は?

 「下町ロケット2 ガウディ計画」は、直木賞受賞作「下町ロケット」の続編となる作品です。前作ではロケットのバルブシステムを開発し、倒産の危機を乗り越えた佃製作所ですが、今作でもまた、窮地に陥ってしまいます。

 量産を約束したはずの取引が試作品段階で打ち切られ、NASA(米航空宇宙局)出身の社長が率いるライバル企業が登場します。そんななか、佃製作所に舞い込んだのが心臓手術に用いる人工弁という医療機器の開発依頼でした。医療機器の開発は多大な時間とコストがかかるため、中小企業である佃製作所にとっては非常にリスクが高い挑戦です。

 社長の佃航平の決断は? 佃製作所の社員たちはまたしても訪れた困難にどう立ち向かっていくのか? 苦悩しながらも戦う彼らの姿こそが今作最大の読み所だと思います。前作では目立たなかった社員もすごく格好いい活躍を見せてくれるので注目してほしいです。

--作品が生まれたきっかけは?

 池井戸さんが「下町ロケット」を執筆されたきっかけは「大田区の町工場の技術を結集したらロケットができる」という話を聞かれたことだそうです。しかし、実際に大田区の町工場を取材してみると「ロケットを作るなんて絶対無理」と言われ、「じゃあ特許や部品であればどうですか?」と尋ねたところ、「それならあるかも」と言われたことで、バルブシステムの特許でロケット製造に参画するというストーリーができていったそうです。

 直木賞も受賞し、既に累計150万部を突破している「下町ロケット」ですが、実はこの作品の中に既に続編となる「ガウディ計画」のきっかけとなるようなシーンが描かれているんです。池井戸さんは「当時は続編のことは考えていなかった」とおっしゃっていましたが、人工心臓に触れたそのシーンが今作につながっているといっていいかと思います。

--作家さんはどんな方でしょうか。

 池井戸さんは一度書き上げた原稿を何度も推敲(すいこう)されるんですが、いつも「お金を出して買ってもらうんだから、面白くてワクワクするものを書かなくては」と仰っています。その妥協しない姿勢は本当に素晴らしいといつも感じています。

 ゲラに入れていただく校正の赤字もとても丁寧ですごく助かっています。

 それから、今年ドラマ化された「ようこそ、わが家へ」の撮影現場に行った際のことですが、そこに子猫(「ガス」という立派な登場人物でした)がいたんです。池井戸さんに猫じゃらしをお渡ししたら、ネコをあやすのがメチャクチャうまいんです!(笑い) ご実家で飼われていたそうですが、普段、ペットの話などはあまりしたことがなかったので、これには本当に驚きました。

--編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。

 ファンの多い池井戸さんの作品の中でも、直木賞受賞作の続編ということで当初はプレッシャーもありました。ただ、それも原稿をいただいた時点で吹っ飛びました。登場人物たちのせりふや思いを読む度に、自然とガッツポーズをしていたり、涙を流したり……本当に面白かったので。「絶対にいい本にするぞ!」とものすごく興奮したのを覚えています。

 読んですぐに感想とともに、ある敵役の「“その後”が知りたい」とお伝えしたら、その日のうちに加筆していただけたのもうれしかったですね。

 一方で大変だったのはスケジュールです。この作品は、現在放映中のドラマ「下町ロケット」の後半5話の原作でもあるので、締め切りを後ろにずらすことは絶対にできませんでした。そのため、事前に発刊スケジュールの進行表を作ったのですが、その通りに進めても、紙の手配など本当にギリギリの状況でした。

 そんな中、池井戸さんは草稿を3週間であげていただき、装画をお願いした龍神貴之さん、デザイナーの岩瀬聡さんも時間がない中で、すごくすてきなものをあげていただきました。本当に感謝しています。

--最後に読者へ一言お願いします。

 「下町ロケット」の続編が遂に登場です! ドラマを見ているという方も多いかと思いますが、ぜひ小説でも佃製作所の挑戦に胸を熱くしてもらえればと思います。読む人が夢や情熱や希望を感じ、前を向く力がわいてくる作品だと、担当編集者として確信しています。どうぞよろしくお願い致します。

小学館 「週刊ポスト」編集部 新里健太郎

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