春ドラマ:“自粛明け”でも好調キープ 新作もスタートダッシュの理由

好スタートを切った「私の家政夫ナギサさん」(C)TBS
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好スタートを切った「私の家政夫ナギサさん」(C)TBS

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除され、ドラマの撮影が再開したことで、遅まきながら多くの“春ドラマ”が放送を開始した。「BG」(テレビ朝日系)、「ハケンの品格」(日本テレビ系)といった人気作の続編だけでなく、初回世帯平均視聴率が14.2%(以下関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録した「私の家政夫ナギサさん」(TBS系)をはじめ、完全新作も好スタートを切っている。当初好調だったバラエティー番組などは次第に視聴率が戻ってきている中、どうしてドラマだけは好調を維持しているのか。理由を探った。

ウナギノボリ

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 4月に発令された緊急事態宣言によって、ほぼ全てのスタジオでドラマ撮影が中断された。これに伴い、テレビ局各局は旧来の名作を“特別編”として放送し、人気を博した。評価の高い名作が再放送でも好評なのはある意味当然だが、SNSでは「もうずっと再放送してればいいんじゃない?」といった声があったのも確かだ。実際編集部でも、“特別編ラッシュ”が終わり、新作ドラマに切り替わったら、視聴率は伸び悩むのではないかと懸念していた。

 ところが、緊急事態宣言が解除され、放送を開始した“春ドラマ”はいずれも好スタートを切った。「BG~身辺警護人~」の新シーズン第1話が、世帯平均視聴率17.0%と前作超えを果たしたのを筆頭に、「ハケンの品格」も、動画サイトの普及前で、今よりテレビが見られていた13年前の前シーズンには及ばなかったものの、14.2%と好スタートを切った。

 面白さが保証されている人気作の続編だけでなく、今回が初放送という完全新作のドラマも好スタートを切った。綾野剛さんと星野源さんのダブル主演で話題の刑事ドラマ「MIU404」(TBS系)が初回13.1%、「Sexy Zone」の中島健人さんと「King & Prince」の平野紫耀さんがダブル主演を務める警察ドラマ「未満警察」も初回11.2%といずれも2桁スタート。さらに、多部未華子さんが主演のハートフルラブコメディー「私の家政夫ナギサさん」は14.2%で、TBSの火曜午後10時枠としては歴代最高のロケットスタートとなった。

 もちろん、緊急事態宣言が解除され、“自粛明け”になったとはいえ、まだまだ気軽に飲みに出かけるという状況には戻っていない。そうした“巣ごもり傾向”の強い現状がドラマの高視聴率に貢献しているのは間違いないところだ。しかし、テレビ局の関係者によると、バラエティー番組や夕方のニュース番組は軒並み視聴率が“コロナ前”に戻りつつあるといい、全体的に好調なドラマとは状況が異なっている。

 それでは、どうしてドラマだけは視聴率が好調なのか。一つにはドラマというジャンル自体の魅力が見直されたのではないか。YouTubeをはじめとした動画投稿サイトが人気となって久しいが、動画は、アイデアの斬新さがものを言う傾向が強いため、下手なバラエティー番組より楽しめるものも多い。一方、世界観を作り込み、多くのスタッフでしっかりと撮影されたドラマは、手間暇がかかるだけに、動画では制作しづらい。

 Netflixをはじめとした動画配信サービスでは、質の高いドラマを送り出している。しかし、マーケティング分析を行うジェムパートナーズの調べによると、動画配信サービスをはじめとしたネットサービスの利用時間が増えた利用者は4~5割に上ったものの、新規加入などで費用が「増えた」と答えた利用者は約15%にとどまっており、全体的な利用者の増加は限定的なものにとどまった。相対的に、無料で気軽に楽しめるテレビドラマの需要が高まったといえる。

 また、放送のたびにトレンドをにぎわせた「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」(TBS系)を筆頭に、SNSとの親和性が高い名作の再放送がドラマというジャンルへの回帰を促したことも否定できない。直接会う機会が激減している中で、普段以上にツイッターの実況で盛り上がった人も多かったのではないか。こうして盛り上がった再放送を通じて視聴習慣がついた視聴者が、再放送が終了してもそのまま新作ドラマを楽しんでいるといえるだろう。

 さまざまな要素が絡み合って進んだ“ドラマ回帰”の動き。続編ものはもちろんだが、完全新作も再放送からのいい流れを受け継ぐとともに、作品自体の質の高さで好評だ。まだまだ巣ごもり傾向が続くとみられる中、この動きはもうしばらく続きそうだ。 

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