岸本斉史:「NARUTO」長期連載を終え「やりきったが…」 4年半ぶり新連載で原作者に徹する理由

「週刊少年ジャンプ」22・23合併号に掲載された「サムライ8 八丸伝」の予告マンガのイラスト (C)岸本斉史・大久保彰/集英社
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「週刊少年ジャンプ」22・23合併号に掲載された「サムライ8 八丸伝」の予告マンガのイラスト (C)岸本斉史・大久保彰/集英社

 人気マンガ「NARUTO-ナルト-」の岸本斉史さんが原作を手がける新連載「サムライ8(エイト) 八丸伝(はちまるでん)」が、13日発売のマンガ誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)24号でスタートする。2014年11月に約15年におよんだ「NARUTO」の連載を終え、約4年半ぶりの新作となる。銀河を舞台に、SFと“侍”の要素を融合させた大河ロマンで、「NARUTO」で岸本さんのアシスタントを務めた大久保彰さんが作画を担当する。岸本さんは大久保さんについて「彼の絵に嫉妬した」「正直本当に負けた」といい、今回のタッグだからこそ「SFに挑戦できた」と話す。新作に懸ける思いを聞いた。

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 ◇「NARUTO」は「やりきったけど、まだ完璧じゃない」

 「サムライ8 八丸伝」は、岸本さんにとって「NARUTO」以来、約4年半ぶりとなる新連載。生命維持装置なしでは生きられないほど超虚弱ながら侍に憧れる少年・八丸(はちまる)を主人公に、銀河を股にかけた大河ロマンが描かれる。

 岸本さんが今回の新作の構想を始めたのは、14年11月に「NARUTO」の連載を終えてから約2年後だったという。それまでは、約15年におよんだ「NARUTO」の連載を終え、「疲れちゃっていて、マンガを描く気力がなくなっていた。マンガのことを考えたくない時期だった」といい、自身の子供との時間を過ごす日常だったという。

 「連載が終わった時は、やりきったという思いがありました。でも、僕の中で『NARUTO』はやりきったけれど、まだ完璧な作品じゃないという思いも心の奥にあって、そこが引っかかるところでもあった。『NARUTO』を描き終わるぐらいの時にやっとマンガの描き方が自分なりに分かってきた。だから、次の作品がもしまたできるのであれば、その反省点を生かせたらなと考えていました」

 そして、「またマンガが描きたいという気持ち」が芽生えてきた時、構想として浮かんだのが、岸本さんがずっと描きたかったというSFと侍というテーマだった。そもそも、岸本さんが「NARUTO」連載前、最初に「週刊少年ジャンプ」に投稿したのが侍マンガだったという。「それが受からなかったので、今回はそのリベンジ的な意味合いもちょっとあります」と話す。

 ◇「正直負けた」と思うほどの画力 原作者に徹した理由

 「サムライ8 八丸伝」では、原作者である岸本さんがネームを手がけ、大久保さんが作画を担当する。アシスタント時の大久保さんの成長の早さに驚かされた岸本さんは、「NARUTO」連載時点で「連載が終わったら、いつになるか分からないけど組んでやろう」「自分がネームを描くから一緒にやらないか」と声をかけていたという。「絵が描きたくてマンガ家になった」といい、高い画力に定評がある岸本さんが原作に徹した理由は何だったのか。

 「僕は絵を描くのがすごく好きなのですが、その思いが強すぎて……。『NARUTO』でも自分なりにこだわって描いたんですけど、週刊連載で僕の絵だと締め切りを確実に守れないということがデータ的に出たんです。また、今回作画をやってくれる大久保君が本当に絵がうまくて、彼の絵が世に出るのであれば、原作者になってもいいと思いました。『原作をやらせてください』という、それぐらい彼の絵に嫉妬したというか、結構悔しいというか、正直本当に負けたなと思ったんです」

 岸本さんは大久保さんの絵の魅力を「温かみがある」と表現する。新作では、侍同士の斬り合いなど殺伐としたシーンも登場するが、少年誌での連載ではやはり「子供たちに読んでほしい」という思いが強いという。そんな中で、大久保さんは「どんな絵を描いても温かみがある。どんなシーンを描いても殺伐としない」と岸本さん。

 さらに、殺伐としたシーンに大久保さんの「温かみがある、ベクトルが逆に向いた絵柄が入ることで独特のいい世界観が作られる」といい、「タッグを組むことが作品にとって一番のメリットになると思いました」と語る。

 ◇「リスクがある」作品への挑戦

 「サムライ8 八丸伝」の第1話のネームを見ると、SFということもありメカニックや見慣れない用語が登場したりと情報量が多い。岸本さんはストーリーを作る上で「『NARUTO』の時とは違って難しい」と話す。

 「SF的なものは、初見の人が見るとやはり『分からない』となってしまう。その世界観に入るまでに時間がかかるんです。SFを選んだ時点でそういう弊害が出てくるのは認識していました。僕は作品を『作る=伝える作業』と考えていますが、分かりにくいものは伝わらない。伝わらないものを描いている時点ですごいジレンマがありました」

 岸本さんは「この作品はすごくリスクがあります。僕が新人だったら、そもそもSFは選ばない」と話す。それでも挑戦をしたのは、「作り手としてはおこがましいんですけど、『NARUTO』の作者だったら無理してでもちょっとは我慢して読んでくれるかな」というこれまで積み上げた土台と、絶大な信頼を置く大久保さんの存在があった。また、作品を作る上で「世の中の流れを意識している」といい、「SF×侍」という世界観で「伝えたいものがある」と力を込める。

 岸本さんと大久保さんのタッグにより送り出される新作「サムライ8 八丸伝」。岸本さんは制作発表時に「NARUTOより面白くするのに必死」と語っていた。チャレンジングな新作に注目だ。

 <プロフィル>

 岸本斉史(きしもと・まさし)。岡山県出身。1996年、「カラクリ」で「週刊少年ジャンプ」の新人マンガ賞「ホップ☆ステップ賞」佳作を受賞。97年、増刊「赤マルジャンプ」に読切「NARUTO」を掲載後、99年に「NARUTO-ナルト-」の連載を「週刊少年ジャンプ」43号で開始。同誌2014年50号(14年11月10日発売)で連載が完結した。「NARUTO-ナルト-」のコミックスの全世界のシリーズ累計発行部数は2億5000万部を突破している。19年5月13日発売の「週刊少年ジャンプ」24号から「サムライ8 八丸伝」の連載を開始。

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