7月9日に公開される中国映画「唐人街探偵 東京MISSION」(チェン・スーチェン監督)に出演する俳優の妻夫木聡さん。1998年に俳優デビューしてから、これまでにさまざまなドラマや映画で主要なキャラクターを演じるなど順調にキャリアを積み上げ、昨年には40代に突入。40歳になり肉体的な変化は感じているが、同時に精神的な余裕も生まれ、今は「いろんなことを純粋に楽しめている」と充実感をにじませている。そんな妻夫木さんに今作の撮影エピソードを聞くとともに40代に突入した今の心境などを聞いた。
◇自ら中国語のせりふ増量
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映画はコメディー、ミステリー、アクション、ドラマを掛け合わせた“全ジャンルメガ盛り”のエンターテインメント。関東各地で大規模ロケを行うなど壮大なスケールで製作され、日本からは妻夫木さん、長澤まさみさん、染谷将太さん、鈴木保奈美さん、浅野忠信さん、三浦友和さんらが参加。探偵コンビのタン・レン(ワン・バオチャンさん)とチン・フォン(リウ・ハオランさん)は野田昊(妻夫木さん)から依頼され、東京で東南アジアのマフィア会長の密室殺人事件で起訴されたヤクザの組長・渡辺勝(三浦さん)の冤罪(えんざい)証明に挑む。だが殺された会長の秘書・小林杏奈(長澤さん)が何者かに誘拐され、さらに探偵世界ランキング第1位で正体不明の「Q」も現れ……という内容。
妻夫木さんは前作「唐人街探案2」に続いての出演。演じる野田は、派手なスーツに身を包むお金持ちのキザな男だが、探偵として高い能力を持つ人物だ。そんな野田を、妻夫木さんは「ヒールに見えて意外とやさしい男」といい、「一匹狼感もありつつ、意外とやさしさも持ち合わせている男。そうした憎めないところがいい。だからメリハリのきいた芝居が求められたし、そういうことができる楽しみもあって、撮影はすごく楽しかったです」と回顧する。「『2』のときは『とにかくクールにやってくれ』とすごく言われて。僕、あまりカッコつけた芝居をする役を演じたことがなかったので、『2』も『3』(本作)も思いっきりカッコつけた芝居を意識して演じました」と振り返る。
野田は日中のハーフで、日本語と英語、中国語を操るトリリンガルという設定。そのため役作りで中国語の勉強に励んでいたが、想定していたよりも中国語のせりふが少なかったため、自ら増やすように提案したという。「今作ではもっとしゃべるだろうと、前作『2』が終わった後で中国語の勉強はしていたんです。でも台本を見たら少なかったので、『ここは中国語に変えていいですか』と結構、増やしました。僕は探偵側として主役の2人に寄り添っていた方がいいなと思ったので、日本語より中国語のせりふが立つように、なるべく多くさせてもらいました」と語る。
言語の習得という意味では、実は前作の方が苦労が多かったという。「『2』のときは英語と中国語のせりふが満載で。1、2シーンぐらいしか出ていないけど、めちゃくちゃしゃべっているんですよ! 勘弁してくれ、と(笑い)」と振り返り、「だから『2』の方が大変だったかもしれないですね。『3』は心構えができていたのでのんびり勉強できました」とほほ笑む。中国語の勉強は、中国映画に対して敬意を示す意味もあり、「中国映画の中にお邪魔している感覚なので、日本代表のひとりとして『なんとなく仕事をしに来てはいないですよ』と、ちゃんと見せたかったんです」と語る。
野田は派手なスーツ姿も見どころだ。妻夫木さん自身も「すごかったですね」と笑い、劇中でゴーカートに乗って東京の街中を走るシーンの思い出を口にする。「表参道で撮影していたんですが、カットがかかってから元の場所に(ゴーカートで)自分で戻らないといけないんです、信号待ちをして(笑い)。あの原宿の信号で、あの格好でゴーカートに乗っていて、『あれ、妻夫木だな』と通行人に見られていたことが一番キツかったですね。『僕は野田だ』と、何も考えないようにしていました」と苦笑しつつ楽しそうに明かす。
デビュー以降、映画や連続ドラマでさまざまな主要な役を演じてきた妻夫木さん。演じるうえで大事にしている思いを聞くと、「役に寄り添っていく」ことだという。
「芝居の仕方はいろいろあって、どうしても自分の経験に重ねようとする部分があると思うんですが、僕は役を自分に引き寄せるのではなく、『自分が役に寄り添っていく』ことを心がけるようにしています」と妻夫木さん。「役を自分に引き寄せようとすると、計算で芝居しようとしてしまう。それも大事ではあるんですが、役が生きていない瞬間が出てくるような気がするんです。そうではなく、もっと生命力あふれる人物であってほしい、映画の中だけでもしっかりと生きてほしい、という思いが僕には強くある。だからこそ『役に寄り添う』という気持ちが強いのかもしれないです」と思いを語る。
そんな妻夫木さんも、昨年には40代に突入した。近年、年を重ねたことによる変化として、過去の自分を客観的に“別人”として見るようになった、という。
「不思議ですけど、過去の自分の映像を見れば見るほど、自分を見ている感覚にならないんですよね。20代の映像は特に、別の誰かを見ている感覚になる。他人を見ている感覚なんです。そういうことはこれまで、あまりなかったんですが。それだけ、映っているそのときの顔と、毎日見ている今の顔の差が出てきているのか……(笑い)。もしかしたら無意識に、『年を取った』と感じているのかもしれないですね。そう思うようになったのは30代後半になってから。30代前半のころは、(2004年放送のドラマ)『オレンジデイズ』の映像を見ても『24、25歳のころだったかな?』というノリだったけど、今は『もう、17年前の話じゃん』という感覚が先にくる。それは初めての感覚でした」
40歳になり、肉体的な変化も感じている。「僕、童顔だなと思っていて、それが悩ましいところでもあるんですけど……ありがたいことに、まだ若い役のオファーも来るんですけど、ちゃんと体は年を取っているんですよね(笑い)。アクションをしても、すぐにケガしちゃう。昔はケガをすることはほとんどなかったんですけど……『これぐらい、ストレッチしないで飛び降りても大丈夫でしょ』と思っても、ちゃんとくじくんです」と笑う妻夫木さん。「年を取ったな、と思いますね。体は正直なんですよね。気持ちは、40歳を超えてもあまり30代と変わらないなと思うけど、何かをやろうとすると、ちゃんと年を感じるんですよね。人の名前が出てこなくなるとか(笑い)」と赤裸々に語る。
ただ、嘆くばかりでなく、年を取ることを楽しんでもいる。「習い事がどんどん楽しくなりますよね。英会話とか、ボクシングとかもやっていますけど、新しいことを始めてから『こんなに面白いことがあったんだ』と思うことがあります」と妻夫木さん。
「若い時には『いつかやろう』となぁなぁにしていたことも、今だからこそ挑戦できる。40代って、男にとっては『あこがれの年代』という感覚があり、お金の面でも精神的な面でも少し余裕が出る年代なのかなと思う。純粋に楽しめるようになったんですよね。昔は何かをするときに『これを糧にする』という思いがあり、“努力”というワードが頭をよぎっていたけど、今はそういう欲がないんですよ。純粋にそれ自体を楽しめる余裕があるんですよね。だから今は、いろんなことを純粋に楽しめています」とほほ笑む。
40代は、仕事でもそんな自由な考え方を持ち続けていきたい、と妻夫木さんは言う。「自由な考え方、柔軟性をキープして過ごしたいですね。『この仕事をしたらどうなる』とか頭でっかちにならず、柔軟に『この役楽しそうだな』『この役として生きてみたらどういう世界なのかな』と想像力を膨らませながらいろんな役と向き合っていきたいなと思っています」と柔らかな笑顔で語った。
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