小野憲史のゲーム時評:異変起きる世界最大のゲーム展示会 大手2社が出展見送り

昨年米国で開催された「E3 2015」
1 / 1
昨年米国で開催された「E3 2015」

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、6月か開かれる世界最大のゲーム業界見本市(エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ)の異変について語ります。

ウナギノボリ

 ◇

 6月14~16日(米国時間)、米ロサンゼルスで開催される「E3 2016」。新機種や新作ソフトの発表が相次ぐイベントとして、毎年世界から大きな注目を集めているが、今年は異変が起きている。大手ゲームメーカーのエレクトロニック・アーツ(EA)とアクティビジョン・ブリザードが出展を取りやめたからだ。

 この2社が抜けることがどれだけインパクトがあるかは、影米業界団体のESA(エンタテインメント・ソフトウェア協会)が毎年発行する資料を見ると分かる。2015年の全米ゲーム販売ランキング(下記参照)を見ると、上位20位の7タイトルが両社のゲームで占められているからだ。両社の出展取りやめは、長く家庭用ゲームが中心だった業界の変化の象徴だといえる。

 もっとも、市場自体は堅調に推移している。ESAの資料によると2015年の全米ゲームソフト市場は165億ドル(約1兆7600億円)で、前年の154億ドル(約1兆6400億円)から7%増加した。低迷する家庭用ゲームのパッケージ売上に対して、スマートフォンゲームやPCゲームのデジタル流通分、家庭用ゲームのダウンロードコンテンツなどが押し上げた形だ。

 だだしその中身は大きく様変わりしつつある。家庭用ゲームのパッケージ流通額は53億ドル(約5600億円)から52億ドル(約5500億円)と微減する一方で、デジタル流通を用いた、それ以外の売上の割合が99億ドル(約1兆500億円)から112億ドル(約1兆1900億円)と13%増加している。2008年に117億ドル(約1兆2500億円)を記録した家庭用ゲームのパッケージ流通額も、今や半分以下だ。

 この変化がE3を直撃している。E3は年末商戦向け重点ソフトの流通向け商談会と、メディア向け宣伝イベントとして1995年にスタートした。しかし家庭用ゲームの大作化と発売タイトル数の減少や、デジタル流通の拡大で存在意義が揺らいでいた。数億円から数十億円とされる高額な出展費もネックで、今では新作の発表もネットを使えば、安価に情報を発信できるからだ。

 その一方で各社が力を入れ始めているのが、東京ゲームショウのように一般ユーザーを対象とした宣伝イベントだ。アメリカとオーストラリアで年4回開催される「PAX」は代表例で、会場には大手ゲーム会社のブースが立ち並ぶ。自社開催の単独宣伝イベントも各地で開催されており、動画配信サイトなどで世界に中継される。E3の出展を取りやめたEAも、期間中に隣接する商業施設で自社イベント「EA Play」を開催する。

 もっとも「E3 2016」の注目度は、まだ高い。任天堂が開発を明言している新型ゲーム機「NX」が、ここで発表されると見る業界関係者も多い。また、米オキュラスVR社の「リフト」をはじめ、一般販売が始まったVR(バーチャルリアリティ)製品や対応ゲームの出展も増加するとみられ、多くの関係者が足を運ぶのは間違いない。業界の変化にあわせてE3がどのような対応をとるか注目される。

 ◇2015年の全米ゲーム販売ランキング

(1)コール オブ デューティ ブラックオプス3(アクティビジョン・ブリザード)

(2)マッデン NFL(EA)

(3)Fallout 4(ベセスダ・ソフトワークス)

(4)スター・ウォーズ バトルフロント 2015(EA)

(5)NBA 2K16(2K/テイクツー・インタラクティブ)

(6)グランド・セフト・オート 5(テイクツー・インタラクティブ/ロックスター)

(7)マインクラフト(モジャング/マイクロソフト/ソニー・インタラクティブエンタテイメント)

(8)モータルコンバット10(ワーナー・ブラザーズ・インタラクティブエンタテインメント)

(9)FIFA 16(EA)

(10)コール オブ デューティ アドバンスドウォーフェア(アクティビジョン・ブリザード)

(11)バットマン:アーカムナイト(ワーナー・ブラザーズ・インタラクティブエンタテインメント)

(12)レゴ:ジュラシック・ワールド(ワーナー・ブラザーズ・インタラクティブエンタテインメント)

(13)バトルフィールド ハードライン(EA)

(14)ヘイロー5:ガーディアンズ(マイクロソフト)

(15)大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS/Wii U(任天堂)

(16)ウィッチャー3:ワイルドハント(CD Projekt RED)

(17)ダイイングライト(ワーナー・ブラザーズ・インタラクティブエンタテインメント)

(18)Destiny 降り立ちし邪神(アクティビジョン・ブリザード)

(19)NBA 2K15(2K/テイクツー・インタラクティブ)

(20)メタルギアソリッド5:ファントムペイン(コナミデジタルエンタテインメント)

ゲーム 最新記事