つむぐもの:キム・コッピに聞く 石倉三郎さん初主演映画に出演「日本の田舎はとても美しい」

映画「つむぐもの」について語ったキム・コッピさん
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映画「つむぐもの」について語ったキム・コッピさん

 頑固な越前和紙職人と韓国人女性のぎこちない交流を通して、人と人が助け合うことの大切さを描いた「つむぐもの」(犬童一利監督)が、19日から公開されている。介護を通して、国境を越えた心の触れ合いを描いたヒューマン作だ。主演は、今作が映画初主演となった俳優の石倉三郎さん。石倉さん演じる頑固親父と反目し合いながらも友情を築いていくヒロインを演じたのは、「息もできない」(2008年)のキム・コッピさんだ。このほど来日したコッピさんに撮影やロケ地・福井での思い出を聞いた。 

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 ◇寡黙な日本職人にぶつかりながら成長していく役

 キム・コッピさん演じるヨナは仕事への情熱を持てないまま失業してしまい、父親の勧めで日本へワーキングホリデーにやって来る。越前和紙職人・剛生(石倉さん)の手伝いに来たと思っていたヨナだったが、依頼された仕事は、なんと剛生の介護だった。妻に先立たれて一人暮らしの剛生は、脳腫瘍の後遺症で半身マヒになってしまった。剛生に「帰れ」と突っぱねられたヨナだったが、まったくひるまない……。寡黙(かもく)な日本人の職人とはねっ返りの韓国人娘がぶつかり合いながら異文化を受け入れていく様子が描かれる。

 「剛生とヨナは似たとこがあるから親しくなれたのだと思います。ヨナは剛生に出会って、一緒に過ごすうちに情が芽ばえて、彼が仕事にすべてを捧げる姿に影響を受けていきます。不満だらけの女の子から、だんだん明るくなって、笑顔になっていくんです」と、考えながら役について丁寧に答えるコッピさん。共演の石倉さんはコッピさんの繊細な芝居を絶賛しているが、「脚本に忠実に演じただけ」と謙虚に語る。

 脚本を読み、人物の感情にリアリティーを感じて、今作のオファーを受けたという。「ヨナが日本で1年過ごす間、さまざまなことがありますが、ヨナの成長を大々的に描かずに、変化の種が芽ばえているといった、内面の小さな変化として描いているところが気に入りました」と話す。

 剛生もまた、変化していく。本音でぶつかってくるヨナは、自分の感情を表にさらけ出す一方で、他人の感情も大切にしてくれる。お仕着せの介護ではなく、ヨナは剛生がしたいことをさせてあげようと、もう一度和紙作りを勧める……。

 ◇石倉三郎さんと息もぴったり

 撮影は約2週間だったが、「1カ月ぐらいに感じられた」というほどコッピさんはその期間、充実した日々を送った。会見の場で再び石倉さんに会い、「剛生に対しての情をまだ感じられます」と語るほどだ。

 「石倉さんとの共演は、演技中もしっかりと呼吸をして生きているのを感じられるほど息が合いました。石倉さんは撮影中だけでなく、現場の雰囲気をとても楽しくしてくれました」

 日本語のせりふも多いが、過去に日本映画に出演しているだけあって、すぐに慣れたという。さらに、越前和紙の紙すきと介護という二つのチャレンジをしたが、「新しいことに挑戦することが好きなので楽しかった」と満面の笑みで答える。

 コッピさんの紙すきの先生となってくれたのは、地元の伝統工芸の職人である玉村久さん。玉村さんは介護施設に入居している田中老人役で出演もし、コッピさんも「俳優さんに見えた」と驚くほどの迫力ある芝居を見せている。

 ◇福井の田舎は町並みが美しかった

 舞台となった福井県丹南地域の大自然や美しい町並みを、コッピさんは大変気に入った様子だ。

 「日本の田舎はとても美しいですね。韓国の田舎では、古い家を補修していい状態で住める建物が少ないんです。日本は伝統的な家屋が保存されていて、長く住んでいる人がいるのがいいですね。建物がきれいに配列されている町並みも気に入りました」

 本物の介護施設で撮影した経験について、「ベッドで横になって、やせ細っているお年寄りに衝撃を受けた」と率直な気持ちを明かすコッピさん。

 「これまで健康なお年寄りしか見たことがありませんでした。この役を通して、人間は社会的な動物だから、労り合いながら生きていくのがいいと思いました。この映画は、そんな価値を感じさせてくれると思います」

 人は必ず老いる……。ヨナが異国の地で、言葉は通じなくても相手の感情を読み取りながら介護をする姿に、人と人が助け合うためのヒントがありそうだ。 
 
 映画は、石倉さん、コッピさん、吉岡里帆さん、森永悠希さん、宇野祥平さん、内田慈さん、日野陽仁さん、隆(りゅん)さんらが出演。主題歌は城南海(きずき・みなみ)さんの「月の砂漠」。19日から有楽町スバル座(東京都千代田区)ほかで公開中。

 <プロフィル>

 1985年11月24日生まれ。2002年、「嫉妬は私の力」(パク・チャノク監督)で本格的に映画デビュー。「息もできない」(08年、ヤン・イクチュン監督)で大鐘賞新人女優賞、青龍映画賞新人女優賞などの映画賞を多数受賞。最近は、「クソすばらしいこの世界」(13年、朝倉加葉子監督)、「ある優しき殺人者の記録」(14年、白石晃士監督)、「グレイトフルデッド」(14年、内田英治監督)などの日本映画・日韓合作映画で活躍。好きな日本の映画は、犬童一心監督の「ジョゼと虎と魚たち」(03年)、岩井俊二監督の「花とアリス」(04年)などだという。 

 (取材・文・撮影:キョーコ)

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