anone:広瀬すずの話題作 “裏の主役”田中裕子に絶大な信頼 プロデューサーに聞く(後編)

ドラマ「anone」の第1話のワンシーン=日本テレビ提供
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ドラマ「anone」の第1話のワンシーン=日本テレビ提供

 女優の広瀬すずさんが主演の連続ドラマ「anone(あのね)」(日本テレビ系)の放送が始まった。「Mother」「Woman」に続く同局と脚本家の坂元裕二さん、演出の水田伸生さんが手掛けるシリーズ第3弾で、第1話の放送前から注目を集めた。「うそ」をテーマにして、本物を世に問う同作の狙いについて、プロデューサーの次屋尚さんに聞いた。

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◇広瀬すず ベリーショートで提案も

 「Mother」の松雪泰子さん、「Woman」の満島ひかりさんに続く今回の主役には、若い人、10代のヒロインを起用したいという坂元さんの希望があった。その候補に上がっていた広瀬さんに打診したところ、すぐ快諾されたという。次屋さんは「『Mother』や『Woman』を好きと言ってくれる人は、いるんです。しかし広瀬さんに会うと、本当にドラマを見て、好きだったことが分かりました。DVDも持っていましたし。僕らもうれしかったですよ」と振り返る。

 それだけに広瀬さんは、当初は気負いもあったという。次屋さんは「彼女に言ったのは、そのままでいいということ。『あなたがもっている魅力をもらうよ』と伝えると、広瀬さんはうなずいたという。出演者も大御所が多く、広瀬さんは“座長”とはいえ最年少の存在だが、次屋さんも「彼女は一生懸命頑張っている」と太鼓判を押す。

 その熱意の表れの一つが髪形だ。ボブヘアのイメージが強い広瀬さんがベリーショートにしたことも話題を呼んだが、そこには広瀬さんからのアイデアも反映されている。そもそも、坂元さんが「今までの広瀬すず」ではないイメージを求めたといい、広瀬さんが髪を切るときに、坂元さんも次屋さんも実際に美容院に立ち会った。前髪だけ長くして「社会とのカーテン」を表現したアイデアは広瀬さんの提案で、水田監督も気に入って採用された。

◇“裏の主役”田中裕子 「起用は今後も決まっている」

 そして“裏の主役”というべき存在が、「Mother」「Woman」でもキーマンを演じた田中裕子さん。次屋さんは「田中さんの起用は、今後も(もし第4弾が)あれば決まっている。ドラマでは、田中さんと誰を組み合わせるかを常に考えている」とまで言い切り、絶大な信頼を置く。

 「Mother」のときは、民放の連ドラにはほとんど出演していなかった田中さんを口説くため、坂元さんがドラマの最後までを説明し、手紙まで書いて出演をお願いした。第2作「Woman」の時には、田中さんは「坂元さんと水田監督(がスタッフ)なら出ます」というほどの信頼を得た。

 そんな田中さんと広瀬さんが、スタッフをドキドキさせたエピソードがある。ロケで広瀬さんと田中さんが同じ狭い部屋にいたにもかかわらず、ほとんど会話がなかったためだ。次屋さんは「普通の19歳の女優であれば、普通は気を使って話しかけようとしそうなものですが、すずちゃんは平気。そして裕子さんもそれで平気なんです。たまにボソボソっとしゃべるぐらいで……。それが分かると、親子みたいに見える不思議な関係ですね。自然体というのでしょうか」と振り返る。

◇「記事、好きに書いて」異例の狙いは

 次屋さんが、会見中にメディアを驚かせたことがある。試写会の冒頭で「(今回の)記事、好きに書いてください」と言ったことだ。記事の内容に細かく注文をつけたり、記事の掲載時期に条件を付けるのが通例になっているだけに、次屋さんのようなケースはまれだ。会見でもはぐらかしたり、手の内を隠すようなことはなく、一つ一つの質問に正面からしっかりと答えていった。その真意について尋ねると「ドラマがみなさんにどう受け入れられるか、僕自身も知りたいから」と語る。逆に自信の表れともいえるだろう。

 だが次屋さんに油断はない。「坂元ブランドのファンもいるのも確かですが、その一方で放っておいても見られる作品ではないことも分かっています。正直『日テレ×坂元裕二 第3弾』とアピールするのは、個人的には恥ずかしいんですよ。でもそのキャッチコピーでドラマを見てくれる人が増えるなら、僕は迷わず言います」と言い切る。

 そしてテレビの“宿命”とも言うべき視聴率についても「僕も組織の人間なので、視聴率は大事ですし、スポンサーあってのドラマというのもある。しかし、そのためだけに仕事はしたくない」とも言う。このバランス感こそが名物プロデューサーと呼ばれるゆえんなのだろう。

 そして次屋さんは「坂元さんは現場で『これで最後にする』と言っているんですが、実はWomanのときもそう言ってました。ですがそれは覚悟がある……ということでしょう」と信頼する。anoneの第1話視聴率は9.2%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)で、人気作を数多く送り出してきた日テレの水曜ドラマとしてはほろ苦いスタートとなった。名物プロデューサーの奮闘は続く。

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