UFC265:デリック・ルイス選手VSシリル・ガーヌ選手 “世界のTK”こと高阪剛「ヘビー級最強決める戦いの始まり」

「UFC265」に登場するデリック・ルイス選手(左)とシリル・ガーヌ選手 Getty Images
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「UFC265」に登場するデリック・ルイス選手(左)とシリル・ガーヌ選手 Getty Images

 世界最高峰の総合格闘技イベント「UFC265」が、8月8日(日本時間)、米テキサス州ヒューストンで開催される。メインイベントはデリック・ルイス選手とシリル・ガーヌ選手のヘビー級暫定王者決定戦。同試合の見どころを、WOWOWの「UFC -究極格闘技-」解説者で、“世界のTK”こと高阪剛さんが語った。

ウナギノボリ

 --ルイス選手対ガーヌ選手の一戦、ヘビー級好きの高阪さんの大好物じゃないですか?

 そうですね。しかも、ヘビー級の中でもとくにファンタジックなデリック・ルイスですから(笑い)。

 --ルイス選手は技術や理屈を超えた存在ですね。

 これだけ技術が進歩したUFCという最高峰の舞台で「1発当てれば倒せる」という試合をやってきてますからね。

 --UFC屈指のハードパンチャーで4連勝中。直近2試合はパンチでKO勝ちしてます。

 また意外とハンドスピードが速いんですよ。体型を見るとおなかは出てるし、全体的な動きは速いとは言えないけど、パンチ自体は速く打てる。だから相手からの見え方が、野球のチェンジアップからのストレートじゃないですけど、スローな動きからいきなり速いパンチが飛んでくるから、対応しづらいんだと思いますね。

 --速いパンチが、実際よりさらに速く見えるわけですね。

 あとは、必ず自分も(相手の打撃を)打たれるし、テークダウンも取られるのに、後半、なんだかんだで復活してくるんですよね。

 --確かにスタミナがなさそうに見えて、逆転勝ちが多い。

 試合途中で膝に手をついて、見るからにスタミナ切れを起こしているにも関わらず、相手が仕留めようとして近付くと速く強いパンチが飛んでくる。スタミナ切れを“エサ”にして、隙(すき)ができた相手を逆に食ってしまうというね。それを本人が意図的にやっているのかどうかは別として、相手は一瞬気を緩めた瞬間に仕留められてるんです。

 --あのヘロヘロの姿を見たら「もう少しで倒せる!」と誰でも思いますものね。

 それで前に出てきたら、カウンターのオーバーハンドを入れたり、前回はアッパーでカーティス・ブレイズを完全KOしてますからね。そういった打撃技術は本当に高いんですよ。

 --そしてUFCで積み重ねたKOが12回。これはUFC史上最多KO勝利記録です。

 これだけ技術体系がしっかりできているUFCにおいて、そのKO率は普通じゃないですよ。その記録だけ聞いて、「どんなすごい技術を持っている奴だ?」と思ったら、見た目は全然テクニシャンタイプじゃないっていうのが、面白いところですよね。

 --試合後、暑いからってオクタゴンの中でトランクスを脱いで、怒られちゃうような、憎めない選手ですよね。

 “怪童”って感じですよね(笑い)。

 --一方のガーヌ選手は長身で運動能力が高く、非常にバランスの取れた「戦士」という感じの選手です。

 本当に対照的ですよね。ルイスはベタ足で強打を振るうタイプですけど、ガーヌはもともとサッカーやバスケットボールの選手だったからか、サイドステップをはじめとした、ステップワークがすごくいいんですよね。あんなにデカい選手なのに、オクタゴンを前後左右、縦横無尽に動くことができる。それはやはり、もともとやっていた競技が影響しているのかもしれない。サッカー、バスケなんて、サイドステップが踏めないと、話にならない競技ですから。

 --そのフットワークがあるからこそ、MMA(総合格闘技)転向前、キックボクシングでも13戦全勝という戦績を残せたのかもしれません。

 身体能力が高いんで、いろんなことに対応できるし、余裕を持って戦えてるんですよ。また、フットワークと距離感を掴むのが非常にうまいので、相手からすると自分の距離設定にさせてもらえないんです。

 --ジャルジーニョ・ホーゼンストライク選手も、翻弄されていました。

 結局、追いかけっこになったら、ガーヌの方が速いので、捕まえられないんですよ。ガーヌは踏み込みも速いし、相手から離れるのも速い。だから自分の打撃だけ当てて、相手の打撃はもらわないことがしっかりできる、ヘビー級ではなかなかいないタイプですね。

 --蝶のように舞い、蜂のように刺すことができるというか。

 動き的にはそうですよね。

 --だからこそ現在MMA9戦全勝、UFC5戦全勝とパーフェクトレコードを誇っている。

 ガーヌはこれまでピンチらしいピンチも経験してないんですよね。だけど逆に言うと、そこが若干の心配材料でもあるんですよ。自分のペースで試合を進められているときは自在に動けますけど、相手が構わずバンバン出てきてピンチに陥ったとき、果たして彼本来の動きができるのかっていうのは、まだ未知数ですから。もし、デリック・ルイスの重いパンチをもらって効いてしまったとき、どう戦えるか。そこに興味がありますね。

 --そういう危機に陥る状況こそガーヌ選手にとって未知の領域なので、そこで本当に力が発揮できるかが、心配材料だと。

 そうですね。ただ逆にいうと、今のところそれぐらいしかウイークポイントは見当たらないんですよ。あえてそれを指摘する必要はないのかもしれませんけど、本当に目指す頂、ヘビー級の正規チャンピオンは圧倒的な強さを誇るフランシス・ガヌーですから。今のうちにと言ったらおかしいですけど、本当の意味でのコンプリートファイターになっておかないと、今回ルイスに勝てたとしても、フランシス・ガヌーと統一戦になったとき、さあどうなのかという。

 --今回はあくまで暫定王者決定戦ですから、その後の正規王者であるガヌー選手を倒すことまで考えて、自分を作り上げる必要があるということですね。

 ガーヌの場合はそうですね。一方、ルイスが暫定王座戦で勝ってフランシス・ガヌーと統一戦をやっても、いつもとあまり変わらない試合をすると思うんで(笑い)。フランシス・ガヌーであろうとも、自分のパンチが当たれば勝つっていう、そこに確信を持っているはずなんで。そこがルイスの強みですね。

 --ガヌー選手の他にも、ライトヘビー級絶対王者だったジョン・ジョーンズ選手が挑戦してくるという話もあります。そして、前王者のスティーペ・ミオシッチ選手もタイトル奪還を諦めてなかったりと、メンバーがかなり充実してきています。

 だから今回のルイス対ガーヌの暫定王者決定戦は、真のヘビー級最強を決める戦いの始まりという印象を自分なんかは持ってますね。勝ったほうが正規王者フランシス・ガヌーと統一戦をやって、そこにジョン・ジョーンズ、ミオシッチなども加わるヘビー級大戦争がいよいよ開幕する。その第1弾としてルイス対ガーヌは非常に楽しみなカードだと思います。

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 試合の模様は、「生中継!UFC-究極格闘技- UFC265 in ヒューストン ヘビー級暫定王座決定戦 ルイスvsガーヌ」と題し、8月8日午前11時からWOWOWライブで生中継、同月9日午後6時40分からWOWOWライブでリピート放送。両日とも、WOWOWオンデマンドで同時配信される。

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