小野憲史のゲーム時評:「マインクラフト」なぜロングヒット? PSVita版が1年半かけて異例の100万本超え

ゲーム「マインクラフト」内で、小学生が実際に作成した建造物=ソニー・インタラクティブエンタテインメント提供
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ゲーム「マインクラフト」内で、小学生が実際に作成した建造物=ソニー・インタラクティブエンタテインメント提供

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、PSVita版で異例ともいえるロングヒットを続ける「マインクラフト」について語ります。

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 ゲームの「外側」をデザインすることは、ゲームの「中身」と同じくらい重要だ。1972年にリリースされ、大ヒットしたテニスゲーム「ポン」も同様で、片手で遊べるように作られていた点が重要だった。当時ゲーム機はピンボール機のように酒場に置かれており、ビールを片手に仲間内で楽しむ上で最適だった。筐体(きょうたい)が縦長で、立って遊ぶスタイルも、画面が周囲によく映えるため、自然と宣伝効果が高まった。

 仮想世界でブロック遊びが楽しめる「マインクラフト」も同様だ。マルクス・ペルソンさんが個人で開発したゲームが元で、2009年にPCゲームでリリースされると、世界中で大ヒットした。今ではスマートフォンや、ほとんどの主要家庭用ゲーム機に移植され、売り上げは累計数千万本とされる。日本でもPSVita版が累計で100万本を突破するなど(ファミ通調べ)、小中学生を中心に高い人気を誇っている。

 最も「マインクラフト」のようなゲームは、「日本ではヒットしづらい」と言われてきた。一つは日本人プレーヤーが「操作しづらい」と敬遠しがちな海外生まれのゲームであること。自由度が高い半面、日本で人気のPRGのような特定のストーリーや目的が存在しないこと。今や市場が縮小気味の家庭用ゲームであること……などがその理由だ。ところがPSVita版は2014年11月の発売から堅調な販売が続き、1年半をかけてミリオンソフトとなった。まさに「異例のできごと」と言えるだろう。

 ゲームの完成度もさることながら、これにはさまざまな「外側」の理由がある。第一にあげられるのが、スマートフォン版の存在だ。2011年に「ポケットエディション」としてリリースされ、日本市場で長く販売ランキング上位を保っている。ところがスマホの小さな画面では遊びにくく、より遊びやすい環境が欲しくなる。両親のスマホを借りて遊んでいた子どもたちが、快適なプレー環境を求めてPSVita版に流れたというシナリオだ。

 実際にPSVita版はダウンロード専売で発売され、好調な売れ行きを受けてパッケージ版が追加で発売された経緯がある。スマホゲームと同じように、ダウンロードで購入した層が初期需要を牽引(けんいん)したのだ。2015年12月には通常の2~4倍の売れ行きを見せ、プレゼント需要が大きかったこともうかがえる。さらに日本で最も売れる携帯ゲーム機の「ニンテンドー3DS」で未発売という点が、PSVita版に有利に働いたことも間違いないだろう。

 無線LANの家庭への浸透と、スマートフォン、PC、家庭用ゲーム機など、インターネット端末を用いた動画視聴の普及もある。総務省が2015年7月に発表した「通信利用動向調査」によると、半数以上の世帯が無線LANを導入している。「マインクラフト」の成功要因の一つに、作品の動画をユーチューブなどの動画共有サイトにアップロードして楽しむユーザーコミュニティーの存在がある。これらが無料の宣伝となっているのだ。

 メディアとのタイアップも重要なポイントだ。約90万部を誇る子供向けマンガ雑誌「月刊コロコロコミック」(小学館)では2014年秋から断続的に特集が組まれており、2015年12月にはユーチューブの公式チャネルもオープンした。テレビ番組「おはスタ」(テレビ東京系列)でもレギュラーコーナーとして取り上げられた。子どもたちの間でのブームをみて、PSVita版を国内で発売するソニー・インタラクティブエンタテインメントの立ち回りもうまく働いた。

 ゲームを取り巻く環境には、無線LAN環境の普及をはじめ、運やタイミングの要素もある。しかし作り手側としては、こうしたゲームを取り巻く環境を分析して、「売るための仕組み」につなげていくことが重要だ。言い換えれば「マインクラフト」のPSVita版の国内ヒットはプロデュースワークの勝利だともいえる。子どもたちの口コミから始まったムーブメントを生かし、今後も盛り上げていけるか、関係者の手腕が期待される。

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