小野憲史のゲーム時評:親子でできるゲーム作りと問われるモラル教育

プログラミングアプリ「スプリンギン」
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プログラミングアプリ「スプリンギン」

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、「自分でゲームを作って遊ぶ」ところまで広がったゲームの楽しみ方と、モラル教育のあり方について語ります。

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 ゲームは数ある遊びの一種だが、ゲームを通して別の遊びが生まれることもある。ゲームのクリアタイムを競う「速解き」はその一つだ。中にはプログラムのミスを活用して、通常は何十時間もかかる大作RPGを、十数秒でクリアするなどの事例も存在する。ゲームの開発者が想定した遊び方ではないが、当人にとっては「ゲームを遊ぶ」行為に他ならない。むしろ「ゲームで遊ぶ」というように、遊び方が広がっている例だと言えるかもしれない。

 「ゲームを遊ぶ」から、「ゲームで遊ぶ」、そして近年では「ゲームを作って遊ぶ」へと、ゲームの楽しみ方は、ますます広がっている。背景にあるのがプログラミング教育と、一人一台の端末普及だ。こうした変化を受けて、夏休みの自由研究のテーマにもゲーム作りが見られるようになってきた。コロナ禍で巣ごもりが続く中、ゲーム作りは家庭で手軽に楽しめる遊びの一つでもある。今夏、親子で楽しんだ人もいるのではないだろうか。

 ゲーム作りやプログラミングの敷居も下がっている。スマートフォンやタブレットを使い、タッチ操作で手軽にゲームや絵本が作れるプログラミングアプリ「スプリンギン」はその一つだ。今夏には学研ホールディングスとコラボして、自由研究をテーマにしたアプリコンテストも実施された。公式サイトではコンテスト作品を学校の自由研究として提出できるシートも公開中だ。こうした変化は今後も続いていくだろう。

 もっとも、「与えられたゲームを遊ぶ」行為から「自分でゲームを作って遊ぶ」といったように、ゲームの楽しみ方が広がってくると、ゲームとの付き合い方も少々変わってくる。ゲーム作りとは、ルールを組み合わせて世界を創造し、プログラムで表現する行為だ。自分が作ったゲームでは、自分が神様になれる。キャラクターを無敵にするのも、ビジュアルを変えるのも自由自在だ。それだけに、ともすればモラルから逸脱しやすい子供たちが出てくるのだ。

 実際に大学や専門学校でゲーム作りを教えていると、反道徳的なゲームのアイデアがしばしば出てくる。満員電車で刃物を振り回し、乗客を惨殺していくゲームなどだ。もっとも、ダンジョンで剣をふるい、モンスターを倒していくゲームはたくさんある。両者の違いは設定やグラフィックの違いでしかない。しかし、遊んだ人が受ける印象は大きく異なる。この違いについて考えることは、クリエーターになるための第一歩であり、授業でもよく引用している。

 ここから論を広げてみよう。我々の社会は「自分」と「他者(他人・世界など)」と、互いの「関係性(法律・文化・慣習など)」で成り立っている。ゲームも「自機」と「ゲーム世界」と「ルール」で構成されており、関係性は同じだ。一方でゲームは現実世界よりもシンプルで、派手で、失敗しても再挑戦できるなど、違いもある。そしてゲームを作ることは、現実世界を観察し、妄想を膨らませ、表現する行為でもある。そこには一定のモラルが求められるはずだ。

 もっともゲームの楽しみの中には、現実世界の制約からの解放も含まれる。何が道徳的で、何が反道徳的かも、文化によって異なる。萌えキャラを用いた表現を好ましいと思う人もいれば、不快に感じる人もいるなど、表現を巡る問題に唯一無二の正解はない。その一方でネット社会の進展に伴い、特定の表現が炎上するリスクも高まっている。表現の自由と社会的責任の両立について、今まで以上に考えていく必要があるだろう。

 家庭にコンピューターが入り始めた1980年代、ゲーム作りは筆者をはじめとした、多くの子供たちにとって身近な遊びの一つだった。ゲーム作りが高じてプロのゲーム開発者になった例も数多い。そして今、再びゲーム作りが子供たちに身近な存在になりつつある。当時と今との大きな違いはネット環境の有無だ。自分たちが作ったゲームを手軽に発信できる世の中で、クリエーターのモラル教育のあり方について、あらためて考えていきたい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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