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名探偵コナン ゼロの執行人:“安室の女”が語るヒットの理由 「100億の男にしたい」義務感とは

アニメ コラム
女性ファンは、少なからず「安室さんのために興行収入を上げなければ」という義務感からも、複数回鑑賞をしていると考えられるのです。

 「名探偵コナン」シリーズ最高の興行収入を記録している「名探偵コナン ゼロの執行人」(立川譲監督)。空前の大ヒットとともに話題を集めているのが、劇中で活躍するキャラクター、安室透への熱狂的ともいえるファンからの支持だ。スピンオフマンガが掲載されたマンガ誌や表紙に採用したアニメ誌が完売したほか、SNS上でも安室を“100億の男にする(しようの)会”というハッシュタグが日々盛り上がっている。自身も“安室の女”になったという“オタレント”の小新井涼さんが、ヒットの理由と安室の魅力を考察する。

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 劇場版「名探偵コナン」が、ついに今年も興収歴代最高記録を更新しました。「コナン」といえば、元々大人から子供まで幅広い層に人気ということで、劇場版もここ数年は毎年のように興収記録を伸ばしていましたが、今年の映画「ゼロの執行人(ゼロ執)」の盛り上がり方は、いつもと少し違っています。表紙になった「アニメディア」(学研プラス)は創刊以来2回目の重版となり、スピンオフマンガ「ゼロの日常」が載った「週刊少年サンデー」(小学館)は売り切れ続出という“全国的な安室品薄状態”を生じさせるほど、例年以上に女性人気が高いのです。

 この安室というのは、本作「ゼロ執」のキーキャラクターであり、毛利小五郎に弟子入りしながら探偵事務所下の喫茶店でバイトをする私立探偵・安室透のことです。その正体は、コナンたちが追う黒の組織に“バーボン”というコードネームで潜入している公安警察で、本名を降谷零といいます。

 こうしたミステリアスな設定などから元々女性人気の高いキャラではありましたが、とはいえ、映画を観た女性ファンがこれほどまでに盛り上がり、公開からひと月以上たった今も、興収記録がさらに伸び続けているのは一体なぜなのでしょうか(以下核心的なネタバレはありませんが、本編内容に触れているので未鑑賞の方はご注意ください)。

 まず考えられるのは、本作が女性ファンに“媚(こ)びなかった”からだと思います。女性人気ばかりが話題になりがちですが、本作での安室はあくまでキーキャラクターとしての立ち回りに徹していて、物語は常にコナン中心に進んでいきます。容疑者・毛利小五郎を巡る事件に奔走するコナンの姿や、新一と蘭、小五郎と英理のもどかしい恋愛模様、警視庁の捜査や阿笠博士の発明、そして少年探偵団の活躍までもがたっぷり詰め込まれた、あらゆるコナンファンが楽しめる内容なのです。コナンの映画なのですから一見当たり前のように思えますが、これがもし、前々作「純黒の悪夢(ナイトメア)」以降の女性人気を意識しすぎて、安室を変に猛プッシュし、コナンたちの活躍を食ってしまうようであったなら、おそらくここまでの盛り上がりにはならなかったと思います。公式のあからさまなゴリ推しはファンの中でも賛否両論を生むため、元々のコナンファンだけでなく、「純黒」以降の女性ファンでさえ熱が冷めていた可能性も考えられるからです。

 その一方で本作は、どうぞご自由に解釈くださいとばかりに、安室の“自分より怖い男が2人いる”というセリフをさりげなく忍ばせることで、特定の女性ファンをうならせることも忘れてはいませんでした。あからさまな女性受けは狙わないけれど、ほんのりにおわせる程度には、女性ファンへの“罠(わな)”もしっかり仕掛けられているのです。そんな巧みな演出によって、本作は既存のコナンファンもこぼさず動員しながら、女性ファンを熱狂させることにも成功し、これほどの盛り上がりを生んでいるのだと思います。

 もうひとつの決め手は、なんといっても物語の終盤に出てくる安室の“例のセリフ”の存在です。予告映像でも話題になった、コナンの「安室さんは彼女いるの?」という問いに対する安室の回答のことですね。このセリフのすごいところは、既存のファンだけでなく、多くの新たな女性を“安室の女(安室に落ちた女性ファンの自称)”にしたのはもちろん、なによりそんな女性ファンたちを複数回鑑賞する義務感に目覚めさせたことだと思います。

 話題のハッシュタグ、“#安室透(降谷零)を100億の男にする(しようの)会”の存在からも分かるように、このセリフで“落ちた”女性ファンは、少なからず「安室さんのために興行収入(興収)を上げなければ」という義務感からも、複数回鑑賞をしていると考えられるのです。おそらくその心境としては、「安室さんは命を懸けて私たちを守ってくれている。つまり私たちが毎日平和に過ごせるのは安室さんのおかげ。そんな安室さんへの感謝と応援のために興収を伸ばすのはもはや国民の義務、いわばこれ(複数回鑑賞)は納税みたいなものなのだ」という感じではないでしょうか。現に私は、例のセリフを聞いた瞬間頭を抱え、安室さんへの感謝と共にそう思い至りました……。ともあれ、本作がここまでの盛り上がりをみせているのには、こうして女性ファンを複数回鑑賞に走らせた例のセリフの存在が決め手のひとつになっているのは間違いないでしょう。

 媚びずににおわせる程度の巧みな演出と例のセリフの存在、それこそが、本作が大ヒットとなり、女性ファンがこれほどまでに夢中になっている理由だと私は思います。

 さらに注目すべきなのは、本作が単なるヒットではなく、最初に安室人気に火がついた「純黒」以上の盛り上がりをみせていることです。過去、「おそ松さん」や「進撃の巨人」「KING OF PRISM(キンプリ)」もそうだったように、女性人気のジャンルでは、一旦人気が落ち着いた後に、再び初動以上の盛り上がりをみせるのはかなり難しいことでした。そんな中本作は、そうしたこれまでの女性人気ジャンルのジンクスを破り、「純黒」の興収63.3憶円どころか、シリーズ歴代最高記録までも更新する異例の盛り上がりをみせているのです。

 正直この「ゼロ執」は、最近の劇コナの評判や人気の安室関連のエピソードということもあり、それなりに“当たる”であろうことや、女性人気が高くなるというのは、公開前からある程度予想もされていたとは思います。しかしそうした予想をはるかに通り越し、まさかの100億円という数字が視野に入ってこようとは、一体誰が予想できたでしょうか。

 近年、社会現象にまでなった数々の作品からもうかがえますが、本気になった女性ファンの底力にはあなどれないものがあります。このままの勢いがあれば、女性人気ジャンルのジンクスを破った安室透という男は、まさかの100憶円というとんでもない奇跡を、本当に起こしてしまうのかもしれません。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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