香取慎吾さんの主演映画「凪(なぎ)待ち」(白石和彌監督)が6月28日に公開される。宮城県石巻市で再出発しようとする男・郁男を主人公に「喪失と再生」を描いた人間ドラマ。毎日をふらふらと過ごしながらも平穏な日々を取り戻しつつあった郁男が、ある事件で絶望的な状況に陥り、次第に自暴自棄になる……というストーリー。今作が「新しい地図」として歩み始めてから初の単独主演映画となった香取さんに「苦手」だという演技や、東日本大震災以降、支援を続けている石巻での撮影などについて話を聞いた。
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俳優業について「いまだに役作りがよく分かっていないし、台本も読みこむ方ではない。難しいなと悩むこともない」と話す香取さん。「本番になったら監督の要求の120%以上の自分をぶつけるだけです」と語る。
実は、演技は「決められたせりふを言わなければいけないし、緊張する」「試験の前日に勉強するような感じで、コツコツ勉強するのも嫌なくらい苦手です」と告白。リハーサルの段階では、せりふを覚えていないことも多いといい、かつて主演したNHKの大河ドラマ「新選組!」では、台本の4~5ページを一人で話すシーンの撮影で「これはヤバい」と窮地に陥ったこともあった。スタッフが協力して、せりふを覚えるための時間を作ってくれたといい、「皆さんに助けられています!」と照れ笑いを見せた。
物語は東日本大震災で大きな被害のあった石巻市が舞台。香取さんは当初、「率直にそれでいいのかな、エンターテインメントとして石巻が登場していいのかなと思いました」と疑問を感じたと振り返る。しかし、撮影で石巻に何日も滞在するうちに考えが変わった。
「僕が会った方々からは『映画の撮影で石巻に来てくれて、この町を選んでくれて、今の石巻を映画に残してくれてありがとう』という声をいっぱい聞けた。震災のことは忘れてはいけないと僕も言わせてもらっているけど、実際はニュースで見る時間はどんどん減っている。自分も離れた東京で暮らしていて、考える時間は減ってしまっていると思うんです。でも、今回この映画でこうやって震災のことを話せるきっかけにもなったし、石巻の町をスクリーンに残せたのは良かった」と石巻に思いをはせた。
「凪待ち」のポスターが発表されると、ヒゲを生やしうつむいた香取さんの姿に「こんな顔見たことない!」とSNSなどでファンがつぶやいているのを見て驚いたという。「僕にとっては一番見ている顔なんですよね。一番、素の状態。今日も(取材が)始まる前にヒゲをそっていますし、髪もボサボサで東京から名古屋に来た。40数年、生きている中で(ポスターを指さし)この顔の方がよく見ている顔」と話し、「それだけアイドルとして、きれいにしてきたんだな」と改めて実感したという。
さらに「これまで人間じゃない役もたくさん演じてきて、人間として40歳を超えたこの体でスクリーンに映るのは初めてだからかもしれない」「役は役だけど、その人(演者)の生きてきたものが役に反映されるとしたら、30代とは違う顔なのかな」と分析する。
等身大とも言える自分の姿を映し出した今回の作品には「この数年の環境の変化も映ってしまっている」と感じている。新たなスタートを切った当初は「本当に先が見えないまま」だったといい、「この映画を撮っていた昨年の6月ごろは、まだ先の見えなさがいっぱいあった。そのタイミングで白石監督とご一緒できて、白石監督だったから撮影中から『これは大丈夫だ』と思えた。もし今、撮っていたら、この映画の中の表情じゃないかもしれない」と感慨深げだ。
「(新しい地図として)スタートして1年半くらいたって、個展や洋服など、新しいことがいろいろできて、今日も(取材に)たくさんの方が集まってくれた。すべてが本当に恵まれているなと思います」と言葉を一つ一つ噛み締めるように話した。
白石監督の作品に出演するのは今回が初めてながら「白石監督作品の常連になりたい」と語った香取さん。白石監督とは「僕が心の中でちょっと思った瞬間に、心の中を読まれているかのように、同じことを指摘してくれる」「すべてが一緒で完ぺきだった」と相性は抜群だ。
映画が完成した時、タイトルの「凪待ち」に込められた意味について「人生にはつらいとき、苦しいときがある。そんな時に凪が必要なんだろう」と感じたという。
一方で自分自身の生き方については「けっこう荒れた中で生きているので、凪を求めるよりは、荒れた中でもはい上がっていきたい。どんなに荒れていても負けたくない」と力を込め、「でも大きな仕事が終わった時など、一瞬の凪は必要ですけど」と笑顔を見せた。
(取材・文・撮影/神取恭子)
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