舘野仁美さん:「なつぞら」でアニメーション監修 元ジブリスタッフが抱く業界への思い

NHK連続テレビ小説「なつぞら」台本表紙絵 (C)ササユリ・NHK
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NHK連続テレビ小説「なつぞら」台本表紙絵 (C)ササユリ・NHK

 女優の広瀬すずさん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「なつぞら」で、アニメーション監修を担当する舘野仁美さん。全編アニメーションで描かれたオープニングのタイトルバックのプロデュースをはじめ、アニメとは切っても切れないドラマの屋台骨を支えている。かつてはスタジオジブリに在籍し、「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「千と千尋の神隠し」といった名作に携わってきた。また、ツイッター上で、「アニメーションの先人たちが辿り着いた大切なルール」を書き留めておくためのアカウント「動画検査のための備忘録」からさまざまなメッセージを発信中の舘野さんに話を聞いた。

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 ◇「なつぞら」における役割は多岐に 刈谷仁美さん抜てきの理由は?

 舘野さんは「未来少年コナン」に衝撃を受け、アニメーターを志すと、1987年からスタジオジブリに在籍。「となりのトトロ」以降、「魔女の宅急便」「千と千尋の神隠し」「風立ちぬ」などジブリ作品の動画チェックを数多く手がけた。現在はアニメーション制作会社「ササユリ」の代表を務めている。

 「なつぞら」における舘野さんの役割は、劇中のアニメーション制作からアニメーターの仕事にまつわる小道具の作成、広瀬さんらアニメーター役のキャスト陣の訓練や所作指導、演出面のジャッジまで多岐にわたる。またタイトルバックの監督・原画・キャラクターデザインを担当する若手アニメーター・刈谷仁美さんを抜てきしたのも舘野さんだ。

 刈谷さんの起用について「ほとんど勘、直感だった。ほかにもたくさん、絵が上手で若いアニメーターを知っているんですけど、最初から彼女以外考えられなかった」と振り返る舘野さん。

 「本人のキャラクターや素養がやっぱり絵に出るんですよね。そこまで彼女のことを知っていたかと言うと、そんなことはなかったんですけど、本人もすてきだったら絵もすてき、絵もすてきだったら本人もすてきという勝手な思い込みが私の中にはあって。彼女の素直さは間違いないだろうって思ったんですね。彼女は本当に素直で真っすぐ、くじけずやる。絵を描く方で、彼女が仮想のヒロインになれたら、よりドラマがすてきになるんじゃないのかなって思いましたし、そういうことが今回は全ていい方向に出たのではないでしょうか」

 ◇後進に「伝えたい言葉」… 待遇改善は「永遠のテーマ」

 ドラマは決してアニメ業界そのものを描いているわけではない。あくまでヒロイン・なつ(広瀬さん)の成長や家族との絆が主題だ。それでも舘野さんは「視聴者の中には、なっちゃんに憧れてアニメーターになりたいって思う人は出てくるとは思うんですね」と話している。

 その上で、優れたアニメーターになるため「ジャンルを問わずいろいろなことに興味を持つことは大切」と説く舘野さん。「アニメーターの中には、絵だけ描ければいい、それだけで幸せという人もいるし、そういう人に憧れて絵ばかりを練習してしまう人もいるんですけど、やっぱり雑学とか、他に知っていなくてはいけないことはある。私が憧れていた先輩も、物知りの方が多かったですし、勉強もしていた。もちろん、絵がうまい人がヒエラルキーの高いところにいけると思うんですけど、そこに知性がプラスされるともっと素晴らしい仕事ができるので、若い人には絵だけを勉強してほしくはない」といった思いも。

 また、アニメ業界の課題として挙げられるのが「待遇の問題」だ。「昔から待遇の良い業界ではないんですね。良かったとしても一部の話。私自身もそうでしたが、そこそこ名の知れた会社に入っても、新人の頃は家賃を払ったら、生活費が残らないくらい。今、第一線で活躍している人でも、若い頃は極貧だったって話はよくあること。『神』って呼ばれるような人でも、そういった時代を乗り越えて残っているっていうのはあるので」と自身の経験と重ねる。

 さらに舘野さんは、「一番苦しいところで頑張っている人たちの待遇改善は永遠のテーマ」と言い切ると、「こうやって朝ドラのヒロインにアニメーターという職業が選ばれて、憧れる人がたくさん出てくることで、業界が否が応でも考えるきっかけに今回こそなってくれたらっていうのは一番、願っているところです」と語っていた。

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