高橋陽一:100巻到達 キャプテン翼は「マンガ家としてのライフワーク」 

「キャプテン翼」の作者・高橋陽一さん
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「キャプテン翼」の作者・高橋陽一さん

 コミックスの累計発行部数が7000万部を誇る高橋陽一さんのマンガ「キャプテン翼」シリーズが、作品の誕生から36年でコミックス100巻に到達した。初代の連載開始時には、主人公・大空翼のスーパープレーがサッカー後進国日本にサッカーの魅力を伝え、アニメは世界各国でも放送されて影響を与えた。ファンを公言する一流プロ選手は今でも世界に多い。作品の魅力と今だから明かせるエピソードを高橋さんに聞いた。

ウナギノボリ

◇中学生編は「日向の勝利」も考えた

--「キャプテン翼」で伝えたかった思いとは。

 「夢を持って頑張る」ということです。翼は、世界一のサッカー選手、そして日本のワールドカップ(W杯)優勝を目指すわけです。(連載初期の1980年代前半は)当時の日本はサッカーは盛んでなく、プロリーグも無かったのですが、こんな面白いスポーツがあることを伝えたかった。当時は、マンガでサッカーのルールを勉強した人もいるのかな。サッカーのスポーツとしての楽しさを伝えることに貢献できたのかなと思います。

--作品が36年続いた理由は。

 キャラクターたちの魅力が色あせてないこと、それとファンが好きでいてくれたからでしょうか。小学生編の全国大会で、プレーヤーたちの個性が確立された気がします。小学生大会(のストーリー)は、計算通り。(翼のいる南葛の)明和戦の敗北もそう。野球のトーナメントと違って、ワールドカップも同じように一度負けても優勝できる。決勝で(南葛は明和に勝利して)借りを返した形になります。

--翼の師匠・ロベルト本郷の帰国も計算通りですか。

 小学生編で各キャラクターが立ってきて、もう一度彼らを中学生編で戦わせたいとなったわけです。そのためには、ロベルトが翼をブラジルに連れて行かない方が良いわけです。連載当時、人気が無いと打ち切りがありましたから、打ち切られたらブラジルに連れて行かれるという流れでした。おかげさまで小学生編の人気が衰えず、ああいう(ロベルトの単独帰国という)形になったのです

--中学生編は。

 最初は「翼を優勝させよう」とさせていたけれど、(ライバルの)日向も頑張っていたので……。うーん、計算してなかったと思う。迷っていて、(翼が)日向に負けちゃってもいいのかなと思っていた。キャラクターが(自分の想像の)上をいっていた。

--キャラクターのコントロールが難しい?

 実は新キャラクターを作って、立たせようと思っても“邪魔”をするんですよ。例えば井川という新キャラクターを日本のDFの柱にしようとしたのですが、(昔から活躍している)次藤君への思いがあったりして……。最初からいるキャラクターに勝てない。追い越せないですよね(笑い)。

--昔のキャラクターが強いのはなぜ。

 やはりファンは昔のキャラクターを好む傾向はありますね。(シリーズ初代に登場していない)新キャラクターで定着したと思うのは、葵新伍(あおい・しんご)。今気にしているのは、(セグウェイドリブルで話題になった)ミカエルですね。「翼と戦うとどうなるのかな」と自分の中で興味を持っています。

◇週刊連載はキツくなかった

--連載を続けるポイントは。

 煮詰まるときもあるので、そのときはスイッチを切って遊びに行ったりします。リフレッシュしたところでスイッチ入れ直すわけですが、休みになると描きたくなることもありますね。僕はネームも手も速いし、当時は20代で体力もあったから週刊連載はキツくなかった。4日で仕事を終えて3日遊ぶとか……。今は(体力的に)戻れませんが。

--連載時に困難はありましたか。

 「キャプテン翼 ワールドユース編」ですね。途中で打ち切られたので、そのときはつらかった。でも他の作品でも打ち切りはあったので、それはそれで仕方のないことと思いました。自分をダメと思わず、あきらめず、次の作品で盛り返そう……と。そうやって頑張ってきたのが生き残った理由ですね。立ち直るスピードはあるのかも。マンガが好きというのもあると思います。

--挑戦したいことは。

 連載は(体力的に)キツくなっているのですが、絵を描くことは好きなので、ずっと何かしらの絵は描いていたい。また原画展はやっていきたい。展覧会用の大きい絵では、マンガと違う表現方法があるなあと。

--マンガの仕事をやって良かったと思う瞬間は。

 満員電車に乗らなくて良かったこと、自由に時間が使えることですね。会社勤めだとそういかないので。自分の好きなことをしているから、それで幸せと思います。自分の天職として選んで間違いじゃなかったのかな。

◇原稿一度も落としたことはない

--マンガを描く上で大事にしていることは。

 締め切りは守る。おかげさまで原稿を落としたことがないので。ただ“芸術家”としてはどうかなと。「“芸術家”は、締め切りを気にしないのかな」と思わないでもないですが……。(笑い)

--若い読者から反応は。

 当時読んでいたお父さんが「自分の息子に読ませた」「息子がハマっています」という声は聞きます。世代を超えているのはうれしいですね。

--シリーズの連載は、どこまで続けるのでしょうか。

 今は五輪の話(キャプテン翼 ライジングサン)を描いているので、それを盛り上げて終わらせたい。その後は白紙ですが、漠然と考えると翼が「W杯優勝」と言っているので、W杯なのかな……。今は「ライジングサン」を描き切ることを考えています。

--ずばり、高橋さんにとっての「キャプテン翼」とは。

 マンガ家としてのライフワークです。旅行に行っても、(旅先で)作品を知ってくれているのはうれしいし、そういう意味では、翼くんに感謝しています。

「キャプテン翼」なども展示される「週刊少年ジャンプ展」が7月18日から東京都港区六本木6の森アーツセンターギャラリーで開催される。8月18日からは舞台「超体感ステージ『キャプテン翼』」も六本木5のZepp ブルーシアター六本木で上演される。

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