小野憲史のゲーム時評:「ドラゴンクエスト」の圧倒的なブランド力 「堀井節」の真骨頂

「ドラゴンクエスト11」の会見に登場したゲームクリエーターの堀井雄二さん(右)
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「ドラゴンクエスト11」の会見に登場したゲームクリエーターの堀井雄二さん(右)

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発と産業を支援するNPO「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は「ドラゴンクエスト」シリーズについて。

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 国民的コンテンツの「ガンダム」と「ドラゴンクエスト」には共通点がある。シリーズの本編で固定ファンをつかみ、そのブランド力を活用して実験作で新規ファンを開拓するというものだ。多様なメディアで戦略的にプロデュースし続けることで、コンテンツを活性化させ、コンテンツの寿命を延ばしている。

 今年30周年を迎えた「ドラゴンクエスト」。今回は“真打ち”の「11」の前に、さまざまなシリーズのゲームが出ているし、ゲーム以外のイベントやアトラクション、テレビ番組と盛りだくさんだ。最後を飾るのは、7月29日に発売される最新作「ドラゴンクエスト11 過ぎ去りし時を求めて」なのは言うまでもない。

 30年間のユーザー体験はさまざまだ。「1」~「6」はドット絵、「7」と「9」は3D、「8」と「10」はリアルな頭身のCGといった具合。ファンの間で好みが分かれる。そこで「11」ではシリーズで初めてPS4とニンテンドー3DSでの同時発売。上記3種類のビジュアルを用意した。3DS版でドット絵と3D画面、PS4版でリアルなCGにしたというわけだ。

 ただしグラフィックが変わっても“核”は変わらない。それがゲームクリエーターの堀井雄二さんが生み出す「堀井節」と呼ばれる、ゲームならではの物語体験だ。これまで多くのRPGが登場する中で、「ドラゴンクエスト」は特に「プレーヤー=主人公」という関係性にこだわってきた。最初に名前を入力させる、主人公自身はしゃべらない……などはその好例。今回は主人公を「勇者の生まれ変わり」に設定し、タイトルロゴも「1」を思い起こさせるデザインにしている。シリーズユーザーの多様な「ドラゴンクエスト」の体験に「11」で“横串”を通そうというわけだ。

 4月14日の発表会で明かされたパスワード「ふっかつのじゅもん」の復活も、同じ文脈で語ることができる。「ふっかつのじゅもん」は、セーブ機能がなかったファミコン版「1」「2」の仕様。「11」でも機種間でゲームの大まかな進行状況を共有できるほか、「1」「2」の「ふっかつのじゅもん」にも対応する。

 ユーザーの利便性を高める上でも、プロモーションとしても、ゲーム離れをしたかつてのファンを引き戻す上でも有効な手法で、このアイデアが飛び出すあたりが「ドラゴンクエスト」の強みといえる。今後スマホゲームとの連携などにも広げられることが想定されるが、今回だけの試みで終わるかどうかも含めて注目どころだ。

 「堀井節」の真骨頂は「そんなところまで先回りして準備していたのか」とうならせるような繊細な気配りにある。4月の発表会後にはネットでファンが「2機種で3回クリアする」というコメントと共に「全部制覇したら、何か“ごほうび”があるかも」という淡い期待の声もあった。「何もないかもしれないが、もしかしたら……」と、ゲーム本編とは関係のないところでも、ユーザーの想像をかき立てて楽しんでしまう。

 人気ゲームのシリーズでも人気を保ち続けることは大変。シリーズの作品ごとに作者が違うことは珍しくない。そんな中で「ドラゴンクエスト」シリーズは、堀井さん1人を中心に30年かけ、ぶれずに築き上げてきた。この継続力こそがブランド力の源泉といえる。

 ◇プロフィル

 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫3匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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