岡山天音:朝ドラがもたらしたもの 「ひよっこ」のマンガ家役で注目の俳優が映画に続々出演

映画「おじいちゃん、死んじゃったって。」に出演した岡山天音さん
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映画「おじいちゃん、死んじゃったって。」に出演した岡山天音さん

 俳優の岡山天音さんが出演する映画「おじいちゃん、死んじゃったって。」(森ガキ侑大=ゆきひろ=監督)が4日にテアトル新宿(東京都新宿区)ほかで公開された。岡山さんは、9月に放送を終えたNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ひよっこ」でマンガ家の卵、新田啓輔役が記憶に新しい。3日に公開された「氷菓」(安里麻里監督)にも出演しており、続々と出演作が公開されている。映画「おじいちゃん、死んじゃったって。」について、また「ひよっこ」がもたらしたもの、さらに今後の抱負について聞いた。

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 ◇新鮮だった洋平役

 映画「おじいちゃん、死んじゃったって。」は、祖父の死をきっかけに、久しぶりに集まった春野家の面々が、ここぞとばかりに本音をぶつけ合い、その姿を通して人間の弱さやおかしみが描かれていくヒューマン作だ。女優の岸井ゆきのさんが、光石研さん演じる春野家次男・春野清二の長女・吉子役で主演し、吉子のいとこ・洋平を、岡山さんが演じている。洋平は、岩松了さん演じる春野家長男・春野昭男の息子で、引きこもりの浪人生という設定だ。

 「そうですねえ……甘えん坊という感じですね。(家族の中で)一番寂しがっているというか、相手に当たったり、相手を遮断したりするのは、家族のことが好きで、甘えたがっている気持ちの裏返しなのだと思います」と岡山さんは“洋平観”を語る。

 今でこそ、こういう洋平を演じることは、「自分の中ですごく新鮮でした」と受け止めているが、撮影当時は、洋平のような、内面が表に出ない役を演じ慣れていなかったため、戸惑いもあった。「初日に撮ったシーンが、葬儀が営まれる春野家に着いて、車から降りる場面だったのですが、そのときの(洋平の)ちょっとした動きが、自分の中で生理的に理解できないところがあったんです」と岡山さん。それを森ガキ監督に伝えたところ、「表からは何を考えているかちょっとつかみづらい人」とアドバイスを受け、「なるほど、そういう人なら自分も出会ったことあるな」と腑(ふ)に落ちたという。

 ◇血の通ったリアクションに感銘

 洋平の両親は離婚しており、父・昭男は見栄っ張りで、態度こそでかいが小心者。家を出た母・野村ふみ江(美保純さん)は、もはや自分は無関係だからと葬儀に出ようとせず、母と暮らす妹・野村千春(小野花梨さん)は、高校生のくせに酒もタバコもやり、いちいち物事の核心を突いてくる大人びた少女だ。そんな彼らの家族関係は、「僕は母子家庭で一人っ子なので、(家庭環境は)だいぶ違いますね」と話す岡山さんには、「完璧に知らない世界」と映った。その世界に触れ、「僕にも兄弟がいたり、父親がいたりしていたら、今の母親との関係性も全く違ったものだったんだろうなと思いました」と明かす。

 印象に残るシーンに挙げたのは、葬儀も終わり、身内だけの食事会が行われる中、父・昭男と、叔父にあたる清二が大げんかを始めるシーンだ。「あそこは(撮影に)時間がかかったこともあって印象に残っています。ただ、物語的にどうこうというよりも、僕が役者として面白かったのかもしれないですね」と振り返る。

 大勢が一堂に会するシーンの場合、誰か一人が目立ち過ぎてはいけない。かといって、ただそこにいればいいというわけでもない。「きちんとそこにいて、役として“生きて”いなければいけないのです。あそこは僕自身、他の方の芝居を見て、えっと驚かされたり、すごいなあと思ったりする場面でした。例えば、けんかをしている岩松さんと光石さんを見ている(清二の妻役の)赤間(麻里子)さんのお芝居とか、台本に書かれていないけど、その場のなりゆきで出た言葉や動きで、(フィクションなのに)これほど実在する場所に見えてくるんだと思いました」と語る。そして、「皆さんのテンプレートの芝居ではない、つまり、型にはまった芝居ではなく、その瞬間、それぞれのリアクションに血が通っていた」ことに感銘を受けたという。

 ◇人の「弱さ」と「限界」を痛感

 岡山さん自身、完成した作品を見て感じたのは、「人の弱さ」だった。「映画が始まった段階で、すでに父親の弱さが見えているんです。でも、洋平もそうですが、誰もがそういう側面、弱さとか、ずるさを持っているんだろうな」と共感を寄せる。その一方で、弱いのに虚勢を張り、家族に対して礼儀を欠く昭男を反面教師に、「僕は、母に対してもそうですが、自分が傷ついてもいいから、絶対に周りの人を大事にしよう」と肝に銘じたという。

 もう一つ感じたのは「人間の限界」だ。「この映画は、人が亡くなり、残された人たちのその後が描かれていますが、友達も家族も有限なんだなということ感じました。今までそういう事実を、大き過ぎるがゆえに、自分の中で避けてきた感じがあります。でもそれにガシッとつかまれ、向き合わされた感が改めてありました」としみじみ語る。

 ◇「ひよっこ」効果

 ところで、岡山さんといえば、9月に放送を終えた朝ドラ「ひよっこ」で、ヒロインと同じアパート“あかね荘”に住むマンガ家の卵、新田啓輔を演じていた。以来、外を歩いていると周囲の人に声を掛けられることが増えたそうだ。ただ、朝ドラ出演経験がある同じ事務所の先輩や友人から、そうなるという話は聞いていたため、岡山さん自身はうれしさより、「朝ドラに出たから」と冷静に受け止めているようだ。

 自身、売れっ子になった感覚や戸惑いも全くなく、「生活や考えの変化もあまり感じていません」という。むしろ、「いい言い方が思い浮かばないのですが」と断った上で、「気付かれることが多くなったとか、そういうことを基準にしたくないな、という思いがあります」と謙虚さをうかがわせる。

 ただ、母親は喜んでくれたそうだ。「母が、朝ドラがもともと好きで見ていたので、確かオーディションのときも、『母親に孝行したくて来ました』みたいなことを言いました。ですから、自分というより、母親が喜んでくれたことがうれしかったですね」と、ほころんだ顔に、孝行息子の一面がのぞく。

 ◇「進化」し続けたい

 どんな作品であろうと、「全部の仕事をきちんと思いたい」と真摯(しんし)に語る岡山さん。その上で、「ただ、進化はしたいという思いは常にあります」と打ち明ける。「進化については、本当にいろいろあります。精神面もそうですし、やっぱり、毎日毎日撮影していると、いろいろ気持ちが変わっていくのですが、それをどれだけスタートした時と同じに保っておくかということもそうですし、日常で、自分の中に何を(軸として)きちんと取っておくかということもそうですし。あとは、生活している中で、人として感じたこと、敏感さとかセンスみたいなものがもっと欲しいなという思いもありますし、本当に、いろんな意味での進化ですね。忍耐力も欲しいしですし、とにかく、いろんなメーターを上げていきたいと思っています」と力強く語った。

 <プロフィル>

 おかやま・あまね 1994年6月17日生まれ。東京都出身。2009年に「中学生日記シリーズ・転校生」(NHK Eテレ)で俳優デビュー。主な映画出演作に「合葬」「ライチ☆光クラブ」(共に15年)、「黒崎くんの言いなりになんてならない」「ディストラクション・ベイビーズ」「セトウツミ」(すべて16年)。17年公開作に「僕らのごはんは明日で待ってる」「帝一の國」「パーフェクト・レボリューション」。3日公開の「氷菓」に出演。公開待機作として「神さまの轍」(秋以降公開)、「愛の病」(18年1月公開)がある。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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