宇宙戦艦ヤマト2202:小野大輔、福井晴敏に聞く第3章 「古代の愛の表現や生き方に共感」

アニメ作「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」で古代進の声優を務める小野大輔さん
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アニメ作「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」で古代進の声優を務める小野大輔さん

 人気アニメ「宇宙戦艦ヤマト」の最新作「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」の第3章「純愛篇」が14日から上映される。「2202」は、2012年公開の「宇宙戦艦ヤマト2199」の続編で、引き続き主人公・古代進の声優を務めるのが声優の小野大輔さんだ。シリーズ構成と脚本を手がける福井晴敏さんと小野さんに、第3章の見どころやアフレコの様子などについて聞いた。

ウナギノボリ

 ◇本当に福井さんは「ひどい人(笑い)」

 ――第2章「発進篇」がヤマトのピンチで終わりましたが、第3章はどのような展開になるんでしょうか?

 福井さん 第3章「純愛篇」の予告にもあった通り、ヤマトの頭上にはガトランティス増援艦隊の大群が現れて、それを前にして波動砲を使うのか、決断が迫られます。古代にとって波動砲を撃つという行為は魂に対する裏切りになる。自分の魂、(元艦長の)沖田さんの魂、そして地球の恩人であるスターシャに対してもそうです。彼が何を納得して、あるいは納得できずに引き金を引くのかどうか……。そこがまず最初の見どころになってくると思います。

 小野さん 古代は幾度も選択を迫られていますが、第3章は特に「古代、選べ!」となっていて、そこはずっとつらかったですね。演者としても一個人としても、古代の気持ちになると、かわいそうで仕方がない。本当に福井さんはひどい人だと思います(笑い)。

 ――アフレコの様子は?

 小野さん クラウス・キーマン役の神谷浩史さんは印象的でした。キーマンは一言で言えば「暗躍しているんじゃない?」と思える人物です。ですから、先のことを分かっていないと演じられない役柄だと思うんです。それで神谷さんが、福井さんに熱心に質問をしていたことが印象的でした。アフレコブースを出てまで、質問をしていました。それが、「オレは知りたいんだ」と行動するキーマンの役柄然としていたし、現場の士気を高めるファクターにもなっていました。

 面白かったのは森雪役の桑島法子さんです。雪はストーリー上、少し出てこない期間がありますので、桑島さんもその間アフレコがお休みでした。だから、やっと出てきたテストの際に、「2カ月ぶりですね」みたいなアドリブを入れていて、雪っぽいなと(笑い)。これだけ登場しないと雪もすねるはずで、ああ、やっぱり長い旅を続けてきただけあって、役のままに見える。そこがすてきですごいなあ……と思えました。

 福井さん 今回は平たい言葉で言えば“泣き”の芝居が古代には多い。泣きといってもめそめそすることではなくて、感情の発露で立っていられないという芝居です。アニメはやはり絵なので、長回しで一人の動作を追うことは避けて、どんどんカットを切り替えて話を動かしていくのですが、今の作画技術であれば、もっと踏み込めると感じていました。第7話や第9話には、そういうシーンがあります。

 小野さん 第7話の古代が迷うシーンですが、迷いと不安が極限状態になって、沖田さんの魂に、ある意味すがるんです。古代がここまで自信をなくしてしまっていいのか?と思っていたら、福井さんがアフレコに来てくださって、「迷っていいです。情けないくらいやっていいです」と言われたので、タガが外れました。古代って、こんなに泣くかなと思ったのですが、思い出してみれば「2199」の最後で、みっともないくらい泣いているんですよね。彼のメンタリティーは、衝動が発露したときはなりふり構わない部分も持ち合わせているんですよ。

 ◇僕=古代としてはつらいなあ

 ――第3章のサブタイトル「純愛」の意味するところは?

 福井さん 愛というのは、それこそ「愛は地球を救う」であって、輝かしい部分もあるのですが、半面怖いものも含んでいます。世界を見渡せばさまざまな事件が起きていますが、それも間違いなく愛のもとでやっているわけです。でも「そういうことじゃない、愛する人のためだけで人間はいいのではないか?」と言っていたのが(1978年に公開された)「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」だった。

 しかし、その愛する人のためということも、結局はエゴに転換してしまうのではないか? 第3章「純愛篇」は愛の輝かしい部分を描いていますが、今後は愛の暗い部分も出てくることになると思います。その両面を描くことが大事なのです。ズォーダーはその問題点を非常によく分かっていて、今後もそういう描き方をしていきます。第3章はその所信表明みたいな回ですね。そういう意味では、実はちょっと皮肉なタイトルです。

 小野さん 違う愛も描くからこそのこの時点での「純愛篇」となると、僕=古代としてはつらいなあと思いました(笑い)。ただ、古代としての愛の表現や生き方は、僕は共感ができています。人が好きとか、何かが好きというのは突き詰めていくと理屈ではないと思っていて、理由は後付け。それを俯瞰(ふかん)して問いかけてくる存在も必要だとは思うのですが、ただそれに対してはやっぱり、理屈抜きで「俺は好きなんだ」って、胸を張って言えるかなと思います。

 福井さん 古代は、これまでのヤマトではある意味ヒーローだったのですが「2202」の古代は人間です。その“人間・古代進”は、“決断”とまでも言えない……とっさの反射によって大きく背負ってしまうものもあります。「人間ってやっぱりこうしちゃうんだよ、とっさには」ということです。逆に言えば、人間のそうしたところを、覚悟して受け止めた上で何をするか、ということだと思うんですよね。そのあたりは深く描いています。ヤマトってもともとそういう人の深層にリーチしようとしていたアニメなんじゃないかと感じますしね。

 小野さん 面白いですね。面白いけれども(古代は)つらい(笑い)。時代を映し出していますよね。福井さんがそのように描いているからというのが大きいと思いますが。

 ――最後に、第3章の一番の見どころを教えてください。

 福井さん “芝居”ですね。役者さんの芝居をすごく粘って録(と)っています。絵も、実は相当リテークがあって、熱を入れて描き直しなどが行われています。もちろんヤマトらしいメカのアクションやスペクタクルもあるのですが「アニメーションってこれくらい突っ込めるんだ」というところの一端を見ていただけるといいなと思います。ストーリーとしても、方向が見えてきます。第2章までの「2202」は「2199」の続きであり、「さらば」かもしれないし「2」かもしれないしという、言ってみれば3要素の中の複雑な経路をどうやって渡っていくのか?という答え合わせをしてきた部分がありました。第3章からは、それらがクリアできたのは分かったけれど、どこに向かうの?という部分が、初めてちょっと明らかになるのかなというところですね。

 小野さん 福井さんに“芝居”とおっしゃっていただけましたし、僕もそこなんだなと実は思っていて、完成直前の映像を見てゾクゾクしたんです。生の感情がそこにある気がして。ヤマトはSFアニメですが、やっぱり生きているなって思える映像でした。生々しいまでの生を感じていただきたい。そこにはやっぱりアニメーションを作るすべてのスタッフさんたちの技術と“好き”という“思い”が詰まっていますので、皆さんにも感じていただければと思います。

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