ジョゼと虎と魚たち:ボンズのチャレンジ アニメでリアリティー描ききる

「ジョゼと虎と魚たち」を手がけたボンズの南雅彦代表取締役
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「ジョゼと虎と魚たち」を手がけたボンズの南雅彦代表取締役

 田辺聖子さんの小説が原作の劇場版アニメ「ジョゼと虎と魚たち」(タムラコータロー監督)が12月25日に公開された。俳優の妻夫木聡さん、女優の池脇千鶴さん主演、犬童一心監督の実写映画が2003年に公開された名作で、アニメは「鋼の錬金術師」「交響詩篇エウレカセブン」「僕のヒーローアカデミア」などで知られるボンズが制作した。ボンズといえば、派手なアクションが得意なイメージがある。青春ラブストーリーでアクションもない「ジョゼと虎と魚たち」は、「チャレンジ」になったという。数々のヒット作を手がけてきたボンズの南雅彦代表取締役に「ジョゼと虎と魚たち」のチャレンジについて聞いた。

ウナギノボリ

 ◇絶妙なバランスでアニメ化

 「ジョゼと虎と魚たち」は、足が不自由なジョゼと大学生の恒夫の恋と、夢に向かって進んでいく姿を描く。恒夫が、ジョゼの相手をするバイトをすることになり、ワガママなジョゼは恒夫を困らせるが、恒夫も我慢することなく真っすぐぶつかり、2人の心の距離は徐々に縮まっていく。ジョゼは意を決して夢見ていた外の世界へ恒夫と共に飛び出していくことになる。中川大志さんが恒夫、清原果耶さんがジョゼの声優を務めたことも話題になっている。

 ボンズにとって「ジョゼと虎と魚たち」は、異色のアニメなのかもしれない。前述のように、ボンズといえば、派手なアクションなどが得意なイメージがある。

 「爆発がない、ミサイルも出てこないし、ロボットに変形もしない。ボンズの場合、爆発がないアニメはあっても、アクションがないアニメはほとんどないんです。『桜蘭高校ホスト部』もアクションが結構あるんですよ。花瓶が割れるところがボンズっぽいと言われたり(笑い)。なんで、ボンズがやるのか? アクションが得意とは言われていますが、ジャンルを決めているわけではありません。原作があり、その中でどういう表現できるのか?とチャレンジできる作品だと思ったんです。実写版も見ていましたし、原作の短編小説も読んでいました。短編の原作を長尺のアニメにするなら、実写とはストーリーから違うものになるだろうし、チャレンジになると考えていました」

 「ジョゼと虎と魚たち」は、実写版もある。アニメは、アニメならではの魅力にあふれた作品に仕上がった。

 「キャラクターなどの表現を簡略化するのがアニメーション。その表現の中でリアリティー、彼らが生きていることを表現しないといけない。背景もリアルな方向に振っているわけではなく、筆のタッチを生かして、光、音を感じる表現をしています。それが伝わる魅力的なフィルムになっています。アニメーションとして描ききったところを見ていただきたい」

 日本のアニメは独自の進化を遂げ、表現の幅を広げてきた。「ジョゼと虎と魚たち」も絶妙のバランスでリアリティーとファンタジーが融合した映像に仕上がった。

 「映像学科出身ですし、実写映画も好きですが、アニメのプロの現場に入ると、実写映画への嫉妬があるんですよ。実写は、カメラで切り取れば、役者の人生が映る。役者によって演技が変わる。アニメは全部描かないといけない。恋愛ものは、実写の方が向いているかもしれないけど、アニメーションの表現の技術が上がり、演出論も進化してきた中で、このようなジャンルでもチャレンジできるようになってきた。キャラクターの造形もどんどん変わっています。アニメ的なキャラクターの造形だと思いますが、表情を付けると、リアルさも生まれてくる絶妙なバランスがあります。コロコロ変わるジョゼの表情も見どころですね」

 ◇映画は特別なもの

 南代表取締役は「ジョゼと虎と魚たち」を「恋愛ものというよりは成長もの。成長といっても時間が人を変えていく。そこが見える映画になったのかな。スタッフみんなが真っすぐに作品に向き合い、いいフィルムになったと思います」と自信を見せる。さまざまな世代が楽しめる作品に仕上がった。

 「この映画のターゲットはジョゼと恒夫の同世代や下の世代だけど、シナリオ段階で、50、60代の方も孫を見るように楽しめると思っていました。自分の立ち位置はそこなのかもしれない……と一歩引いて、おじいちゃんの目線で現場を見ていました(笑い)」

  2016年に公開された「君の名は。」が大ヒットし、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が快進撃を続けるなど近年、劇場版アニメがますます注目を集めている。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大影響もあり、「大ヒット作以外は厳しい……」という関係者の声もある。南代表取締役は、今後も劇場版アニメに積極的に取り組もうとしている。

 「映画は特別なものという感覚があり、ぜひやっていきたい。プロデューサーとして『ストレンヂア 無皇刃譚』というむちゃなアニメを作ったこともありました(笑い)。思いっきりできたんですけどね。若いプロデューサーも映画をやった方がいいと思います。テレビとはお客様が作品に向き合う環境が違いますからね。真っ暗なところで同じ方向を向いて2時間近く見ていただくという環境は素晴らしい。配信などで、アニメを見る環境が変化していますが、映画はずっと変わっていないですし」

 「ジョゼと虎と魚たち」というチャレンジをへて、南代表取締役は「どんどんチャレンジしたい。苦労しますけどね」という。ボンズのチャレンジはまだまだ終わらない。

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