桂文珍:芝居、映画、本の三つのジャンルで大阪の文化を楽しむ「神保町大阪文化祭!」を語る

「神保町大阪文化祭!」について語った桂文珍さん
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「神保町大阪文化祭!」について語った桂文珍さん

 「連休は安近短(安く、近く、短く)で楽しみたい」という東京近郊の方におすすめのイベントを落語家の桂文珍さんがプロデュースした。イベントは「桂文珍的ココロ 神保町大阪文化祭!」と題して、東京・神田神保町で4月23日から5月7日まで、芝居、映画、本の三つのジャンルで大阪の文化を楽しんでもらおうという企画だ。中でも芝居は、上方落語や文珍さんの創作落語を原作に、お笑いコンビ「中川家」や陣内智則さん、お笑いコンビ「矢野兵動」、NON STYLEの石田明さんといった売れっ子がこぞって登場する。イベントについて文珍さんに聞いた。

ウナギノボリ

 ――どんなイベントになりそうですか。

 大人の人が笑える、そして若い人も初めてやけど面白いという、どちらも楽しめるイベントを考えました。映画は若い人は初めて見る作品ばかりでっしゃろな。

 ――落語を基にした芝居には、人気者がそろいました。

 僕からこうした方がいいとキャスティングしました。中堅、実力派で期待値が僕も高い、世間も認めてらっしゃる人たちです。NHKの(上方漫才コンテストなどの)審査員をしたりしていて、若い子を見て、この子はええなあという子に出てもらいます。芸人はナマモノなんで、刺激をしないと、ええ環境を与えないと腐ります。私も先輩に刺激してもらった。そういう立場になってきたので、やってみようかなあと。

 ――映画には田宮二郎さんや阪妻(阪東妻三郎)さんといった往年の名優が登場していますね。

 阪妻さんの「王将」なんて、改めて見ると、セットの後ろに汽車の音だけ入れて煙をポーッと通すだけで、汽車が通ったように演出してはる。このすごさ、お金をかけてないのに、ものすごく面白い。阪妻さんの演技力もすごい。「浪花の恋の物語」は、この間、NHKで「ちかえもん」というのを放送しましたが、それの基になったような話で、(中村)錦之助(萬屋錦之介)さんもきれいだし、有馬稲子さんも美しい。そんな銀幕のスターが輝いている時代の作品。ビデオで見ようとしてもなかなか手に入らなかったり、レンタル店になかったりする。銀幕のスターを映画館で楽しめるのはホントに至福の時やろなと思います。

 ――大阪を舞台にした作品の特徴はなんだと思われますか。

 なんで大阪もんっておもろいのやろと思ったら、やっぱり、根底は、自分の欲望に正直に生きようとしている人たちなんですね。それが、体制の中、システムの中でうまくいかないんですが、見る方は「ああ、そういう感情あるある」とか、「そういうことだよね」と共感するところが面白い。もちろん、社会性を逸脱したっていうのも問題はあるんですけど、でも、僕なんか笑いの現場におりますとね、一義的であるものに対して、貧しさを感じるんです。関西におりますと、ごちゃごちゃなんですが、多様性の面白みという価値観があっていいんじゃないの、ということを思わせてくれる。それがなんかおもろいなあと思ってるんです。

 ――私たちは「いいもの」「悪いもの」と分けたがりますが。

 分けたがりますよね。分けた方が安心なんだけど、どうも世の中、簡単ではなくて、もっと入り組んでいて、複雑で多様で、さまざまな考え方があります。それを笑い飛ばすパワー、エネルギーというか、それが関西のすごみだと思うので、そこは大事にしたいなと。(落語芝居で上演する)「らくだ」もそういう作品ですし、「壺算」もちょっとしたトリックですが、そういう面白さがある。「セレモニーホール 旅立ち」も、やればやるほど客が減るという矛盾を笑うという、武器商人と同じところがあって、武器商人も売れるほどもうかるのやけど、最後は客がいなくなるという、それが面白いなと。

 ――落語をご存じでない方でも楽しめそうですね。

 そうです。落語を知らん人は、へえ、そういうことやったんだと。見たらおもろいでしょうね。それをエンジョイしていただきたい。

 ――連休は大阪に行かなくても大阪を楽しめる?

 そうですそうです、混んでるとこに行かなくても楽しめる。中高年には懐かしくて、若い人には新鮮でしょう。僕は世代のバリアフリーと言ってるんですが、両方の世代が楽しめるような落語も作ってるんです。僕は話しやすい先輩らしいですよ、気取らないから、フッフッフ(笑い)。

 ――お若い頃の花月の先輩は優しくなかったのではないですか?

 優しい方もいらっしゃったんですよ。たとえば中田ダイマル師匠は僕らにはとても優しくて、NHKのラジオの収録で地方を回ったりすると、「文珍君」ゆうて可愛がってくれて、「こんなネタがある」って、バレネタばっかりでしたけれど、みな教えてくれる、それはありがたかった。みんなで食事して面白い話を言うてはったなあ。そして僕の反応を見ながら楽しんでおられましたね。強烈だったのは(横山)やすしさん。ずいぶん可愛がってくれました。芸に対する真面目なところだけを僕の前では見せようとしてたなあ。飲んでても、メモ用紙をポケットからパッと出して、思いついたギャグをチャッチャッと書いて、「よし、これをあした、キー坊(西川きよしさん)の前でやってビックリさせたろ」と僕の前でみんな見せてくれて、面白かったですね。

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 「神保町花月」では約100席の小さなスペースで人気者が落語をモチーフにした芝居を上演。古典落語の「らくだ」「壺算」、そして文珍さん作の「セレモニーホール 旅立ち」を、それぞれ芝居にした。

 「神保町シアター」では、「白い巨塔」(田宮二郎)、「浪花の恋の物語」(中村錦之助)、「エロ事師たちより 人類学入門」(小沢昭一)、「悪名」(勝新太郎)、「王将」(阪東妻三郎)といった、今ではもう見られない俳優が次々にスクリーンによみがえる。

 そして、三省堂書店神保町本店からは、映画の原作や文珍さんと対談する著者の本をそろえたブースを神保町花月に出店する。

 詳しくは、神保町花月(http://www.yoshimoto.co.jp/jimbocho/)、神保町シアター(http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/)を参照のこと。【油井雅和】

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