黄金のアデーレ 名画の帰還:カーティス監督に聞く「実物を見ようと多くの人が美術館を訪れているのがうれしい」

映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」について語ったサイモン・カーティス監督
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映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」について語ったサイモン・カーティス監督

 映画「クィーン」(2006年)などの作品で知られる英国の名女優ヘレン・ミレンさん主演の映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」(27日公開)は、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツに奪われた伯母の肖像画を取り戻すために、オーストリア政府を訴えた実在の女性マリア・アルトマンさんの戦いを描いた作品だ。メガホンをとったのは「マリリン 7日間の恋」(11年)で知られるサイモン・カーティス監督。ドキュメンタリー番組でアルトマンさんの存在を知ったことが、今作を作るきっかけになったという。10月に開催された東京国際映画祭のために来日したカーティス監督に話を聞いた。

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 ◇「アデーレ」は20世紀のシンボル

 「マリアの、強さや勇気に魅かれたのです。また、20世紀初頭のウィーンの素晴らしい時代と、それが徐々にひどくなっていった第二次世界大戦、そして、20世紀終わりの、非常に現代的な米国、この3つを関連づけるのに、とてもよい題材だと思ったのです」と、映画化の構想が浮かんだときのことを話すカーティス監督。

 マリア・アルトマンさんが、オーストリアのウィーンにあるベルベデーレ美術館所蔵の伯母の肖像画の返還を求めて立ち上がったのは、1998年、82歳のときだ。肖像画の正式名称は「アデーレ・ブロッホ・バウアーの肖像1」。「黄金のアデーレ」として世に知られるその絵は、ウィーンの画家グスタフ・クリムト(1862年~1918年)が描いた傑作の一つだ。現在は、米ニューヨークのノイエ・ギャラリーに展示されている。実際の「黄金のアデーレ」を「何度も見ている」というカーティス監督は、その肖像画を「20世紀のシンボル」と位置付け、「どんな複製も、本物が持つ壮麗さにはかなわない」といい切る。「この映画が公開されたことで、より多くの人が実物を見ようと美術館を訪れていることが、すごくうれしいし誇りに思う」と胸を張る。

 ◇ミレンの本能的センスに感服

 マリアを演じるのが、米アカデミー賞女優としても知られるミレンさんだ。カーティス監督によると、ミレンさんとは、監督が舞台劇の裏方の仕事をしていた10代の頃、シェークスピア劇に出演するミレンさんにお茶出しをして以来の「長年の知り合い」。カーティス監督は、「こういう形で仕事ができて、とてもエキサイティングでした」と感想を漏らすが、今作の脚本をミレンさんと読み合わせたとき、改めてミレンさんの素晴らしさを実感したという。

 「彼女の、役に対する本能的なセンス、例えば、彼女はマリアという人物をユーモアがあり、おかしみや怒りを併せ持つキャラクターととらえました。それは素晴らしいアイデアだと思い、私も演出に取り入れました」と明かす。

 マリアの協力者となる弁護士ランドル・シェーンベルクもまた、実在の人物だ。演じているのは、2016年公開のマーベルコミックスのヒーロー映画「デッドプール」でタイトルロールを演じるライアン・レイノルズさんだ。ちなみにレイノルズさんは、米テレビシリーズ「ゴシップガール」(07~12年)のヒロイン役ブレイク・ライブリーさんの夫だ。

 カーティス監督によると、レイノルズさんは、実際のシェーンベルクさんの外見とは「かなり違う」。しかし、カーティス監督は当初より、ランドル役には「自己発見の旅に出る、米国人を代表するような若者像」を思い描いていた。その人物像が、レイノルズさんが持つ「優しさや可愛らしさ、柔らかさ、そして、とても知的なところ」と一致した。ミレンさんとの相性もよかった。

 「撮影初日から、ヘレンとライアンはすごく馬が合い、撮影中も、お互いをからかい合いながら、それを楽しんでいました。2人が演じたマリアとランディ(ランドル)は、ある意味、クラシック映画の『おかしな二人』(1968年)に出てくる2人を彷彿(ほうふつ)とさせます。この映画そのものはシリアスでエモーショナルな内容ですが、ヘレンとライアンが持つ人間味や温かさ、そして彼らのやりとりが現場にもたらすユーモア、そうしたものがうまく作品に反映されていると思います」と2人をキャスティングできたことを、「とてもラッキーだった」と振り返る。

 ◇「差別することの危険性を指摘したかった」

 カーティス監督は、実在の人物を描く際の大変さは「勝手に話を作り上げられないこと」だという。「見せられた人は、それを真実だと思ってしまう」からだ。では、今作に描かれているすべてが事実かというと、「もちろん、マリアとランディがホテルで交わした言葉など、細かいことすべてまでは正確には分かりません」と打ち明ける。しかし、今作は事実に即しており、米ワシントンD.C.でのプレミアのときには、シェーンベルクさん本人から、「本質的に正しい」とお墨付きをいただき、「非常に誇りに思っています」と笑顔を見せる。

 出来上がった作品は、カーティス監督が「コメディー的要素もあれば、ある意味、ラブストーリーでもある。スリリングな逃亡劇でもある」というように「違うタイプの映画の要素が入っている」という。だが、それだけではない。カーティス監督は「私たちは新しい世紀にいるわけですが、前世紀に起きたひどいことを思い出すということ。それは、ナチスドイツに限らず、人種や性別、宗教、年齢、なんでもいいのですが、それらを使い差別することの危険性を指摘したかった。それをエンターテインメントの要素を取り入れて語りたかったのです」と強調する。その上で、「日本のみならず世界中の国々でいえることですが、私たちは過去を忘れてはいけないのです」と呼び掛けた。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 英国生まれ。ロンドンとニューヨークで舞台演出家として活躍。その後、テレビシリーズ「クランフォード」(2007~09年)などを監督し、映画「マリリン 7日間の恋」(11年)で長編監督デビューを果たした。

 (インタビュー・文・撮影/りんたいこ)

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