串田和美:「勘三郎さんだったら何と言い返すかな」 コクーン歌舞伎演出家が舞台振り返る

「コクーン歌舞伎」の第16弾「切られの与三」の演出を手がけた串田和美さん
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「コクーン歌舞伎」の第16弾「切られの与三」の演出を手がけた串田和美さん

 古典歌舞伎を新演出で上演する「コクーン歌舞伎」の第16弾「切られの与三」が、WOWOWで12月8日に放送される。これを受けて、演出を手がけた串田和美さんがコクーン歌舞伎についてインタビューで語った。WOWOWの公式サイトではインタビュー動画が公開されている。

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 「コクーン歌舞伎『切られの与三』」は5月に東京Bunkamuraシアターコクーン(東京都渋谷区)で上演された。江戸の大店の息子・与三郎(中村七之助さん)は、家を勘当され、江戸に帰ることを夢見ながら木更津で暮らしていた。そんな与三郎は浜で美しい女性・お富(中村梅枝さん)と出会う。お富は元深川芸者で、木更津の土地の親分・赤間源左衛門(真那胡敬二さん)に請け出された身だった。お互い一目で恋に落ち、密会する与三郎とお富。しかし、逢瀬の現場を源左衛門に踏み込まれてしまい、捕らわれた与三郎は顔や体に34カ所の刀傷を負わされる。そして逃げ出したお富は海へと飛び込んでしまう。

 3年後、生々しい傷を残したまま江戸へと戻った与三郎は、自らの傷を見せては相手を驚かす「切られの与三」となり、ごろつきの安五郎(笹野高史さん)とともにゆすりやたかりを働いていた。一方、身投げしたお富は、溺れているところを助けてくれた男のもとで世話になっていた。そこに安五郎とともに現われた与三郎は、お富と運命の再会をする……というストーリー。

 長らくコクーン歌舞伎を手がけてきた串田さんは「コクーン歌舞伎をずっと一緒にやってきたのが、勘九郎時代からの勘三郎さんで、よく議論したり、けんかもしたり、まあ喜んで抱き合ったり、いろんなことがあって、演劇を作るなかで一心同体みたいにやれる本当に数少ない大事な人だったもんだから、彼がいなくなって、どうしたらいいんだろうって。一人でも頑張って残さなきゃっていう想いの中で、『天日坊』から『三人吉三』『四谷怪談』の3本くらいは、勘三郎さんだったらなんて言うだろう、なんと言い返すかなとか、いろんな事を思いながらやってきました」と、故・中村勘三郎さんをしのびつつ、舞台への思いを語った。

 一方で今回主演を務めた中村七之助さんについては「今回、七之助さんが、代わりではないんだけど、一緒に考えられることができて、また何かが生まれるかなと思っています。七之助さんは、お父さんが亡くなってから、どんどんしっかりしてきてるし、今回は特に、お兄さんも出てないので、頑張らなきゃって相当感じながら作ってくれたと思います」と語り、「彼は、女形がずっと続いたので、今回の役を演じることに不安があったと思うんですけど、女形だって女性じゃない人間が演じて、女ではなく、女形なんだから、立ち役っていうものにも、女形に対するような距離感を持って演じたら面白いと思っていました」と七之助さんに期待を寄せていたことも明かした。

 また、串田さんは「歌舞伎というものは、七之助さんもよく言っていますが不思議な芸能で、与三郎をやってるのに『与三郎!』っていう声はかからない、『中村屋!』っていう声がかかる。つまり、演じている人の名前を言う」と歌舞伎の特徴について触れつつ、「だから、与三郎そのものがそこにいるっていうよりは、七之助さんが描いてみせている。そして、演じてみせている与三郎を通して、その生きてきた、与三郎が駆け抜けたある姿と、客席にいる皆さんは“私”とか“自分たちが”と、みんな自分のこととダブらせ、いろいろな思いをよぎらせながら、この世の中のことに思ったり、自分っていうものと照らし合わせることができる、そんな与三郎になったなあって思っています」と今回の舞台について振り返った。

 「コクーン歌舞伎『切られの与三』」はWOWOWライブで12月8日午後6時放送。また、2019年1月3日にはコクーン歌舞伎第2弾の「夏祭浪花鑑」が、WOWOWプライムで午前10時から放送される。

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