いなくなれ、群青:主演・横浜流星の魅力は“多面性” 柳明菜監督が語る撮影の葛藤と挑戦

映画「いなくなれ、群青」の柳明菜監督
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映画「いなくなれ、群青」の柳明菜監督

 俳優の横浜流星さん主演の映画「いなくなれ、群青」が9月6日から公開中だ。映画は謎だらけの島・階段島を舞台に、悲観的な主人公・七草(横浜さん)と七草の幼なじみで理想主義者の真辺由宇(飯豊さん)たちが島にまつわる謎を解き明かそうとする姿を描いた青春ファンタジーだ。同作のメガホンを取った柳監督に、撮影の葛藤や手応え、そして主演の横浜流星さんやヒロインを演じた飯豊まりえさんの魅力を語ってもらった。

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 ◇群像劇は「挑戦だった」 “原作ファン”ゆえの葛藤も…

 原作は河野裕さんの同名小説(新潮文庫nex)で、第8回「大学読書人大賞」も受賞している。映画は、ミステリアスな雰囲気の七草と凛々しい少女・真辺が奇妙な島・階段島で再会。真辺は、島から出るために、七草ら周囲を巻き込みながら島にまつわる謎を解き明かそうとする……というストーリー。

 原作を読んで「一気にファンになった」と明かす柳監督。一晩かけて読破し「どうしても撮りたい」という思いが沸き上がってきたという。「自分が目指している世界観を、より一層美しくしたような作品でした。たとえば『自分を生きる』というような内面的なテーマはもともと描きたかったんです。世界観も、言葉も、すべてが自分が描きたいものと一致していたんです」と声を弾ませる。

 だが、ファンになったがゆえの苦しみも生まれた。描きたい要素は多いが、映画には決められた「尺」がある。柳監督は「内面的な、静かな映画としても描けると思っていたので、エンターテインメントとのバランスをものすごく考えました。『ファンとしてこの要素を入れたいけど、限られた時間ではここは描けない』とか『ここをもうちょっと盛り上げないと』とか……常にふたりの自分が葛藤していました」と苦悩を明かす。

 そうした中で、表現したかったのは七草と真辺の関係性だ。「七草のある種、信仰的な真辺への思い。恋ではないけど、でも恋だし……という部分はしっかり描き切ろうと決めていたんです。その軸をブレさせずに、あとは映画的な脚色を入れていこう、と思いました」と語る。また、“群像劇”的な見せ方にもこだわった。今作は七草の親友・佐々岡、優等生の水谷、トラウマを抱えるバイオリニスト・豊川、どこか謎めいた存在の堀……と、どこか危うさを抱えたようなクラスメートたちが登場し、それぞれの内面の葛藤も描かれており、「群像劇にするのは挑戦でした。(七草と真辺の)ふたりが極端だったこともあり、たくさんの若者の葛藤を描くことが重要なのではと思ったんです」と話す。
 
 今作の特徴のひとつに、幻想的で独特の世界観を表現した映像の美しさが挙げられる。「すごくファンタジーなのに、すごくリアリティーのある作品。その質感を探るのが、一番の挑戦だったと思います」と柳監督。「ファンタジー感をどう出すかを考えて、魔法なのか魔法じゃないのか‥‥…というような世界観を描きたいと思ったんです。そうした世界観の撮影が得意なカメラマンさんにお願いして、いろいろ話し合いました」と明かす。

 ◇七草役・横浜流星の魅力は“多面性” 「役ごとに空気まで変えられる」

 今作の独特の世界観を表すうえで欠かせないのが、どこかミステリアスな主人公・七草を演じた横浜さんと、真辺を演じた飯豊さんの存在だ。悲観的で本心の見えづらい七草と、真っすぐな真辺。対照的なふたりの関係性は、監督が軸に据えた、今作の重要な要素でもある。そんな七草、真辺を演じる横浜さん、飯豊さんとは、どのようなことを話し合ったのか。「横浜さんには、外圧と内圧を使い分けてほしい、という話をしました。七草は、中に向いている感情と外に出す感情が違う役。小説だとそれがモノローグで入っていますが、映画ではグッと心で思いながら、表面では別のことを言う、という芝居。内面の環境を作ることでそれが表情に出る……という芝居を一緒に目指しました」と柳監督は振り返る。

 横浜さんといえば、3月に公開された映画「L・DK ひとつ屋根の下、『スキ』がふたつ。」では強気なイケメン役を演じ、連続ドラマ「初めて恋をした日に読む話」ではピンク髪の不良高校生を好演。一方、5月公開の主演作「チア男子!!」では悩める大学生を、現在放送中の連続ドラマ「あなたの番です-反撃編-」では頭の回転は速いが人とのコミュニケーションが苦手な大学院生を……と、熱い人物から物静かな人物まで、幅広い役柄を演じてきた。そうした振り幅の大きさを持つ横浜さんは、“多面性”を持つ七草を演じるには「ぴったりだった」という。

 「クールに感じるのにお会いしたら温かくて、ギャップがある方。七草も冷たいような温かいような、何面性も持っている人物なので、ぴったりだなと思いました」と柳監督は振り返る。現場でも「ふと出す表情が、私の想像を超えていることが多々あった」と驚いたといい、「『この方は、どれだけの顔があるのか』と。すごく柔らかくてチャーミングだったり、クールだったり、相反する顔を持っている。もちろん、そういう役者さんはたくさんいらっしゃると思いますが、特にピカイチで持っている方だと思います」と感嘆する。

 さらに、柳監督は「表情や声など、分かりやすいところでも七変化する役者ですが、役ごとに空気まで変えられる役者」と分析。「いろんな顔を持っていて、体の周りの空気を変える方。現場でもテークを何回か重ねるうちに、ふっと空気が変わる瞬間があったんです。どこまで自覚しているかは分かりませんが、こちらがゾクッとするような殺気を操っている役者だな、と。今回はかなりそういう魅力を発揮してくれました」と横浜さんの魅力を語る。

 そんな横浜さん演じる七草とは対照的な、行動力あふれる真辺を演じた飯豊さんには、エネルギーが一点に向かう芝居を求めたという。「飯豊さんは天真爛漫(らんまん)なので、エネルギーがぱあっと(広がって)いくんです。でも真辺はふっと(一点に)いく。だから全体にエネルギーを出すのではなく、話している相手に一点にいくように、と話しました」と明かす。

 飯豊さんの魅力は、「スイッチが入った時の爆発力」だという。「スイッチが入った時の芝居がものすごくて……現場で何度も驚かされました。安定しているし器用に演じる方だと思っていたんですが、現場ではポンっとスイッチが入った時のオーラやエネルギーが変わるんです。モニターで見ていても分かるぐらい、完璧に変わる。そう気づいてからは、私もそれを求めるようになりました。『未知の何かってあるんだな』と飯豊さんから教わりました」と脱帽。「私がいろいろ話したことや共演者の熱を、全部自分の中に入れていく。いろんな周りのものをすべて自分の味方にして、わっと演じられる方だと思います」と明かす。

 最後に、改めて今作の撮影を振り返ってもらうと、「役者さんたちが想像を超えたエネルギーを出してくれました」と柳監督。「すべての役者さんにエネルギーがありましたね。役としてではなく、ちゃんと自分のこと(内面)を持ち込んで、等身大で演じてくれました。全員がそれをやってくれたと思います」と俳優陣への感謝を明かし、「もちろん悔しいところもありますが、めっちゃいい作品ができました」と朗らかに笑った。

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