最高の花婿:ショーブロン監督に聞く「誰もが持っている偏見の心を喜劇に乗せて」

映画「最高の花婿」について語ったフィリップ・ドゥ・ショーブロン監督
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映画「最高の花婿」について語ったフィリップ・ドゥ・ショーブロン監督

 敬虔(けいけん)なカトリック教徒である夫婦の娘たちが異宗教、異人種の男性と結婚した騒動を描き、フランスで2014年興行収入第1位を記録した話題作「最高の花婿」が、19日に公開された。多種な人種が混在するフランス社会と夫婦の戸惑いを軽やかに映し出し、温かい家族の物語に昇華させている。代々続く貴族の家柄出身で、結婚相手はアフリカ系の女性というフィリップ・ドゥ・ショーブロン監督が手がけた。このほど来日したショーブロン監督は「誰しもが持っている偏見の心を喜劇として軽やかに描きたかった」と話している。

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 ◇美しい古城で有名なロワール地方を舞台とした理由は…

 映画は、ベルヌイユ家の3人の娘が結婚式を挙げるところからテンポよく始まる。それぞれ、アラブ人、ユダヤ人、中国人と結婚した娘たち。敬虔なカトリック教徒である両親は複雑な表情を浮かべている。

 20%近くが異宗教・異人種間で結婚をしているというフランスの社会背景が着想になったという今作。「シリアスにならずに、喜劇として軽やかに描きたかった」とにこやかに語るショーブロン監督は、国民的喜劇役者のクリスチャン・クラビエさんを父親役に、コメディーの女王とたたえられるシャンタル・ロビーさんを母親役に配し、洗練した笑いを生み出している。舞台となった古城で有名なロワール地方の自然豊かな風景も、映画の明るさに一役買った。

 「父親のクロードは、地方のカトリック系の白人のイメージです。舞台をロワールにしたのも、昔ながらの伝統が残っているから。クロードにとって、娘たちにはカトリック教徒のフランス人と結婚してほしかったというのが本音。でも、父親として娘の幸せを願う愛情もあって、板ばさみになっています。苦しんでいる父親の姿から、笑いが生まれるのです」

 母親マリーは、クリスマスに婿(むこ)たちの国の味付けで3種類のチキン料理を作って、歩み寄ろうとする。しかし、四女が連れてきたアフリカ系の婚約者には絶句してしまう。一方で偏見の心は、アフリカ系の婚約者の父親の方にもあった。

 「大きなコミュニティーから小さなコミュニティーに対してだけでなく、偏見は逆もあり得ます。四女の婚約者のコートジボワール人の父親は、フランスを嫌っています。私たちは誰もが他者に対して偏見を持っているものだと言いたかったのです」
 
 ◇3人の娘の婿たちは移民2世

 ところが、両家の父親は、ともにド・ゴール主義者だということが分かって意気投合していく。「2人は拒絶し合っていたけど、共通点を見いだします。本当は兄弟のように似ているんです」と話す。

 長女、次女、三女の婿たちにも共通点があった。互いに反目し合っているが、全員移民2世。日本人の目から見れば、言いたいことを言い合って、それでもケロッとしている3人の姿はフランス人そのもの。だが、「移民2世の彼らは社会で完全なフランス人と見なされていない」とショーブロン監督は語る。

 「移民のスポーツ選手が国歌を歌わないことがありますが、3人は国歌を歌うことで『僕たちはフランス人なんだ!』と主張します。移民1世は存在が控えめでしたが、2世はフランスで教育を受けて育っているので、多くのフランス人と同じように言いたいことを言い合います(笑い)。それでも、移民2世はあまり理解されていないと思います」

 脚本を書くとき、アフリカ系の妻や移民の友人らにアドバイスを求めたという。登場人物の関係性を「それぞれが誰かをからかっている」と説明する。娘たちや婿たち6人とも個性が豊かで、欠点も含めて憎めないキャラクターだ。リュック・ベッソン監督作「LUCY/ルーシー」(14年)のフレデリック・チョウさんら、個性的な役者が配されている。中でも、母親マリーが悩みを打ち明ける相手である教会の神父がコミカルで印象に残る。「彼の舞台は大爆笑」と監督が絶賛する喜劇俳優を起用し、とぼけた味わいを残した。

 ◇昨年のパリでのテロで続編の脚本に悩み中

 14年の本国公開では、1200万人を動員する大ヒットになったが、「もし、15年11月のパリ同時多発テロの後の公開だったら、それほどヒットしなかったかもしれない」と神妙な面持ちで語るショーブロン監督。相手の出自をブラックジョークでこき下ろし、軽妙に俳優たちが演じるところが映画の面白さだが、同時多発テロ後に脚本を書いていたら、どうなっていたのだろうか。

 「その質問については、よく考えるんです。テロはこれまでにもあったけど、15年11月のテロ以降、社会は大きく変わりました。もし、その後に脚本を書いていたなら、テロの話は避けられないし、この映画のようにズケズケ言い合う軽さは出せなかったと思う。そして観客も受け入れてくれなかったでしょう」

 現在、続編の脚本を執筆中だというが、「どういう切り口で書くか、なかなか見つけられない」と悩んでいるという。孫たちを中心に据えて展開するかもしれない。異文化バトルが続編でどうなっていくのか、今後楽しみだ。

 映画は、クラビエさん、ロビーさん、フレデリック・ベルさん、ジュリア・ピアトンさん、エミリー・カーンさん、エロディー・フォンタンさん、メディ・サドゥアンさん、アリ・アビタンさん、チョウさん、ヌーム・ディアワラさん、パスカル・ンゾンジさん、サリマタ・カマテさん、タチアナ・ロホさんらが出演。19日から恵比須ガーデンシネマ(東京都渋谷区)ほかで順次公開中。

 <プロフィル>

 1965年11月15日、パリ生まれ。パリ高等映画学校(ESEC)で学び、89年にエマニュエル・シルべストルさんとともに製作した短編「Gros」で注目を集める。95年にベルナール・ノーエル監督「ボクサー/最後の挑戦」で脚本家デビュー。99年、自身の監督デビュー作「Les Parasites」を撮り、コメディー映画監督の礎を築く。その後、数作を撮影し、今作でフランス映画史上に残るヒットを記録。リュミエール賞のオリジナル脚本賞を受賞した。
 (取材・文・撮影:キョーコ)

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