宇宙戦艦ヤマト:音楽が愛され続ける理由 「ルパン三世」との“エモい”共通点も 宮川彬良に聞く

「宇宙戦艦ヤマト2199」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」の音楽を手がけた宮川彬良さん
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「宇宙戦艦ヤマト2199」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」の音楽を手がけた宮川彬良さん

 人気アニメ「宇宙戦艦ヤマト」シリーズは、ヤマトの造形、キャラクター、ストーリーなどさまざまな魅力があるが、音楽も愛され続けている。“ベストアニソン”のような企画があれば、必ずと言っていいほどオープニングテーマ(OP)「宇宙戦艦ヤマト」が挙がる。なぜ、「宇宙戦艦ヤマト」の音楽は愛され続けているのだろうか? 「宇宙戦艦ヤマト」の音楽を手がけた故・宮川泰さんの息子で「宇宙戦艦ヤマト2199」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」の音楽を手がけた宮川彬良さんに聞いた。

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 ◇阿久悠の歌詞、西崎マジック

 宮川さんは、1978年に公開された「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」などに参加し、「2199」「2202」の音楽も手がけた。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」の音楽を担当したことも知られる人気作曲家だ。

 テレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト」の放送が始まったのは1974年、今から47年も前だ。「宇宙戦艦ヤマト」のOPは一度聴いたら忘れない。壮大な前奏、「さらば地球よ」というフレーズから始まる歌などインパクトが強く、アニメは見たことがないが、音楽は知っているという人もいるかもしれない。宮川さんは、愛され続けている理由の一つとして、阿久悠さんが手がけた歌詞の存在を挙げる。

 「阿久悠さんに頼む必要のある歌詞なのか?と思うかもしれませんが、それでもお願いした西崎(義展)さんのプロデューサーとしての采配が大きいと思います。波動砲!ワープだ!という歌詞ではないし、もしそんな歌詞だったら、こんなに愛され続けていないかもしれません」

 宮川さんの父・泰さんに音楽を依頼したのも西崎プロデューサーだった。宮川さんは、名曲の誕生の裏側に「西崎マジック」があったと考えている。

 「西崎さんを中心に、楽曲作りの時点から革命的なアニメになる!と考えていたんでしょうね。宮川泰は『ヤマト』の前に『ワンサくん』というアニメでも西崎さんと一緒に仕事をしています。『ワンサくん』は犬のアニメですからね。ジャンルが全然違うんですよ。でも、西崎さんは、宮川泰が『ワンサくん』から『ヤマト』まで書けると見抜いたんでしょうね。売り手の理論ではなく、作り手の理論です。そこに西崎マジックがあったと思います。この最初の一手が大きかった。その一手で勝負が決まった」

 ◇メロディーの気持ちよさ

 あまりにも有名なメロディーは、なぜ人を魅了するのだろうか? 宮川さんは「『ヤマト』のメロディーの研究はあんまりしていないのですが」と前置きした上で、父・泰さんから聞いた作曲時のエピソードを明かしてくれた。

 「注文がかなり細かくあったという話は聞いています。『ヤーマートー!』というフレーズは、オクターブを下げるように注文があったようです。父は、上げたくなると思うんですよ。派手なのが大好きなので。父は、西崎さんの注文に感心していました。『よくなるんだよな』と」

 さらに音楽家として詳しく分析してもらった。

 「少し専門的ですが、最初のメロディーをAパートとして、『さらば~』のところのコードがCマイナーなんです。『銀河のかなた~』の出だしもCマイナー。『必ず』の『ら』のところでCパート、サビになり、ここのコードも出だしはCマイナーなんです。そして、AパートのCマイナーに戻る。ものすごく流行する曲って、紆余(うよ)曲折があるのに、扉を開けても開けても節目は同じコードということがあるんです。節目こそ、ほかのコードで気分を変えたくなるものなんですが、普通は。『ヤングマン』とかもそうですね」

 同じく愛され続けているアニメ音楽として「ルパン三世」のテーマもある。「宇宙戦艦ヤマト」「ルパン三世」には“エモい”共通点があるという。

 「大概の曲は、単純化するとA、B、Aというパートでできています。『ヤマト』も『ルパン』もAに戻る前にキメが入ります。このキメの数秒間をドミナントと言います。簡単に説明すると、最初の和音に戻りたくて仕方がない状態で、戻らざるを得ない雰囲気を作る。我慢して我慢して、ついに!と戻ってくると、気持ちいいんです。昭和歌謡の一番エモい部分です。その時、わざと戻らずに全然違う調に転調したりするのも格好いいですけれど、そうなるとエモさからは遠ざかる。昭和感より平成感になる……と思います」

 ◇交響組曲への思い

 宮川さんが親子二代にわたって作り上げてきた「宇宙戦艦ヤマト」の音楽の集大成となるCD「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2202」が1月15日に発売される。劇中BGMを再構築し、新たに「交響組曲」としてアルバムを作った、1977年に発売され、父・泰さんが手掛けた「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」を志向しつつ、令和の“ヤマトサウンド”を目指した。宮川さんは「交響組曲」に特別な思い入れがあった。

 「部分的にこれまで録音したものを使うという選択肢もありましたが、全部録(と)り直しました。譜面を変えていないところは全体の7、8%くらいです。単なるBGM集を手軽に交響組曲、交響詩と呼ぶこともあるけど、僕はそれが許せなかった。原点回帰するべきだと思っていたんです。ストーリー性があり、音楽のフルコースのようにして、通して聴く醍醐味(だいごみ)があるものにしたかった。劇伴の交響組曲化とはこうあるべき!というものを作りたかった。半端なものは作れません。100日構想でした。スケッチを描き、スコアを20冊くらい並べ、じっくり作りました」

 「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」を中心に再構成した総集編「『宇宙戦艦ヤマト』という時代 西暦2202年の選択」が1月15日に上映されるほか、今年は「宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち」が上映されることも発表されている。「宇宙戦艦ヤマト」は、放送から半世紀を迎えようとしているが、世代を超えて愛され続けている。宮川さんが親子二代で作り上げてきた音楽もまた、これから50年、100年と愛され続けるはずだ。

※注:西崎義展さんの「崎」は立つ崎(たつさき)

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