テーマ別に週刊で発行されるムックをすべてそろえることで、百科事典や模型などが完成する分冊百科。“パートワーク”などの呼び名もあり、海外の出版手法だったが、1970年に日本で取り入れられ徐々に浸透。2006年に分冊百科市場全体が本格的なブームを迎えた。もともと分冊百科を専門的に扱っていた企業のほかに、ブームに乗って参入した企業もあるが、注目されて10年がたとうとしている今、分冊百科の出版はどんな傾向にあるのか。国内大手の「デアゴスティー二・ジャパン」などに聞いた。
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分冊百科の歴史は、1904年にイタリアのデアゴスティーニ社が、地図を細かく分けて出版した「カレンダーリオ・アトランテ(地図年表)」を発刊したことに始まる。現在、主に3タイプあり、毎号パーツを集めながら一つのものを完成させるシリーズ、ミニチュアの模型が付属しコレクションしていくシリーズ、冊子を集めることで最終的に百科事典が完成するシリーズに分けられる。発行期間はまちまちだが、長いものでは2年以上かかるものもあり、創刊号が安価で、以降は定価で販売されることが特徴だ。
日本では、1970年に通信販売業だった日本メールオーダー社が初めて分冊百科を販売。以降、海外に本社を置く分冊百科の専門企業や国内の出版社などが参入し、現在はデアゴスティーニ・ジャパンやアシェット・コレクション・ジャパン、小学館や朝日新聞出版、ベースボール・マガジン社などが販売している。
世界で業界の50%以上のシェアを占めるデアゴスティーニ社は、1988年に日本に参入し、デアゴスティーニ・ジャパンとして、週刊「エアクラフト」を発刊。93年には初めてパーツを集めて完成させるタイプの週刊「恐竜サウルス!」を発刊した。その後、2005年に週刊「戦艦大和を作る」「マイドールズハウス」など、本格的な模型を組み立てるシリーズを続々と登場させ、ブームをけん引した。最近ではロボット、3Dプリンター、ドローンなど最新のテクノロジーを自宅で組み立てられる種類が人気という。2016年1月5日に創刊する週刊「スター・ウォーズミレニアム・ファルコン」を含めると、これまで186タイトルになる。
斬新なテーマとアイデア力が評価されている同社だが、実は企画部が存在しないという。PR担当の中東郁子さんによると「社員は誰でも企画が出せる環境で、あえて企画部が存在しません。年1回、開放的な場所を貸し切って上司部下関係なくニックネームで呼び合いながら自分のアイデアを出すイベントもあります。今年からは『アイデアマンアワード』と題して一般公募を行い、4万人の応募から8人のアイデアを商品化に向けて動いているところです」という。
スポーツ分野に特化し、データ資料の分冊百科を取り扱うベースボール・マガジン社は、書店ですでに波が来ていたという2009年に参入。同社初の分冊百科・週刊「プロ野球セ・パ誕生60年」の発刊以降、プロレス、相撲、サッカーなどのタイトルを毎年コンスタントに出版し、ターゲットを見定めながら分冊部門を展開してきた。
スポーツ雑誌の出版社として知られる同社だが、分冊百科に参入したきっかけについて販売部の豊田淳二さんは「さまざまなスポーツ雑誌を作っているのでコンテンツは山のようにあり、整理し切れないくらい倉庫に資料があります。それをムックにはしてきましたが、09年はちょうどプロ野球のセ・パ誕生から60周年を迎えた節目ということもあり、何かをやろうと考えていたところ、当時波に乗っていた分冊百科を作ってみようということになった」と経緯を明かす。
当初は何もかも手探りで、発刊に対しても不安があったといい、「雑誌の読者を参考に、“売れるテーマ”を見極めることができるのは強みですが、いざ出版すると1号目、2号目は当然赤字。全巻発刊してやっと成功か失敗か分かるものではありますが、出足の部数を見て、どこで取り戻せるのか……と不安に思っていました」と手探りながらも「発刊を継続してきた」という。
分冊百科といえば、「最初は安いけれど、その後は高い」「気になるけれど続けられなさそう」「完成した人はいるのか」など“完遂”のイメージが持ちにくい。一つのテーマにつき100巻近くになるものもあるため、全巻そろうまでは膨大な時間と資金が必要になり、果たしてコンプリートしている人はどれくらいかという疑問も浮かぶ。両社によると、分冊百科を購入する層は、50代以上をメインに経済的に余裕がある人という。
デアゴスティーニ・ジャパンの中東さんによると「タイトルによりますが、(13年に創刊したロボットを製作する週刊)ロビだと最終的に約10万体以上は完成することになる予定」と話し、「組み立てるシリーズに関しては、1冊買っても使い道がないので、継続率が高い」と必然的に全巻購入する人が多いようだ。同社では、組み立てるタイプの分冊百科が出版部門の約7割を占めているという。
また、ベースボールマガジン社は、相撲に特化したDVDマガジン「国技大相撲」を例に出し、「最終号の実売数のうち、全巻買ってくれた読者は8割くらいだった」と全巻通して好評だったことを明かした。全巻購入者にはプレゼントを用意するなど、施策も練ったという。
資料ものの分冊百科は、ターゲットを見定めてこそ成功につながるといい、「(毎月出している雑誌の方で)読者が安定的なジャンルの分冊を発刊するとまず失敗しません。相撲は高年齢層を中心に固定読者が見えているジャンル。シリーズ全巻で最終的に何万円にもなる商品なので、シニア世代がターゲットになり、成功しました」と話した。
一方、ターゲットが安定しないジャンルの分冊百科を試験的に出版したこともあったといい、「サッカーの分冊百科を出した時期はワールドカップ南アフリカ大会などもあって追い風でした。もともと雑誌(『サッカーマガジンZONE』)の方も、出すテーマによって売れる号、売れない号とバラつきがあり、読者が安定しないと分かっていたので、試験的に発刊したが、やはり赤字となりました。野球は歴史が長いが、サッカーはまだ20、30年で読者も若い。デジタル世代が読者層を占めていることもあり、今後サッカーをテーマにしたものを出すことはたぶんないと思う」と失敗例も明かす。
各社は今後、分冊百科をどう展開していくのか。ベースボールマガジン社の豊田さんによると「ブーム時には売り方が斬新で、コレクションすることが楽しいともてはやされていたが、3年前くらいから市場自体が縮小傾向にあり、販売方法も読者は飽きてきたと感じています」と明かす。
さらに「ある程度やれそうなことはやってきました。分冊百科に代わる販売手法を同時に模索していくことが今後の課題」と話し、分冊百科については「好評だった相撲をテーマにしたものを16年1月に発刊することを最後に、以降の発刊の予定は現状ないが、読者からニーズがあれば応えていきたい」と語った。
一方、デアゴスティーニ・ジャパンの中東さんは「世界に誇れる日本の技術に触れながら、知識を深めてもらえるような分冊百科をこれからも出版したい」と話す。週刊「ロビ」により新たな層を取り込んだという同社は、現在世界約30カ国で展開する中、出版部門で日本が一番の売り上げを誇っているという。
ロボットクリエーターの高橋智隆さんが監修し、会話や歩行、運動などができる本格的なロボットのロビは、ドライバー1本で仕上がるようにできているといい、同社のメインターゲットだった50代以上の男性だけではなく、家族や女性ユーザーを取り込むきっかけとなった。中東さんは「発売前から手応えは感じていましたが、その予想を上回る結果になった。デアゴスティーニ・ジャパンの代表作になりました」と喜んでいた。
ロビなどが売れる背景は“日本の技術力”にあるといい、「弊社の分冊は最近では最新のテクノロジーを体験できるようなものを展開しています。日本の技術力は世界に誇れるもの。本来技術者が触れるようなことを、実際に(一般人の読者が)いじることができるというのが魅力です。プラモデルにしては大きめで、メーカーにいわせると“邪道”ですが、細かいところまで再現することができています」と自信をのぞかせる。また、ロビ自体の今後の進化についても、「あるかもしれません」と笑顔で語った。
一時期のブームから10年が経過し、販売方法に読者も慣れてしまったことから市場自体が縮小傾向にあるというが、今後も可能性を見いだして新たな切り口で展開する企業、分冊百科に代わる斬新な販売方法を模索する企業、ブームの終焉(しゅうえん)を感じ撤退する企業とさまざまだ。書店の減少や出版業界の衰退の影響もありながらも、各社の今後の動向が注目される。
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