超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。6月に詳細が発表されたグーグルのクラウドゲームサービス「スタディア」について考察します。
ウナギノボリ
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米グーグルはE3 2019に合わせて日本時間の6月7日、クラウドゲームサービス「スタディア」の最新情報を伝える映像「スタディアコネクト」を配信。サービス開始時期や価格などが発表されたが、内容には不満が残った。月額9.99ドル(約1100円)のコースの存在や、配信開始時のタイトルなどが明かされたが、大半が発売済みのもので、新鮮味に乏しかったからだ。実際、最初にスタディアに飛びつくようなアーリーアダプターは、配信開始時のゲームをほとんど遊んでいる可能性がある。
もっとも、ゲームのラインアップはスクウェア・エニックスのRPG「ファイナル ファンタジーXV」をはじめ、大作ソフトばかりだ。またラリアンスタジオのRPG「バルダーズ・ゲート3」など、数は少ないながらも、新作タイトルが存在する。テキーラワークスのアドベンチャーゲーム「GYLT」や、コートシンクのアクションパズルゲーム「Get Packed」など、インディー(独立系)ゲームの新作タイトルが含まれている点にも驚かされた。両タイトルがスタディア独占配信になる点も注目したい。
一方でスタディアにはPCゲームや専用ゲーム機にはない特徴がある。それがYouTubeの視聴体験の拡張だ。発表によればスタディアでは、対応ゲームの配信動画をYouTubeで見た視聴者が、直接ゲームに参加できるようにする機能を備えるという。ゲームの配信動画を楽しむ視聴者は全世界で6.7億人(ゲーム実況グローバルマーケットレポート2017参照)といわれ、プロモーション効果は絶大だ。これによりスタディアは大きな地殻変動をゲーム業界にもたらす可能性がある。
ただし、そのためにはYouTubeの視聴体験拡張に最適なゲームデザインが求められる。「大勢で一度に楽しめること」「ゲームがシンプルで、勝敗が短時間でつくこと」「ゲーム配信向けの内容であること」などで、「荒野行動」「フォートナイト」といったバトルロイヤル系のゲームが挙げられるだろう。最大99人の参加者が同じフィールド上で、最後の生き残りをかけて戦う点が特徴で、全世界でヒット中のジャンルだ。
バトルロイヤル系のゲームはeSportsとも相性が良く、各地でさまざまな大会が開かれている。仮にこうしたプロゲーマーがYouTube上で参加を呼びかけたら、大きな反響を呼ぶだろう。プロゲーマーに挑戦したい、一緒にゲームを遊びたいというゲーマーは、数多くいるからだ。他にゲーム開発者や、ゲーム愛好家の芸能人なども適任だろう。こうした人気配信者と視聴者を直接つなぐ手段はこれまで存在しなかった。これを可能にするのが、スタディアのポイントだといえる。
ただし、そのためにはグーグルと実況配信者とメーカー側の三者で配信の許諾や利益の分配に関する取り決めなどが必要になる。ゲームはゲームメーカーの著作物で、無断配信による収益化は著作権の侵害行為に抵触する可能性があるからだ。任天堂をはじめ、動画配信のガイドラインを策定している企業もあるが、多くの企業では対応が遅れているのも事実。インディーゲームのクリエイターに対して、こうしたガイドラインを求めるのも非現実的だろう。
もちろん、グーグル側としてもこうした課題は織り込み済みで、現在はビジネス設計の最中だと思われる。もっとも、著作権に関する規定は国や地域によって異なるため、統一ガイドラインを策定するのは困難だ。しかし、国や地域によって市場が分断されていたガラケー時代のアプリビジネスが、スマートフォン時代で市場が統一されたことで急成長したように、グーグル側が透明性の高いガイドラインを制定し、広くスタディアへの対応を呼びかければ、多くの賛同が得られる可能性がある。
ただし、その際もバトルロイヤルゲームにすればヒットすると考えるのは早計だ。なぜなら、視聴者の触手を動かすには、ゲームの中身もさることながら、「憧れのあの人と一緒に遊びたい」と思わせるような実況配信者が鍵を握るからだ。これにより実況配信者のタレント性が、ゲームビジネスに大きな影響を与える時代が到来すると考えられる。裏を返すと、そこまで業界を変革させるようなサービスでなければ、スタディアに意味はない。グーグルの可能性に期待している。
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おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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