HELLO WORLD:一筋縄ではない物語 3DCGでキャラを魅力的に 伊藤智彦監督の「チャレンジ」

劇場版アニメ「HELLO WORLD」を手がけた伊藤智彦監督
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劇場版アニメ「HELLO WORLD」を手がけた伊藤智彦監督

 「ソードアート・オンライン(SAO)」「僕だけがいない街」などの伊藤智彦監督が手がけるオリジナル劇場版アニメ「HELLO WORLD」が公開された。「正解するカド」などの野崎まどさんが脚本、「けいおん!」などの堀口悠紀子さんがキャラクターデザインを担当するなど豪華スタッフが集結した。3DCGアニメで、制作したのは「楽園追放 -Expelled from Paradise-」などのグラフィニカだ。「チャレンジだった」と語る伊藤監督に、制作の裏側を聞いた。

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 ◇ストーリーのチャレンジ ただのチートではなく

 舞台は2027年の京都。内気な男子高校生・堅書直実(かたがき・なおみ)の前に、10年後の未来から来た自分を名乗る青年ナオミが突然現れる。ナオミによれば、同級生の一行瑠璃は直実と結ばれるが、その後、事故で命を落としてしまうという。直実は、瑠璃に迫る運命、ナオミの真の目的、現実世界に隠された秘密を知る。北村匠海さん、松坂桃李さん、浜辺美波さんらが声優として出演している。

 若いアニメファンを中心に流行しているジャンルに異世界転生がある。平凡な主人公が異世界に転生し、あまり努力もせずに特殊な能力、強さを発揮して活躍するアニメだ。「HELLO WORLD」は、そんなトレンドとは少し違うようにも見える。

 「直実はチート能力があるけど、修行する。対価を支払うんですね。ただ、おじさん目線で押しつけがましくするのではなく、なるべくライトにしています。10代の若い人にも見てもらいたいので」

 野崎さんは、これまでもぶっ飛んだ設定、予想していなかったどんでん返しで、見る者を驚かせ、魅了してきた。「HELLO WORLD」もまた一筋縄ではいかないストーリー展開となっている。決して難解なわけではなく、エンターテインメント作品として仕上がっている。伊藤監督は、野崎さんの紡ぐ物語の魅力をどのように感じているのだろうか?

 「とがっています。ひねくれています。オレもひねくれ者なので相性がいいんですよ(笑い)。今回は、そこまでひねくれないようにしましたが、どこかで出てしまうところはあるかもしれませんね。野崎さんのSF感をアニメとして落とし込んだものを見てみたかった。着地できたかな?と思っています」

 ◇3Dで難しいキャラでもできるんじゃないか?

 「HELLO WORLD」は3DCGアニメだ。伊藤監督は「作画アニメに疲れたんですよ(笑い)」と冗談めかしながら、「作画はそれはそれでいいのですが、違うやり方ができないだろうか?」と考えたという。

 「作画で作る時よりももう少しコントロールして作ってみたかった。3Dならできるのではないか?とチャレンジしてみました。3Dは、作画だとサクッと作れるカットに時間がかかったり、逆に作画だと時間がかかるカットがすんなりできることもある。カメラが動くカットは3Dの方が楽ですよね。逆に細かい表情だったり、日常芝居は難しい。例えば、キャラクターが立ち上がるカットで、髪やスカートの動きを細かく付けていった。今回、気を付けたところです」

 キャラクターデザインを担当した堀口さんは「けいおん!」などで知られている。美少女キャラクターに定評があるものの、3DCGとはマッチしないのではないか?と思うかもしれないが、「HELLO WORLD」は、キャラクターが魅力的に見える。伊藤監督は「いいでしょう?」と自信を見せる。

 「そうなんですよ。3Dに向いていないかもしれない。だから、3Dチームの頑張りです。日本のアニメはディズニー、ピクサーのようにはなれない。だから、別の方向を考えていました。3Dで難しいものもできるんじゃないか?とチャレンジをしたところです」

 ◇世界に向けたアニメを

 伊藤監督は「HELLO WORLD」の制作を発表した際、「世界中の方に楽しんでいただけるエンターテインメント作品となるよう、完成まで頑張ります!」と意気込んでいた。日本のアニメは世界中にファンがいるが、どのようにアプローチしたのだろうか? 世界に向けて作品を発信する際、どんなことが必要になるのだろうか?

 「何をもって世界に通じるかは分からないですが、それぞれの地域のタブーもある。日本の現場は、それをないがしろにしている気がするんですね。それと、今後は監督複数制が当たり前になるんじゃないかな? 例えば『スパイダーマン: スパイダーバース』は、プロデューサーとして、監督もできるフィル・ロード、クリス・ミラーがいて、それとは別に監督も複数いる。話を見る人、ビジュアルを見る人を分担してもいいかもしれない。宮崎駿さんのような天才なら別ですが、一人で監督をするのは限界があると思う。それぞれの分野に得意な人が集まっていかないと勝てない。今作も絵コンテをパートごとに分けていて、ラブコメが得意な人、ダイナミックな展開が得意な人……とそれぞれ得意な人に担当してもらいました」

 「HELLO WORLD」は、さまざまなチャレンジによって完成した。伊藤監督も「エンディングロールまで楽しめる工夫をしています。絵はもちろんですが、メインキャスト含めたみんな、芝居がうまい! 音楽もいい!」と自信を見せる。「君の名は。」のヒット以降、劇場版アニメが急増しているが、台風の目になるかもしれない。

 ※注:野崎まどさんの「崎」は立つ崎(たつさき)

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