岸本斉史:「NARUTO」作者の新連載「サムライ8 八丸伝」 子供に伝えたいこと 根底に愛情

岸本斉史さん
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岸本斉史さん

 人気マンガ「NARUTO-ナルト-」の岸本斉史さんが原作を手がける新連載「サムライ8(エイト) 八丸伝(はちまるでん)」が、13日発売のマンガ誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)24号でスタートする。銀河を舞台に、SFと“侍”の要素を融合させた大河ロマンが描かれる。岸本さんは、約15年にわたる「NARUTO」の連載を経て、作品を描く上で「愛情が根底にあるものを描いていきたい。僕が信じられるものはそこしかない」と思いを語る。子供たちに向けて「『完璧じゃないものがいい』『完成していないものが美しい』ということを描きたい」という岸本さんに、新作に懸ける思いや作品を作る上でのこだわりを聞いた。

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 ◇響く作品と響かない作品の違い 「愛情があれば伝わる」

 「サムライ8 八丸伝」は、岸本さんにとって「NARUTO」以来、約4年半ぶりとなる新連載。生命維持装置なしでは生きられないほど超虚弱ながら侍に憧れる少年・八丸(はちまる)を主人公に、銀河を股にかけた大河ロマンが描かれる。岸本さんが原作を手がけ、「NARUTO」で岸本さんのアシスタントを務めた大久保彰さんが作画を担当する。

 連載の第1話は、超虚弱ゆえに家から出たことがなくオンラインゲームに没頭する主人公・八丸と、彼に反抗されながらも世話を焼く父親が登場し、家族の愛や絆を感じさせるストーリーとなっている。「NARUTO」では壮大なストーリーの中で家族愛や友情、師弟愛などが描かれたが、新作にも通じるものがあるように感じた。

 岸本さんは作品のテーマやメッセージは「作品を通して伝えるものであって、作家が語ることではない」と強調した上で、「人が共感したり、僕自身が信じられるものが愛情ぐらいしかないと最近考えるようになった。全ての作品において、愛情が根底にあるものを描いていきたい」と語る。

 「僕は建前があまり好きではなくて、その人に対しての思いやりや愛情があって初めて、その行為に価値があると思うんです。作品にはそれぞれいろいろなテーマがありますが、全然響かないものと響くものがある。なぜその違いがあるのかと考えた時に、『根底に愛情がある』ところから派生しているテーマであれば、人に伝わるんだなということが分かってきた」

 自身を「周りに影響される作家」だと表現する岸本さん。「NARUTO」連載時には子供の誕生や父の死を経験したといい、「『NARUTO』でミナト(ナルトの父)が登場して、去って行くところは、ちょうど描いている時に父親が亡くなって、その時のせりふも自分の父親に向けて描いたせりふ」だったと明かす。「NARUTO」の連載や実生活でのさまざまな経験を経て、作品において愛に重きを置く姿勢が強まっていったという。

 ◇完璧じゃない主人公の魅力

 新作のターゲットはあくまで子供たちだ。岸本さんは「お金を持っていて、何でもそろっているような大人に向けて描くことはしない。まだ何も持っていなくて、いろいろな制限があって、自由が利かない子どもに読んでほしいと思って作っている」と話し、そんな子供たちに向けて「『完璧じゃないものがいい』『完成していないものが美しい』ということを描きたい」と熱を込める。

 さらに、「NARUTO」が世界的なヒット作となったのも「ナルトが完璧な主人公じゃないところが良かったなと思います。置かれている状況や生い立ちを含めて共感してもらえたのかな」と分析。今回の新作の八丸も生命維持装置なしでは生きられないほど超虚弱で、完璧ではない主人公だ。また、新作を形作る要素として“侍”を選んだのも「賢いわけではない」という不完全さを持ちつつ、「ただ犬死にするほどバカでもない、すごく微妙なところにいる存在」だからだという。

 「僕の中で、侍は知識にあまり重きを置いていなくて、行動で示す。行動こそが知識を上回るというか、そこに僕は共感する。さらに、侍は失敗したら死ななきゃいけないというとんでもないルールまであって、そこで自分を奮い立たせる。言葉ではなくて、行動で示していくという覚悟を持っている人が好きなんです」

 その侍像は、テーマやメッセージを言葉で押しつけるのではなく、「作品から感じ取ってもらえたら」という岸本さんの姿勢とも通じるものがあるのかもしれない。

 岸本さんが伝えたいものがマンガの中でどう表現されるのか。「サムライ8 八丸伝」は、キャラクターたちが宇宙を旅する中でストーリーが広がるロードムービーのような作品になるという。旅の行く末が楽しみだ。

 <プロフィル>

 きしもと・まさし 岡山県出身。1996年、「カラクリ」で「週刊少年ジャンプ」の新人マンガ賞「ホップ☆ステップ賞」佳作を受賞。97年、増刊「赤マルジャンプ」に読み切り「NARUTO」を掲載後、99年に「NARUTO-ナルト-」の連載を「週刊少年ジャンプ」43号で開始。同誌2014年50号(14年11月10日発売)で連載が完結した。「NARUTO-ナルト-」のコミックスの全世界のシリーズ累計発行部数は2億5000万部を突破している。19年5月13日発売の「週刊少年ジャンプ」24号から「サムライ8 八丸伝」の連載を開始。

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