でーじミーツガール:90秒でストーリーは伝わるか? 異色のショートアニメの挑戦

「でーじミーツガール」のビジュアル(C)波之上青年団/でーじミーツガール製作委員会
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「でーじミーツガール」のビジュアル(C)波之上青年団/でーじミーツガール製作委員会

 沖縄が舞台のオリジナルショートテレビアニメ「でーじミーツガール」は、1話が約90秒ととにかく短い。ショートアニメはいわゆる“5分アニメ”が主流だが、さらに短い。さらに、異色なのは90秒にもかかわらず、ストーリーアニメであることだ。第1、2話が放送されると、ストーリーがつながっている!?と驚かされた人も多かったようだ。90秒でストーリーは伝わるのか? 異色のショートアニメの制作の裏側を探った。

ウナギノボリ

 ◇90秒で何ができるか? 実は尺の使い方がぜいたく

 「でーじミーツガール」は、沖縄で家業のホテルを手伝う高校1年生の比嘉舞星が、本土から宿泊客としてやって来た“ワケあり”な謎の青年・すずきいちろう(?)と出会ったことで巻き起こる不思議な出来事が描かれる。「雲の向こう、約束の場所」など新海誠監督作品に初期から携わるアニメーターの田澤潮さんが監督を務め、沖縄県出身のマンガ家、イラストレーターの丸紅茜さんがキャラクター原案、シリーズ構成を担当。「アルスラーン戦記」「東京リベンジャーズ」などのライデンフィルムが制作する。

 同作はMBS・TBS系の深夜アニメ枠「スーパーアニメイズム」で放送中の「ブルーピリオド」の終了後、90秒にわたって放送されている。「スーパーアニメイズム」の“おしり”と呼ばれている枠で、同枠ではこれまで「犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい」「俺、つしま」などが放送されてきた。

 放送時間が5分から10分未満の深夜アニメが2011年ごろから急増したとも言われているが、その多くはコメディータッチのもので、ストーリーアニメの「でーじミーツガール」は異色だ。ライデンフィルムの稲垣敬文プロデューサーも「ショートアニメは何本か作ってきましたが、どれもコメディータッチでした。ショートでストーリーアニメを作るのは難しい」と話す。

 MBSの亀井博司プロデューサーも「難しいかもしれない」と考えていたというが、制作に踏み切った。

 「元々、『スーパーアニメイズム mini』として『炎炎ノ消防隊』の声優が出演するミニ番組を放送していた枠で、アニメも放送することになり、90秒にハマる作品を放送してきました。ライデンフィルムさんと相談させていただく中で、田澤さんでショートアニメを作ってみたいというお話がありました。田澤さんにお会いしたところ、丸紅茜さんというイラストレーターさんがいらっしゃり、ぜひこの方とやってみたいとのことでした。丸紅さんテイストを90秒で表現するのは難しいのでは…?とも思ったのですが、ストーリーアニメにすることで、段々と山を作るような構成ができるかもしれない……と考えるようになりました。30分、全12話のオリジナルアニメをいきなり作るのはハードルが高いですが、ショートであればチャレンジできますし」

 90秒でストーリーアニメを作るのは実験だ。稲垣プロデューサーは「ショートでは間を見せることも難しい」とも考えたが、制作を進める中で「90秒でも成立する」と確信した。

 「田澤監督、丸紅さんが話し合い、監督が90秒を全12話でつなげると一つのストーリーになるようにシナリオとして落とし込んでいきました。最初はもっと尺が必要かな?とも思ったのですが、すんなりとシナリオが進んだんです。尺の調整を若干していますが、削ったところはありません。アニメはせりふで説明しがちですけど、せりふでできないことは絵で説明していて、実は尺の使い方がぜいたくなんです。90秒で何ができるか?を考え、90秒ならではの尺の使い方をしています。カット数は普通のショートに比べると多く、30~40カット程度です。ただ、詰め込みすぎると分かりにくくなります。ショートだからできたところもあります」

 ◇90秒で30分でも2時間でもアニメはアニメ 丁寧に

 90秒だからといって、何かを犠牲にしたわけではない。稲垣プロデューサーは「90秒で30分でも2時間でもアニメはアニメ。丁寧に作っています」と語る。

 「第1話にして間を考え、何かを省いたわけではありません。ホテルの受け付けのシーン、舞星が浮き輪を持ち、壁に掛けて、階段を上っていく……と丁寧に見せています。魚もCGモデルを作り、実際に沖縄の魚の色に合わせていますし、第3、4話に出てくる鳥も沖縄に実在する鳥をモデルにして作画しており、やっていることは30分のテレビアニメと変わりません。本当に90秒かな?というくらい労力を掛けている。妥協しているところはありません。監督、スタッフの皆さんの力でできたことです」

 亀井プロデューサーも「丸紅さんの美しい世界、例えばつながっていない輪郭線をアニメで表現するのはハードルが高いとも思っていましたが、田澤さんとライデンフィルムのスタッフだからできた。表現の面白さもあり、見たことがない映像になった」と話す。

 90秒という短さは気軽に見られるメリットもある。「TikTok」なども顕著だが、スマートフォンでショートムービーを楽しむ人が多い昨今、90秒のショートアニメは時代にマッチしているのかもしれない。

 90秒でストーリーは伝わるのか? 亀井プロデューサーは「伝わります。満足感のある映像ですし、体感はもっと短いかもしれません」、稲垣プロデューサーは「90秒ですが、ちゃんと1話になっています。電車の移動中も気軽に見られます。丁寧に作り込んでいるので、何度も見返してほしいです」と自信を見せる。

 90秒でもストーリーアニメとして成立しただけでなく、新しい表現にも挑戦できた。「でーじミーツガール」の「でーじ」は沖縄の言葉で「大変」という意味。スタッフの「大変」な熱意があったからこそできたことなのだろう。ぜひ、90秒の濃密な世界に触れてほしい。

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