新型コロナウィルス:「エンタメはなくても死なない」けれど… 自粛下でのファンの“推し事”

エンタメは、いわば生きる活力であり、心の栄養なのです。
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エンタメは、いわば生きる活力であり、心の栄養なのです。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、5月に予定されていた「コミックマーケット(コミケ)98」をはじめ、アニメやマンガの関連イベントの中止も相次いだ。一方で、アニメやマンガの無料配信が発表されたほか、グッズや作品の購入など、外出自粛下でもできるファン活動を通じたさまざまな支援の動きも起きている。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。

ウナギノボリ

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 世界的に猛威を振るう新型コロナウィルスの影響は未だ収まる気配を見せません。アニメ関連では、特に先月末からイベントや舞台の公演、テレビアニメの放送や映画の公開の中止と延期のニュースが相次ぎ、引き続き自粛ムードも漂っています。

 このような時、アニメをはじめとするエンタメは、食料やライフラインといったものとは優先度が異なるため、“不要不急”に分類されがちです。しかしだからといって、ファンにとっては「今、なくても死にはしないでしょ」という一言だけで、簡単に片づけていいものなのでしょうか。

 結論から言うと、私はそれは違うと思います。だからこそファンは今、中止や延期のショックとコロナへの怒りを抱えつつ、この状況下であっても、自粛しながらでもできることを模索し続けているようです。

 イベントや公演の中止でチケット代が払い戻しされれば、そのお金でこのグッズを買うことで作品やアーティストに貢献できるのでは、といった情報がファン同士で拡散・共有されました。また、たとえ既にデータやパッケージ(CD、DVD、Blu-rayなど)を持っていても、少しでも応援にならないかと、サブスクリプションを利用して、好きな作品やアーティストの再生数を上げるといった応援も行われています。その他にも、フラスタ(フラワースタンド)業者やイベントの印刷会社の経営が危ないことを聞いて情報を拡散し、支援を検討するなど、作品やアーティストのみならず、関連会社も応援しようとする動きもありました。コロナ関連で何かしらの規制や制限を受けても、予防と防止に努めた上で、いかに作品を楽しみ、盛り上げられるかといった工夫も生まれています。

 自らの生活もコロナの影響を受けて大変な中、ファンはただ自粛解除を待つだけではなく、自粛状態の今でもできる方法で、いつも以上に自分の好きなものや大切なものを応援しようとしています。それは現状への危機感はもちろん、コロナ終息後のことを心配してのことでもあるのでしょう。

 既に放送や公開の延期が決まった作品たちも、コロナが落ち着けばすぐ元通りに現場周りが動き出せるというわけではないと思います。また、作品そのものだけでなく、関連する一つのイベントが中止になるだけで、イベント会社から会場施設、フラスタやグッズ業者まで、さまざまなところに一時的では収まらない影響や混乱が生じるのです。

 たとえコロナの脅威がなくなったとしても、その時にエンタメ界隈が疲弊していて、公演や放送が難しい状態になってしまっては、黙って「コロナが流行している間だけ」我慢していても、正直意味がなくなってしまいます。だからこそファンは、解禁される時まで自分たちの好きなものにできることをし続けようと、感染予防と防止をしたうえで、今できる“推し事”(推し行為全般)をしているのではないでしょうか。

 世界的に不安が広がるこの状況下で、端からみれば「ただの趣味」に、なぜそんなに必死になるのか、不思議に思う人もいるかもしれません。

 答えは簡単で、エンタメが日々の生活に必要不可欠だからです。好きなアーティストや作品があれば、仕事や学校だってそのために頑張れますし、つらい時には心の支えにもなってくれます。

 確かに、食料や水などと比べれば、なくても「死にはしない」ものかもしれません。しかしそれを生業(なりわい)にしている人にとってはもちろん、大切にしているファンの人たちにとっても、少々大げさにいえば、ないと生きがい=「生きる意味」がなくなるものでもあると思います。いわば生きる活力であり、心の栄養なのです。こんな時だからこそ、大事なエンタメ界隈を応援したい気持ちが強くなるのは自然のことですし、無理にいつも以上のことをしなくても、作品を好きでいて、楽しみ続けることも、十分な応援になっていると思います。

 もちろんこれらは、健康と安全、予防と対策が万全な上での話です(そもそも自分の好きなジャンルから感染者が出てしまうのは、他の人に感染させることも含めて、とても恐ろしいことなので、予防と対策、自発的な自粛はしっかり行っていると思いますが……)。その上で、打撃を受けているエンタメ業界側の取り組みはもちろん、コロナへの恨みを抱えながらも、今できる形で作品を盛り上げ、楽しもうとしているこうしたファンの行為は、「社会全体が緊張・混乱している時に何を……」と、簡単に切り捨ててはいけないものだと思います。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう 埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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