超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、最近みられる地方自治体によるゲーム開発などの動きについて語ってもらいます。
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「税金でゲームを作る」というと、違和感を感じる人も多いだろう。しかし、こうした試みが過去数年間で静かに広がってきた。宮城県石巻市が制作中のスマートフォン向けアプリ「石巻市地方創生RPGアプリ」はその一つだ。東日本大震災から10年が経ち、国の復旧・復興支援事業が一段落するのを契機に、3月の配信を予定している。
マンガ家・石ノ森章太郎の所縁の地で、ミュージアム「石ノ森萬画館」をはじめ「萬画(マンガ)の街」として知られる同市。2019年度の「いしのまき政策コンテスト」で地元高校生から「アプリを活用したまち作り」という提案を受けたのを契機に、開発が始まった。埼玉県の井桁屋が開発業務の委託を受け、制作を進めている。
ゲームは架空の石巻市が舞台で、都会から開拓の手伝いに来た魔法師の少年ピーノが、地元の少女や仲間たちと出会い、旅をしながら石巻の危機を救うストーリー。オリジナルモンスターや魔法名の募集など、地域ぐるみで開発が進んでいる。市内で使えるクーポンや、スマホのGPS機能を生かしたアイテムなどを配布し、地域経済の活性化にも役立てる計画だ。
震災で大きな被害を受けた石巻市を、昨年12月に訪問した。市では「アプリが配信できるまでに復興した姿を、ゲームを通してアピールする」ことと、「全国から寄せられた支援に対する感謝の思いを伝えたい」と語る。
制作を手がける井桁屋は、2016年からさいたま市、埼玉県行田市、淡路島、千葉県佐倉市を舞台としたRPG制作を手がけており、本作で5作目だ。地域の民話・伝承を盛り込んだシナリオ、実際の地理を元にしたマップ、GPS機能を活用した観光誘致が特徴で、「地方創生RPG」を掲げる。自治体間で口コミで広がり、ほぼ1年に1本のペースで開発を続けてきた。
他にもAR・VRを活用した「Go!Go!しだみ古墳群」(2018年、名古屋市)、市内の観光名所が舞台のアクションゲーム「宇治市」(2020年、京都府宇治市)、地元で出土した埴輪を育成する「群馬HANI-アプリ~群馬の埴輪を育ててオリジナル古墳をつくろう!」(2020年、群馬県)など、自治体によるゲーム製作は全国で拡大中だ。コロナ禍で移動が制限される中、地域の魅力を全世界に発信するツールとしても、注目を集めている。
また「特撮の神様」円谷英二の生誕地として知られる福島県須賀川市では、2019、2020年と相次いで特撮関連施設「円谷英二ミュージアム」「須賀川特撮アーカイブセンター」を開館した。市では特撮文化拠点都市の構築と発信をかかげ、ミニチュア類などの資料を保存すると共に、人材育成にも活用。第二の円谷英二を輩出したいとしている。
こうした取り組みには、いずれも自治体が主体となって地域の資産を活用し、企業、非営利団体、教育機関などを巻き込んで、課題解決に当たるという共通項が見られる。もっともアプリ開発でいえば、予算規模の小ささ、単年度決算の縛り、開発に比べて運用面の予算がつけにくい、などの限界も見られる。意欲ある自治体が動きやすいように、国の制度設計の見直しが期待される。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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