劇団四季の「オペラ座の怪人」名古屋公演が8月21日に千秋楽を迎える。上演中の劇場「新名古屋ミュージカル劇場」(名古屋市中区)は同公演の千秋楽をもって、17年におよぶ劇団四季専用劇場の役目を終えるため、同劇場での公演は今回が見納めとなる。ヒロインのクリスティーヌ・ダーエを演じる久保佳那子さんに同作の魅力や見どころ、同劇場の思い出などについて聞いた。
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「オペラ座の怪人」は19世紀中頃のパリ・オペラ座に住み着いた怪人と、歌手クリスティーヌ、その幼なじみの貴族ラウルが織りなす愛の物語。「Think Of Me」「The Music of the Night」など広く知られた曲も多く、劇団四季の代表作の一つでもある。
久保さんは、大阪音楽大学で声楽を学んだ後、高校で音楽の非常勤講師を務め、2011年に四季のオーディションに合格。12年に「サウンド・オブ・ミュージック」のアンサンブルで、四季の初舞台を踏んだ。15年に新名古屋ミュージカル劇場でスタートした公演でクリスティーヌ役としてデビューした。
久保さんにとってクリスティーヌは初の大役だったからこそ、強い思い入れがある。
「オペラ座の怪人は、四季の中でも長く上演され、大切にされている作品。そういう作品で、最後を締めくくるのは大きな意味があると思います。最後の作品に関われたことを考え出すと、すごくプレッシャーを感じてしまうので、あまり考えないようにしていたんですけど……。今まで歴代にいろんな方々が演じていて、その中で誰かのまねをするのではなく、原作や台本に忠実に、自分で思うクリスティーヌをやろうという意識が強くありました」
「オペラ座の怪人」は翻案ものも含め、数々の舞台、映画などが作られてきた。2004年にジェラルド・バトラーさんが怪人を演じた映画も大ヒットしている。
久保さんは四季ならではの見どころを、作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバーさんが手がけた1986年の「初演版が見られること」を挙げた。「世界で、初演バージョンを上演しているのは四季だけなんです。ほかではアレンジされていたり、セット、かつら、衣装が今風に変わっていたり……。四季は最初のままを大切にしていますね」という。
またロングラン公演で、一つの役を、複数の俳優が演じるのも、国内では四季ならでは。同じ台本、演出でも「ファントム(怪人)、クリスティーヌ、ラウルを演じる人によって作品が“全く”変わりますね」といい、「言葉を一つ一つ、大切に届けなければいけないと、毎日そのことを一番気をつけています」と語った。
自身が初めて四季のオペラ座の怪人を見たときは、「生で見ること、音楽の迫力と……、冒頭のオークションのシーンが終わって、いろんなシーンの幕が徐々に上がってオペラ座になっていくところで感動して泣いちゃった」という。そして「繰り返して見れば見るほど、曲と演出と衣装と、役者の歌が重なって、オペラのような、ミュージカルのような、お芝居のような……。総合芸術」と思いをはせる。
友人に「映画を見てから舞台を見に来て」と言うこともあるそう。ストーリーを追うだけではない魅力にあふれた作品だということを物語っている。
「オペラ座の怪人」で最後を迎える新名古屋ミュージカル劇場は、劇団四季の東海エリア初の常設劇場として1999年にオープン。「キャッツ」「ライオンキング」などさまざまな作品を上演した。跡地はビジネスホテルになる予定だ。
「悲しいですね。自分がクリスティーヌ役でデビューした劇場がなくなってしまうというのは、ものすごく寂しい」と寂しげな表情を見せる久保さん。同劇場での思い出を「(観客を含め)周りの人たちが温かいです。クリスティーヌ役でデビューしたときも、拍手に支えられました。スポットライトを浴びていると、お客様が見えないので、温かい拍手を送ってもらうと、すごく力をもらえます」と笑顔で振り返る。
さらに「毎日、1回、1回を、全身全霊で演じたい。そして最後があるからこそ、もっと1回、1回を大切に演じていきたいと思います」と千秋楽へ気持ちを新たにしていた。
<プロフィル>
くぼ・かなこ。兵庫県出身。劇団四季に入団する以前にも劇団に所属し、ミュージカルをはじめとする舞台へ出演した経験がある。2011年10月にオーディションに合格。12年の「サウンド・オブ・ミュージック」で四季の初舞台を踏んだ。ディズニーと四季のコラボ作品「リトルマーメイド」にも出演。
*……劇団四季の「オペラ座の怪人」名古屋公演は千秋楽までのチケットを発売中。今年10月16日に新たな専用劇場「名古屋四季劇場」(名古屋市中村区)をオープンする。オープニング作品は「リトルマーメイド」でチケットは7月31日から一般発売される。