UFC250:女子2階級同時制覇王者の初防衛戦 高阪剛が見どころ語る

アマンダ・ヌネス選手(左)とフェリシア・スペンサー選手/GettyImages
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アマンダ・ヌネス選手(左)とフェリシア・スペンサー選手/GettyImages

 世界最高峰の総合格闘技イベント「UFC250」が6月7日(日本時間)、米ネバダ州ラスベガスの「UFC APEX」で無観客試合として開催される。メインカードは、UFC初の女子2階級同時制覇を果たしたチャンピオンのアマンダ・ヌネス選手がフェリシア・スペンサー選手を迎え撃つ女子フェザー級王座の初防衛戦。WOWOWの「UFC-究極格闘技-」解説者を務める格闘家の高阪剛さんが試合の見どころを語った。

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 --女子バンタム級とフェザー級の2冠王者で、これまでバンタム級王座を5度防衛したヌネス選手を、高阪さんはどう見ていますか?

 ちょっと手がつけられないほど強くなっているのは、多くの人が感じていると思いますが、その圧倒的強さの要因がどこにあるかが、大事なところです。いろんな要因はあるとは思いますが、まず挙げられるのがパンチの距離感。相手に当たるだけじゃなく、仕留めることのできる距離。自分にとってのヒットポイントがけっこう遠いところにあることを、ヌネスはどこかでつかんだと思うんです。

 --相手のパンチが当たらない、自分は倒せるパンチが出せる距離を見つけた、と。

 だからヌネスの試合を見て、“相手は手も足も出ないじゃないか”って感じる人もいると思うんです。距離設定が遠いので、相手からすると自分の打撃が出せない、出したとしてもいい位置で当てているわけではないので、倒すまでには至らないっていうことが起こっているんです。

 --対戦相手は、もっと距離を詰めたいところだけど、その前に遠い間合いから強い打撃を当てられて、一気に畳み掛けられてきたわけですね。

 そうですね。通常、リードジャブで距離を測っておいて、利き手の大砲をズドンとたたき込むのがセオリーです。でもヌネスの場合は、リードジャブを出さなくてもすぐ距離設定ができる。相手からすると、まだパンチが飛んでこないタイミングで、強い右ストレートをもらってしまったりしているんです。

 --遠い間合いから、一気にKOできるような右ストレートを放ってくるというのは、かつてのエメリヤーエンコ・ヒョードル選手もそうでした。

 そういった面では、ヒョードルと同じ強みを持っているかもしれない。普通、ラッシュを仕掛けて倒しにいく選手というのは、インファイトで相手の懐に入っていって、一発もらっても二発返すような殴り合いの末、KOするパターンが多いんですよ。

 --女性総合格闘家のクリスチャン・サイボーグ選手も、まさにそのタイプです。

 でも、ヌネスはそうじゃないところが強みであり、相手にとってはより攻略するのが難しいんですよ。そしてヌネスも最初からそういう距離で倒せるようになったわけではなく、過去、何度か敗れたり、うまく試合を運べなかった経験を経て、見つけ出したんだと思うんです。

 --ヌネス選手は今でこそ無敵の状態ですが、キャリア前半では負けていました。

 まだ遠い間合いでの戦い方を見つけていなかったころは、組み技の攻防に付き合いすぎたがために体力を削られてしまい、肝心の打撃の威力が落ちてしまった……。そんなことが起こっていましたね。

 --2014年9月のキャット・ジンガノ選手との試合で、グラウンドでのパウンドでTKO負けしたときはそんな感じでした。

 そういう経験も踏まえて、ヌネスも決してグラウンドが苦手なわけではないんですが、自分の最大の強みである打撃を生かすためには、あまり寝技をやりすぎるのはよくないんだな、と気付いていったんでしょう。

 --UFC参戦前に、女子総合格闘技団体「インヴィクタFC」や総合格闘技団体「ストライクフォース」で敗れたのも、「シーザー・グレイシー柔術アカデミー」所属の寝技や組み技を得意とする“グラップラー”でした。

 当時はスタンドでの距離がもっと近かったので、相手からするとタックルが取りやすい距離でもあった。でも、当時のヌネスは、その近い距離が自分にとってもいい距離だと思い込んでいたと思うんです。

 --強打も入れられるし、自分からテークダウンにもいけるし、と。

 でも、何度か敗れたあと、「自分のストロングポイントはどこなのか」をしっかりと見極める作業を怠らなかったことが、今のヌネスの状態を作ったんじゃないかと思います。

 --そして今回の対戦相手のスペンサー選手は“体の大きいグラップラー”という、かつてヌネス選手が苦手としたタイプの選手です。

 だから、これは見ものですよね。スペンサーは寝技に自信を持っているだろうし、実際に強いですから。また組むことにちゅうちょがないんですよね。組んで倒すというのは体力を使うので、一度組んでうまくいかなかったりすると、「今度切られたら、体力的に削られてしまうんじゃないか」という考えが頭をよぎるもの。でも、スペンサーはちゅうちょなく再度ケージに押し込んでテークダウンを狙っていったりしますから。それを2、3回続けるというのは、よほどそこに自信があるんでしょう。

 --試合展開としては、スペンサー選手が何度も組みつきにいき、ヌネス選手は組みつかせないようにスタンドの遠い間合いで勝負しようとすることが容易に考えられます。

 やりたいことが逆なんですよ。だから主導権の取り合いになるだろうし、そこで本人たちがどういったことを起こすかが注目ですね。

 --それと、スペンサー選手には打たれ強さもあります。

 そうですね。多少打たれても気にせず前に出てくるし、逆に打ち返しておいて、組みにいったりする。サイボーグとの試合でもそうでしたが、気持ちの強さとそもそもの打たれ強さを持っている。また、体は決してバキバキなわけではないですが、あれが組んだときに“密着力”が増すんですよ。

 --巨大なお餅が乗ってくるような、いわゆるジョシュ・バーネット選手タイプ。

 だから相手からすると、組みつかれているだけで息が上がってきたりするんです。そしてヌネスは、寝技でそういう状態に持ち込まれるのが嫌で、今のスタイルを作り上げた。だからスペンサーが組みついてきたとき、ヌネスがどう対処するのかが見ものだし、それも攻略して上回るようなら完全無欠の選手にまた近づく。その辺のモノサシにもなる試合だと思います。

 --無敵のヌネス選手を倒すとしたら、スペンサーのようなタイプであり、ヌネス選手がそれさえも返り討ちにしたなら、より“完全体”に近づくと。

 お互い相手がやりたいことは分かっているので、対策は立てやすいと思うんです。だから、あとは5ラウンドあるので、どこで意外な攻撃を差し込んでくることができるか。スペンサーは、サイボーグとの試合でタックルのフェイントで縦のヒジ打ちを入れて、サイボーグの顔面をカットしたり、意外なこともやってくる。そういったところにも注目したいですね。

 *……試合の模様は、「生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC250 in ラスベガス 無敵の最強女王ヌネス、フェザー級タイトル防衛戦!」と題し、6月7日午前11時からWOWOWライブで生中継。

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