前野智昭:「ダイの大冒険」クロコダイン役の葛藤、覚悟 大好きだから「妥協したくない」

「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」に登場したクロコダイン(C)三条陸、稲田浩司/集英社・ダイの大冒険製作委員会・テレビ東京 (C)SQUARE ENIX CO.,LTD.
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「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」に登場したクロコダイン(C)三条陸、稲田浩司/集英社・ダイの大冒険製作委員会・テレビ東京 (C)SQUARE ENIX CO.,LTD.

 人気ゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの世界観、設定を基にしたマンガ「DRAGON QUEST -ダイの大冒険-」の新作テレビアニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」で、人気キャラクターのクロコダインの声優を務める前野智昭さん。前野さんは、高音、低音などさまざまなキャラクターを演じこなし、いわゆる“イケボ”の声優として知られている。「ダイの大冒険」以外でも、クレジットを見て「前野さんが演じていたんだ……」と驚かされることもあるほどの振り幅も魅力だ。それでも、前野さんがクロコダインを演じることに驚いた人も多かったはず。イケボの前野さんが、うなるような低い声のイメージのクロコダインを演じるのは、正直、想像できなかった。ただ、ストイックで、真摯(しんし)に作品、キャラクターに向き合う前野さんだから……という期待もあった。「イメージできない……というのは皆さん、そう感じると思います」と話す前野さんに「ダイの大冒険」、クロコダインへの思いを聞いた。

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 ◇自分ができることをするしかない 覚悟で臨む

 「DRAGON QUEST -ダイの大冒険-」は、三条陸さんが原作、稲田浩司さんが作画を担当し、堀井雄二さんが監修。「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1989~96年に連載された。少年・ダイが、魔法使いのポップたちと魔王を倒すために冒険する姿が描かれた。。1991~92年にテレビアニメが放送されており、約28年ぶりとなる新作テレビアニメが昨年10月にスタートした。前野さんのほか、ダイ役の種崎敦美さん、ポップ役の豊永利行さん、マァム役の小松未可子さんら豪華キャストが集結。テレビ東京系で毎週土曜午前9時半に放送中。

 「原作を何百回も読んでいる」という前野さんは原作の大ファンだった。「あんな格好いいリザードマンはいないですよ」という言葉の通り、クロコダインは魅力的なキャラクターだ。クロコダインは、魔王ハドラーが指揮する六つの軍団の一つである百獣魔団の軍団長として登場し、ダイたちの仲間になる。強い者と正々堂々戦うことを求め、卑劣な戦法をよしとしない武人で、情に厚く、仲間のためなら身をていして戦う。原作の連載当時から人気があった。新作アニメの制作が決まり、前野さんは「マネジャーさんに何かしら携わりたい!と強くアピールしました」という。一方で「クロコダインは自分でもちょっと違うんじゃないのか?」とも感じていた。

 「これまでのキャリアの中で違和感なく自然と演じられるのはヒュンケルやラーハルトかもしれません。オーディションの際は、ラーハルトも演じさせていただきましたが、結果的にクロコダインに適任と選んでいただけました。クロコダインは大事なキャラクターです。原作が大好きだからこそ、僕以外にもっと適任の方がいるんじゃないか?という葛藤がすごくありました。ただ、制作サイドの方々がクロコダイン役と判断してくださったわけですし、自分が納得できるクロコダイン像を考え、作り上げていこうしていました。自分ができることをするしかないので、いろいろなご意見もあるだろうけど、覚悟を決めて、放送を最後まで見ていただいてから判断していただこうと割り切って臨みました」

 ◇喉が痛くても… 妥協なしで役に向き合う

 前野さんは「図書館戦争」「プリティーリズム・レインボーライブ」「はたらく細胞」など数々のアニメに出演する人気声優。低音ボイスが魅力ではあるが、クロコダインのうなるような低い声には驚かされた。「ここまで声を作ってアニメに臨むことはほとんどありません。出しやすい音域で高低の差を付けて、お芝居に集中することが多いので、これまでなかったし、これからもないかもしれません」とクロコダイン役は挑戦となった。

 「低音でモンスター感を出したいという勝手なこだわりがあり、喉に若干負担をかける声の出し方をしています。そこは挑戦でした。子安武人さんが別作品で喉をうならせて演じられていたキャラクターなどいろいろな方の声の出し方を参考にさせていただきました。最初は喉の使い方に慣れませんでした」

 喉は声優にとって生命線だが、負担がかかっても「妥協したくない」という思いから役に向き合った。

 「ほかにも選択肢があるわけで、スタッフの方には『無理のない範囲で演じていただいても』ともおっしゃっていただいたのですが、原作が大好きですし、自分が出しやすい声のクロコダインじゃダメだろ!という思いがありました。自分が出しやすい声では武人感を出せてもモンスター感は出せない。妥協したくなかったんです。多少喉が痛くなっても、そこを大事にしたかった。最初は、次の日に影響があるくらい喉にダメージがありました。でも、ヒュンケルと対峙(たいじ)するシーンくらいから、大丈夫なのかな?となっていったんです。今は次の日も何ともありません。喉の使い方を変えたわけではないんですけど、出し方に慣れてくるもんなのです。すきあらば、家や車でこの発声を練習していましたしね」

 ◇夢のよう 声優冥利に尽きる!

 前野さんはクロコダインを演じていることを「夢のよう」と感じているという。

 「『ダイ』のオーディションを受けてから毎晩のように夢を見ていましたから。アフレコの夢だったり、ダイやポップのピンチに駆けつける夢を。幸せですよ。子供の頃、大好きだった作品で大好きなキャラクターを演じられるなんて、信じられない。今でも、夢じゃないかな?と思っています。こんなことあるんですね。声優冥利に尽きますよ」

 演じる中でクロコダインへの思いがさらに強くなっている。

 「誰よりも武人らしく、忠誠心があり、信念もしっかりある。人間以上に人間らしい。何度倒れても立ち上がる。今でこそ、ゲームでもタンク、盾役という言葉が浸透していますが、原作の連載当時はメジャーではなかった。身をていして仲間を守るところが格好いいんです。ネタのように扱われることもあるけど、それもみんなに愛されているからですし。それに、いいことを言うんですよ。『いいぞ、人間は』『ギガブレイクで来い!』とか。大体のせりふは、これまでもすきあらば練習していましたし、どうやろうか?と考えてきました。台本に書いていなくても『ぐわあああっ!』と言いたくなったり(笑い)。気合が入ります」

 アニメ「ダイの大冒険」は、キャスト、スタッフの熱い思いが込められている。

 「スタッフさんとも話し出すと止まれなくなるんです。原作に忠実で、オリジナルの描写もあり、新しい『ダイ』になっていると感じています。もちろん過去のアニメをリスペクトしていますし、僕も(過去にクロコダインを演じた)銀河万丈さんをリスペクトさせていただいた上で、クロコダインと向き合っています。まだまだ熱く語りたいです。止まらなくなりそうですが」

 前野さんのストイックな姿勢はクロコダインと重なる。今後の熱い演技に期待したい。そして、前野さんの熱いトークをもっと聞いてみたいのだが……。トークイベントなどの開催にも期待したい!

 注:種崎さんの「崎」は「たつさき」

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