菊とギロチン:瀬々敬久監督に聞く 東出昌大と寛一郎の「友情を感じた」

映画「菊とギロチン」について語った瀬々敬久監督
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映画「菊とギロチン」について語った瀬々敬久監督

 俳優の東出昌大さんと寛一郎さんが出演する映画「菊とギロチン」が全国で公開中だ。メガホンをとったのは、「ヘヴンズ ストーリー」(2010年)や、「8年越しの花嫁」(17年)や「友罪」(18年)などの作品で知られる瀬々敬久監督。映画のテーマである「自主自立」「自由」同様、今回の演出も「自由をテーマにした」と語る瀬々監督に、東出さんらの起用の経緯や撮影中のエピソードを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇寛一郎は「ほかの俳優にはない花があった」

 映画は、大正時代、実在したアナキスト・グループ「ギロチン社」と、実際に全国で興行されていた女相撲一座の交流を描いた青春群像劇だ。ギロチン社のリーダー、中濱鐵(てつ)を東出さんが、中濱の盟友・古田大次郎を寛一郎さんが演じている。

 ――寛一郎さんは、すでに「心が叫びたがってるんだ。」(17年)や「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(同)といった出演作が公開されていますが、演技は今作が初めてだったとか。

 寛一郎君とは、父親の佐藤浩市さんから俳優をやりたがっていると聞いて、一度会っていました。そのときに、「オーディションをやるから来なよ」と誘ったんです。でも、オーディションでは、まだあまり芝居はできなかった。ただ、彼には、オーディションに来たほかの俳優にはない“華”があった。主役として映える華が。それで彼に決めました。撮影前には、彼、相当練習しましたよ。それは、女相撲一座の木竜(麻生・まい)さんたちも一緒。彼女たちの中にも、演技経験のあまりない人たちがいましたからね。全員でリハーサルを結構やりました。

 ――リハーサルをやるのは、監督には珍しいことですか。

 珍しいですね、あそこまでみっちりやったのは。今回は、ギロチン社の連中が一つのフレームの中にごそっといるので、グループで練習してもらって、キャラクターをつかんでもらうことが重要でした。

 ――木竜さんは、乱暴な夫から逃げ、女相撲一座に加わる女力士・花菊を演じています。オーディションで木竜さんを選んだ決め手は。

 木竜さんは、どこか懐かしい顔をしているんですね。僕たちが忘れている「昭和」という感じを持っている。彼女が立っているだけで、背景に山とか丘といった田園風景が見えてきそうな気がするじゃないですか(笑い)。今の状況の中では稀有(けう)な存在ですよ。ほわんとした優しさがある一方で、目に強さがある。それに、彼女も俳優という仕事において、現状を打破したいという思いがあったと思います。

 ◇男性気質と歴史好きが決め手になった東出

 ――東出さんもオーディションだったのですか。

 東出君が演じる中濱鐵は、オーディションで探したり、著名な俳優に当たったりしましたが決まらなかった。そうしたら、東出君がちょうどその時期スケジュールが空いているという情報が入って、台本を1回読んでもらおうと送ったら即オーケーが出たんです。

 東出君は、割と優しげな役が多いんですけど、実は本人は男っぽい、男性気質なところがあるんです。役の中濱鐵に近く、気骨がすごくあるし、あと、歴史好きというのもあった。彼は、明治の志士の話とか好きなんですよ。司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」といった歴史小説を結構読んでいて、今回の話も、自分の興味からも入ってもらえたところがあります。世の中を変えたいと思いつつ、一方ではだらしないところもあるという、中濱の、そういう男子が好みそうな気質が、彼は好きなんです。

 ――相撲一座の親方役の渋川清彦さんも魅力的でした。

 渋川君は、彼が持つ“不良性感度”が決め手でした。親方って、ただ真面目なだけでもだめで、裏稼業もよく知っていなきゃいけない。そういう酸いも甘いも知った中で、最後に気骨を見せる。そういうものを渋川君は地の中に持っていると思うんです。あと、ちょっと古くさい言い方だけど、昭和的な顔をしていますよね(笑い)。

 ◇東出と寛一郎の友情感じた

 ――瀬々監督は、「アントキノイノチ」(11年)のとき、「渦中で撮る」、つまり“観察者”ではなく当事者として撮ることをテーマにしていました。今回はどういう思いで撮ったのでしょう。 

 今回は、「自由」ということをテーマにしました。僕は自主映画から入った人間です。そういう僕から見て、今の世の中はどんどん締め付けがきつくなっているように感じるんです。だからこそ、「自主自立」とか「自由」という意味合いがすごく重要だと思ったし、この映画を自主企画でやる意味があると思ったんです。ですから俳優たちにも、芝居はなるべく自由にやってほしいと思いました。「自由」が果たしてどういうことを定義するかは、なかなか難しいですけど、そういう雰囲気や思いが伝わる映画にしたかったので、態度としてはそこが基本だったような気がします。

 ――撮影中、印象に残った出来事は。

 寛一郎君が、なかなか芝居ができなくて、その後に予定されていた東出君の出番まで届かなかった日があったんです。そうしたら東出君が僕のところに来て、「瀬々さん、僕にできることがあったらやりますよ」って言ったのは、すごく印象的でしたね。翌日、東出君は寛一郎を連れて、レンタカーでドライブに出掛けたみたいです。その日は女相撲のシーンから撮っていたんですけど、東出君が寛一郎を現場に連れて来て、撮影を一緒に見ていました。それを見て、友情だなあと感じました。

 映画はテアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 ぜぜ・たかひさ 1960年5月24日生まれ、大分県出身。京都大学文学部哲学科卒業後、「獅子プロダクション」に所属し、助監督に。89年に監督デビュー。97年、「KOKKURI こっくりさん」で一般映画デビュー。「ヘヴンズ ストーリー」(2010年)は第61回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞と最優秀アジア映画賞の2冠獲得。ほかに「DOG STAR」(02年)、「MOON CHILD」(03年)、「感染列島」(09年)、「アントキノイノチ」(11年)、「ストレイヤーズ・クロニクル」(15年)、「64-ロクヨン-前編/後編」(16年)、「8年越しの花嫁 奇跡の実話」(17年)、「友罪」(18年)などがある。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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