やくならマグカップも:朝ドラのように 多治見の魅力 家族、友人の絆、成長描く 神谷純監督に聞く

「やくならマグカップも」の一場面(C)プラネット・日本アニメーション/やくならマグカップも製作委員会
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「やくならマグカップも」の一場面(C)プラネット・日本アニメーション/やくならマグカップも製作委員会

 岐阜県多治見市が舞台で、伝統工芸品・美濃焼がテーマのフリーコミックが原作のテレビアニメ&実写「やくならマグカップも(やくも)」。アニメでは、主人公たちが陶芸を通して、絆を深め、成長する姿を描きながら、多治見の魅力を発信している。「やくも」について「作り方は朝ドラ(NHK連続テレビ小説)なんですね」と話す神谷純監督に、アニメの制作の裏側を聞いた。

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 ◇心情を詩的に表現

 「やくも」は、脱サラした父親と母の故郷・多治見に引っ越してきた豊川姫乃が、母が伝説の陶芸家であったことを知り、陶芸の世界に引き込まれていく姿を描く。前半15分がアニメ、後半15分が実写パートの2部構成で、実写パートに声優の田中美海さん、芹澤優さん、若井友希さん、本泉莉奈さんが出演し、多治見のさまざまなスポットを訪れ、魅力を紹介する。CBCテレビ、BS11、TOKYO MX、MBS、AT-Xで放送。

 原作は、2010年に多治見の有志や企業が集まり、プロジェクトが始動。2012年から地元IT企業のプラネットがフリーコミックを発行している。採算度外視で、約10年にわたってプロジェクトを続けてきた。神谷監督は、原作の存在を知り、「腰を抜かしました」と驚いたという。

 「アニメ化のお話をいただき、原作の存在を知り、驚がくしました。そんなに続いているんですか!?と。無料配布のフリーコミックで10年なんてありえないことですよ。商売だけではなく、根幹に情熱、信念があるから続いているわけで、これはその思いを受け止める決心がないとできない!と強く思いました」

 神谷監督は、アニメ化にあたり、「15分のアニメでどこまでストーリーを語れるのか?」を考えた。

 「原作は、大きな筋があるわけではなく、いわゆる“ゆるふわ”なマンガです。これをどう料理したら、原作の魅力を伝えつつ、一クールのアニメになるのか? 今作はアニメパートが15分、実際には12分弱です。全12話分で2時間半程度の時間の作品です。映画でしたら壮大なストーリーになるかもしれませんが、週1本12分弱なので、ストーリーに強いベクトルがあると、ダイジェストのように見えてしまう。難しいんですね」

 アニメ化にあたり“柱”を決めた。さらに、詩的な表現によって、原作、多治見の魅力を伝えようとした。

 「原作の陶芸コンテストのエピソードをストーリーの柱にする。姫乃と父、母の親子の話がテーマの柱として根底にあれば、ゆるふわなところがありつつ、心が温まる話にできるかな?とコンセプトを考えました。ただ、15分でストーリーを描こうとすると、舌足らずになってしまいます。そこで毎話が一片の“詩”として描けないか?と考えました。各話を見て、いい気持ちになった……という印象にしたかったんです。行間を残しつつ、そこに多治見の季節、風物、彼女たちの日常を描く。多治見が舞台であることが浮き彫りになり、日差しや風、水などと彼女たちの心情がオーバーラップするような表現を考えました」

 ◇多治見の魅力 多治見橋で一本通す 

 「やくも」は、多治見を愛する人々の思いが詰まっている。神谷監督はロケハンで多治見を訪れ、魅了された。

 「住みたい!と感じるほど魅力的な街です。何とも言えない懐かしさがあり、オシャレな風景もあります。便利ですし、ゆっくりとここで仕事できたら、すてきだな……と憧れました。街の風景に特徴があるので、目印にしやすい。僕は、アニメを作る時、目印になるものを意識しています。今回は、多治見橋がすごくいいので、これで一本通せると考えました。橋が生活の中に溶け込んでいるのが、いいんですよね。見てくださる方に、あれだ!と覚えていただきたくて、出せるところで出していこうとしました。こういう状況なので、番組を見てすぐには遊びに行けないですが、マンガは続いていくので、いつか実際に多治見に行っていただきたいですね」

 神谷監督は「やくも」について「作り方は朝ドラなんですね」とも話す。週一の放送ではあるが、一話15分、主人公の成長、家族や友人との絆、地域密着……など確かに朝ドラとの共通点も多い。

 「最初はキャラクターの紹介から始まりましたが、これからは、姫乃が陶芸で作りたいもの、喜ばれるとは何だろう?と悩みながら、みんなで笑いながら、コンテストに向かいます。そこで何を得るか?を描いてきます。姫乃の気持ちの流れを追いながら、見ていただけるとうれしいです」と成長、絆、多治見の魅力を丁寧に描く。今後も姫乃の成長を通してさらなる盛り上がりを見せてくれそうだ。

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