片思いをテーマにした八つの恋愛エピソードを描くオムニバス映画「全員、片想い」が全国で公開中だ。俳優の加藤雅也さんがパーソナリティーを務めるFMヨコハマの番組「BANG!BANG!BANG!」をきっかけに、小説投稿サイト「E★エブリスタ」と共同で募集した片思いがテーマの小説の中から選出された4本と、映画オリジナルストーリー4本を映像化。性同一性障害の韓国人留学生(知英さん)の複雑な思いを描く「片想いスパイラル」(原桂之介監督)で、主人公のソヨンを演じた知英さんに話を聞いた。
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知英さんは韓国人留学生ソヨン役で“イケメン女子”という男装姿を披露しているが、「自分の中ではすごく大きな挑戦でした」と言い、「今回は性同一性障害の役で、体は女性だけれども心は男なので、撮影中は『自分は男だ。男だ』と、ずっと思いながらやっていました」と振り返る。
男っぽさを出すため、「歩き方や声」などを意識したという知英さんは、「(ソヨンが恋する)相手のユキ(佐津川愛美さん)と初対面であいさつするシーンでは、『もうちょっと手を大きくガッと開いて出したりすれば、男性っぽく見えるのかな』とか、そういうところも意識しながらやりました」と説明する。さらに撮影現場で見かけるスタッフの動きなども参考にしたといい、「監督とも『こういうとき男性だったらどうします?』みたいな会話はよくしました」と明かす。
自身の男装姿については、「今でも写真を見たら、『これ知英!?』という声が多くて、みんなびっくりしてる(笑い)」と満足げな表情を浮かべ、「母や父は『息子ができた』とか冗談で言っていました(笑い)。そのぐらい本当に新しい姿だと思います」とほほ笑ましいエピソードを語る。
内面的な部分では「難しかった」というが、「ソヨンは韓国人留学生で、自分らしく生きるために日本に来たみたいなせりふがあるのですが、そういうところが自分にちょっと似ているところもある」と自己分析。そして、「自分を探して成長していくという物語になっているので、この作品が終わってから自分がもっと強くなった気がしますし、短い期間でしたがこの役に本当に愛情があります」と充実感をにじませる。
「片想いスパイラル」ではソヨンがユキに片思いし、TAKUYAさん(CROSS GENE)演じるソヨンの男友だちの一が、ソヨンに片思いしているという設定だ。「3人とも片思いで三角関係になっているというのが、また面白い」と知英さんはほほ笑み、「ソヨンが一に『男は愛せない』というせりふがあり、一を傷付けるかもしれないけれど、(ソヨンが)自分の道を選んだというのはすごく大きな決断だと思います」とソヨンの心情に共感する。
ユキ役を演じる佐津川さんの印象を、「佐津川さんは本当に可愛らしい方」と言い、「ソヨンが片思いする相手ですが、女性から見ても本当に可愛い方なので役にもすごく入りやすかった」という。続けて「彼女の仕草とか見ていても可愛いなと思ったから、撮影中は佐津川さんに“恋に落ちた”と言っても構わないぐらい楽しかったです」と笑顔を見せる。
特に印象に残っているシーンは、「(ソヨンが)ケンカでけがをして家に帰ってきて、一人でベランダに座っているところ」といい、「ソヨンとしては一ともユキともいろいろあって、自分もまた葛藤が……というときに、ユキに『大丈夫?』と聞かれて、大丈夫ではないのに大丈夫と強がってしまう。でもそれがあったからこそ、自分がこれからどうするべきか、これでいいかもといった心境に(ソヨンが)なっていった気がする」と同シーンの意義を分析する。
知英さんの思い入れは強く、「撮るときも現場で監督と佐津川さんと悩んで悩んで撮って、1時間ぐらい押したりもしました」と明かし、「段取りもやったのですが、いざ本番となったら、どうもしっくりこなくて。それで相談しながら撮りましたし、すごく大事なシーンだと思ったので、そのシーンは好きです」と感慨深げに語る。
今作は全部で八つの片思いエピソードが描かれるが、「全部よかったんですけれど、特に『僕のサボテン』(が気になる)」と知英さんは言い、その理由を「普通にありそうな片思いで、自分は会社に通っていないから、片思いというか、そういう感じの恋はどうなんだろうなと、すごく気になりました」と説明する。
さらに「あとは『MY NICNAME is BUTATACHI』も、幼ななじみにありそうな感じで、普通の恋愛、普通の恋がすてきだなと思いながら見ました。私の作品もそうですが、ちょっとファンタジー的な感じものがある中で、その二つがちょっと記憶に残っているかな」と話す。
今作の題材である片思いについて、「切ないけれど、片思いはすごくすてきだと思います」と言い、「片思いで、もしうまくいったら両思いになるし、だめでもまた新しい恋を探していくみたいなのもいい。片思いはいくらでも妄想や想像ができる」と理由を説明。続けて、「女性は片思いをした方がきれいになると言われています」と“恋愛あるある”を持ち出し、「両思いだと、『君は可愛い』とか、『ありのままでいいよ』とか言われて(男性に)甘やかされちゃうから、片思いのほうが『きれいになってあの人の前に』という思いが強くなるかも」と女性ならではの意見を述べる。
そんな知英さんの理想の男性像は、「面白い人が好き」ということだが、「この映画が終わってから思ったのは、やっぱり恋愛に関しては素直じゃないとだめだなということ」と今作を通じて気付いたという。「(映画は)いろんな物語がありますが、『ここで言うべきだったでしょう』とか、『なんで言えないの』と思う。だから正直になった方がいいなと思いましたし、個人的には面白い方が好きですけど、一番は素直になれる人」と話す。
今作での男装姿や「暗殺教室」での役も記憶に新しいが、現在チャレンジしてみたい役について、「これもラブストーリーですけれど、ラブコメとか片思いじゃないラブストーリー」といい、「普通の女の子のラブストーリーをやってみたいなと思います」と思いをはせる。ラブストーリーをよく見るという知英さんは、その魅力を「ラブコメなど、いろいろあるけれど、ドキドキさせて最後はああよかったと笑いながら終わるのが気持ちいい」と語り、「だから自分もそういう映画に出てみたい」と目を輝かせた。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1994年1月18日生まれ。韓国出身。元「KARA」のメンバーで2014年から女優業に専念。「地獄先生ぬ~べ~」(日本テレビ系)や「ヒガンバナ~女たちの犯罪ファイル~」(日本テレビ系)、「民王」(テレビ朝日系)といったドラマのほか、映画「暗殺教室」(15年)などに出演。劇場アニメ「名探偵コナン 業火の向日葵」(15年)で声優を務めた。16年には「JY」名義で歌手としてソロデビュー。2枚目のシングルで、桐谷美玲さん主演の7月期“月9”ドラマ「好きな人がいること」(フジテレビ系)の主題歌を担当。9月にミュージカル「スウィート・チャリティ」で初舞台・初主演が決定している。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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