超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、今年話題になった「eスポーツ」と「ゲーム依存」について考えます。
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2019年のゲーム業界を振り返ると、eスポーツとゲーム依存に関する議論が目立った。2020年、この二つはゲーム業界で大きな問題を引き起こす可能性がある。その一方で、これはゲームの社会的地位を引き上げる好機でもある。
eスポーツでは、2019年10月5、6日に「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」が開催された。本大会は9月から10月にかけて行われた「いきいき茨城ゆめ国体」の文化プログラムの一環として行われ、下は8歳の小学生から、上は40代の社会人まで、全国から約600人の選手が参加し、腕を競った。国体でゲームが種目に採用されたのは今回が初めてで、偉業といっていいだろう。次回以降の開催は未定だが、eスポーツを部活動に認定する高校も出るなど、開催の影響は全国に広がっている。
一方で国立病院機構久里浜医療センターが11月に発表した、ゲーム依存に関する初の全国調査も議論を呼んだ。全国で無作為に抽出された10歳から29歳までのうち、過去一年間にゲームを遊んだ4400人あまりを対象としたものだ。それによるとゲームに費やす時間は1日あたり1時間未満が40.1%と最も多かった一方、6時間以上と回答した割合も2.8%いた。また、ゲームに費やす時間が長いほど、「学業に悪影響がでたり、仕事を失ったりしてもゲームを続けた」など、仕事や健康に悪影響を及ぼしている実態が明らかになった。
一見するとゲームのプレー時間とゲーム依存は相関関係があるようにみえるが、問題はそう単純ではない。対人関係の低さや、家庭内の不調和や両親の別居といった、現実社会で課題を抱えている人にとって、ゲームはもっとも身近な存在になり得る。そのため、現実の軋轢(あつれき)がゲーム障害という形で表出してきたとも考えられるからだ。実際、ゲームのプレー時間が問題であれば、すべてのプロゲーマーはゲーム依存に苦しんでいることになる。これが誤りであることは、茨城国体の選手たちを見れば、あきらかだろう。
もっとも、だからといってゲーム業界がゲーム依存に対して無策でいい、という話にはならない。企業には社会的責任があるからだ。こうした中、経済産業省が業界団体の日本eスポーツ連合を受託者として、「eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会」を実施している点は評価したい。経済効果だけでなく、eスポーツの社会的意義について議論することも目的に掲げている。ただし、実際にゲーム依存に悩む人たちに対して、こうした取り組みは届きにくい。実効性のある対策も必要だろう。
その一方で香川県のように、ネット・ゲームの依存症対策で、独自に条例制定に向けた動きを進める自治体もある。県議会では来年4月の条例施行をめざし、今年中に骨子案を作成。来年2月の県議会に条例案を提案する方針だ。制定されれば全国初であり、他の自治体に影響を与える恐れもある。実際、2005年に神奈川県がゲーム「グランド・セフト・オートIII」を有害図書に認定した際、大阪・埼玉・福岡などに波及した経緯がある。当時、業界の対応は後手後手に回り、有効な対策を打ち出せなかったように記憶している。
重要なことは、ゲームのプレー時間を規制するのではなく、プレーヤーの自己管理能力を高めるような施策を打ち出すことだ。プロゲーマーはその鍵を握る存在となり得る。高い自己管理能力や社会性がなければ、大会で好成績を納めることは不可能だからだ。
幸いeスポーツは、健常者も障害者も同じ立場で競えるとして、来年開催される東京オリンピック・パラリンピックでも、注目される可能性が高い。こうした追い風が吹いている間に、ゲーム業界は教育行政などと連携し、社会に対して声を上げていくべきだろう。eスポーツはまだ、できたばかりの産業だ。これをいかに健全に成長させ、社会に定着させられるか、関係者の努力が期待される。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。2008年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。2011~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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