ドクターX:大門未知子は水戸黄門ではない… プロデューサーが明かす苦闘

連続ドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」の一場面=テレビ朝日提供
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連続ドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」の一場面=テレビ朝日提供

 女優の米倉涼子さん主演の連続ドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系、木曜午後9時)。第5シーズンとなった今回も、平均視聴率20%超えを連発するなど絶好調だが、大人気シリーズをスタート時から手がけてきた内山聖子ゼネラルプロデューサーは「今シーズンは立ち上がりからきつかった」「見た感じはいつも通りの『ドクターX』だが、制作側は苦しみながら作っている」と舞台裏を明かす。大ヒット作を生み出す苦労と制作の裏側を聞いた。

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 ◇水戸黄門的、ロボット的ではない…“揺れる未知子”を見せる

 「ドクターX」は、天才的な腕を持ちながら組織に属さず、フリーランスとして病院を渡り歩く天才外科医・大門未知子(米倉さん)を通して医療現場を描いた人気ドラマ。「いたしません」「私、失敗しないので」といった未知子の名ぜりふや、権威主義的な大学病院の中を“一匹オオカミ”の未知子が堂々とかっ歩していく痛快な展開などが受け、大人気シリーズとなった。

 それでも内山さんは「勢いに乗っていける時と、じっくりやらなければいけない時があった。5年以上やっていると波もあるので、勢いだけでノリノリにいけるわけではない。どこまで丁寧に『ドクターX』を詰めていけるかと考えると、今シーズンは立ち上がりからきつかったですね」と述懐する。

 これまでは「シーズン2なら競走馬のシーンから入って『医者は競走馬ではない、自分の頭で考えているんだ』とか、シーズン3なら『未来の数百万人を救うのではなく、目の前の人の命を救う』など、トータルのテーマを作っていて、そうしたテーマは自分の中でやり尽くしていた」と明かす。

 「大門未知子はいつの間にか、良い意味で“水戸黄門的”、“ロボット的”で、何でも治せる医者として捉えられている」と感じていたため、今回は「もう少し、“未知子の奥”を引っ張ってこよう」と考えたという。「実は、未知子の部屋は、これまで1回も見せたことがありません。彼女のテーゼは『人間である前に医者であり、医者と人間が同居している』ということなので、決してロボットではない。未知子の心の中とか、見せて良い部分と見せない部分をどうするかという案配は、今までは絶対に見せないと決めていたのですが、今シーズンはあえて“揺れている彼女”を見せています」と明かす。

 ◇クライマックスへ人間関係がうねり、完熟していく

 今シーズンは草刈正雄さん演じる日本医師倶楽部の会長・内神田景信、陣内孝則さん演じる外科副部長の猪又孝、永山絢斗さん演じる“ゆとり世代”の若手医師・西山直之といった新たな顔ぶれも加入。岸部一徳さん演じる名医紹介所の所長・神原晶と内神田がかつて友人だったことや、西山が内神田の“隠し子”であったことも描かれてきた。

 内山さんは「今シーズンは、未知子以外の人間関係にも触れています。血のつながりといった家族観もあまりやってきませんでしたが、今回は微妙に触れています。未知子が後輩を育てるとか、医者のスキルを継いでいくとか、世代交代とかも意識しています。見た感じはいつも通りの『ドクターX』なのですが、制作側は苦しみながら作るシーズンでしたね」と明かす。

 キャスティングについても「わかりやすい敵とかではなく、どういう案配でつなげていくかなど、今までの『ドクターX』ではやらなかったことも多い」といい、「8話、9話ぐらいから(未知子を中心とした医師たちの)人間関係がうねってきて、人間関係が完熟していく連続ドラマのようになってきます」と予告する。

 今回は「(永山さんをはじめ)若い人たちが多く出てきていますが、“大人と次世代”という関係を、医者や組織とどうつなげていくか」という部分をポイントにしており、これまでの視聴者層よりも若い「30代女性や若年層などにも見られていると実感している」と手応えを明かす。

 ◇ファンタジーにはしない…医療を扱う覚悟

 これまでに未知子はさまざまな難病や症例に立ち向かってきた。珍しい症例から話を作ろうと決めることもあるが、今は「こういうむちゃをして、最後は未知子に『私、麻酔もできるので』と言わせよう」という“逆算”で症例を探すことが多いといい、「スタッフはすごく優秀。下手な医者よりも診断できるかも」と笑う。

 難しい症例を取り上げるには、未知子を演じる米倉さんの力も必要で、内山さんは「米倉さんの(手技の)腕が上がってきていることも大きいですね。彼女は全て、医療の中身を理解しながら演じているんです。それは本当に素晴らしい」と絶賛する。

 医療を扱う難しさについて内山さんは「視聴者を無駄に傷付けてはいけないと思っています。未知子が何でも治せてしまうとファンタジーになってしまう。治らない症例を治すことはないように。未知子が何でもできてしまうと、視聴者にうそをつくことになってしまうので、少しでも可能性があることしか未知子はしていません」と説明する。

 ◇“失敗できない” ぶれない未知子がドラマ支える

 「ドクターX」は、今年人気を集めた「コウノドリ」や「コード・ブルー」などリアルな医師たちの奮闘を描いた作品とは対照的なスーパードクターの活躍のようにも思えるが、内山さんは「スーパードクターの場合は、オペに向かって準備することを見せないことも多いですが、彼女の『失敗しない』には、彼女の裏側にある“失敗できない努力”を見せているつもりです。なのでうそっぱちと言われることも少なく、このドラマが支えられているのだと思います」と分析する。

 シリーズを通じて「未知子がぶれるということは、一度もなかった。私の中では“大門未知子の確証”みたいなものがあって、それの根っこがぶれるということは、これまでにありませんでした」と自信を見せる。

 7日に放送される第9話の予告映像では「最終章!未知子VS内神田」と銘打ち、内神田が「フリーランスは排除します!」と声を張り、未知子も「患者の将来を潰していいと思ってんの!」と反論。さらに「最大の危機! 名医紹介所が閉鎖!?」という文字も躍り、ラストには未知子があおむけに倒れている衝撃のシーンも……。

 内山さんは「今までに見たことのない『ドクターX』の最終章をお届けします。大門未知子が完全無欠な人間だというのではく、人間であるというのが分かると思いますし、予想を裏切る展開もあります。『これじゃあもう、次はできないな』と思ってもらえれば、うれしいです」と思わせぶりに語る。クライマックスに向け、これまで以上に目が離せない展開が続きそうだ。

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