伊藤沙莉:「小さなバイキング ビッケ」で「ずっとやりたかった」男の子に 「映像研」声優経験が生きる

劇場版アニメ「小さなバイキング ビッケ」で主人公ビッケの声優を務める伊藤沙莉さん
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劇場版アニメ「小さなバイキング ビッケ」で主人公ビッケの声優を務める伊藤沙莉さん

 スウェーデンの作家、ルーネル・ヨンソンの児童文学「小さなバイキング」シリーズが原作の劇場版アニメ「小さなバイキング ビッケ」(エリック・カズ監督)が、10月2日に公開された。同作で、主人公の少年ビッケの声優を務めるのが、女優の伊藤沙莉さんだ。伊藤さんは、今年1~3月に放送されたテレビアニメ「映像研には手を出すな!」で主人公・浅草みどりの声優を務め、高い評価を受けた。今作では「ずっとやりたかった」という少年役に挑戦した。伊藤さんにアフレコの様子や、声の芝居への思いを聞いた。

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 ◇夢に真っすぐな少年の葛藤やもがきを大切に演じる

 「小さなバイキング」シリーズは、1963年に発表され、1965年にドイツ児童図書賞を受賞。1972~1974年にドイツと共同制作のテレビアニメが放送され、最高視聴率20.5%を記録した。体は小さいが頭脳めいせきな海賊の息子のビッケが海賊の一員になり、知恵を生かして事件や困難を乗り越えていく姿を描く。劇場版は、原作にはないオリジナルストーリーのCGアニメ。何でも黄金に変えてしまう魔法の剣の秘密を解き明かす物語が描かれる。ビッケが愛する母イルバを救うため、海賊の父ハルバルと仲間とともに大冒険を繰り広げる。

 伊藤さんは、アニメの声優を務める上で「ファンが多ければ多いほど、プレッシャーがのし掛かる」といい、「小さなバイキング」シリーズの大ファンという母から「作品を崩さないでよ」とも言われたという。

 「見ていただける皆さんの頭の上に『?』が浮かばないといいなと。でも、ずっと男の子役をやってみたかったので、すごくうれしかったです。いろいろなものを演じたいと思っている中で、男の子は実写ではなかなか演じられないので。あと、アクションで『うぉー!』というかけ声をずっとやってみたかったんです」

 自身が演じるビッケを「自分の目指しているものや夢に対してすごく直球な熱い男の子」と表現する。ただ、バイキングになりたいビッケは、知恵は誰にも負けないが、体が小さく力がないため、親にその夢を反対されてしまう。

 「自分の選んだ道を信じてひたすら突っ走る子の障害となるのが、意外と身近な親だったします。私の親はやりたいことをやらせてくれますが、いまだに生活において『それはまだ沙莉には早い』と言われたりして、『いや、もう26歳だよ』と思っているので、ビッケに共感する部分もありました。その葛藤やもがきみたいなところを大切にお芝居できたらいいなと思いましたね」

 ◇常にお芝居が好き アニメ、実写に共通する「キャラクターに寄り添う楽しさ」

 伊藤さんは、2019年に公開された劇場版アニメ「ペット2」の日本語吹き替え版で声優に初挑戦し、テレビアニメ「映像研には手を出すな!」を経て、今作がアニメ声優3作目となる。アフレコは、ビッケの父・ハルバル役の三宅健太さん、ビッケの友達のイルビ役の和多田美咲さんと一緒だったといい、「まだたったの3回目なので当然なのですが、やっぱりまだまだだなと、すごくいい意味で思わされました」と語る。

 「三宅さんや和多田さんと共演させていただいて、声優さんは表現しているキャラクター同士の距離感や感情の浮き沈み、動きを声のみで表現できる方たちなんだと改めて思いました。距離感に関しては鳥肌レベルでした。家の中の2階にいるビッケに、イルビが外から声をかけるシーンがあるのですが、イルビの声は1階から2階にしゃべる声で、外から中にしゃべりかけている声にちゃんと聞こえるんです。実写でもセットで撮影する時に想像力を働かせて演じることはありますが、アニメではそれ以上の想像力が必要。全てを声だけで表現されているのは『すごすぎて何も言えません……』という感じでした。尊敬しますし、憧れますし、キラキラしているなと思いました」

 伊藤さんは、以前「映像研には手を出すな!」の取材で「実写の芝居は最初に自分のプランをぶつけて、そこから削っていく引き算、アニメに関しては足し算。『これは大げさだろう』と思っていることが、意外とOKが出る」と語っていた。これまでの声優経験から、その足し算の芝居は「バトンのように生かされている」と語る。

 「実写では、常にリアリティーを求めてやっているので、大きなお芝居をするのは舞台くらい。しかもやりすぎぐらいがちょうどいいというのは、私の場合は声のお仕事だけなんです。以前は、アニメの現場に入る時にその違いに慣れるのに時間がかかっていたのですが、今回はこれまでの経験もあってスムーズにできました」

 アプローチの違いはあれど、アニメも実写も「キャラクターに寄り添う時間は共通しているので、楽しいです。当たり前かもしれないですが、技術どうこうよりキャラクターの気持ち優先でいいんだなと。私は常にお芝居が好きなので」と笑顔を見せた。

 なかでもビッケが敵と戦うアクションシーンは楽しかったという。

 「ビッケが敵に『僕はこのままでいいんだ』とキメぜりふを言うシーンは『ビッケ、かっこいい!』と思いながら演じていました。私は『クレヨンしんちゃん』が好きなので、しんちゃんの格好いいシーンを思い浮かべながら『あんな感じで格好よく聞こえたらいいな』とちょっと意識していました(笑い)」

 伊藤さんは今作を「勇気を感じる」作品と語る。

 「夢とか勇気とか、だんだん大人になってひねくれてくると素直に受け止められなくなってくる。でも、この真っすぐな少年を見て、何かが動かされる瞬間、響く瞬間が絶対にあるんじゃないかなと思います。大人の人は忘れかけていた熱い気持ちがよみがえるかもしれないですし、今燃えている人はさらにビッケと一緒に熱くなってほしいです」

 伊藤さんが演じる格好いいビッケが活躍する「小さなバイキング ビッケ」。大海原を舞台にした大冒険をビッケと一緒に楽しみたい。

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