小林千晃:「サマーゴースト」 表現を突き詰める喜び 悩み抱える高校生を「繊細に」

「サマーゴースト」で杉崎友也の声優を務める小林千晃さん
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「サマーゴースト」で杉崎友也の声優を務める小林千晃さん

 住野よるさんの小説「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」などのイラストを担当したイラストレーターのloundraw(ラウンドロー)さんが初めて監督を務める劇場版アニメ「サマーゴースト」が公開された。メインキャラクターの高校生・杉崎友也の声優を務めるのが小林千晃さんだ。収録では、細かい言い回しや声の出し方にこだわり抜き、「とにかく繊細な演技が求められた」といい、「一つ一つの表現にこだわってもらえることがうれしかったですし、楽しかったです。僕の引き出しにはなかったものを抽出してくださった」と振り返る。アフレコの様子や、作品の魅力について聞いた。

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 ◇アニメっぽくないアニメ 劇的な変化が起こらないからこそ共感できる

 「サマーゴースト」は、loundrawさんが描いた一枚のイラストから生まれた物語。ネットを通じて知り合った高校生の杉崎友也、春川あおい、小林涼が、若い女性の幽霊で花火をすると姿を現すという“サマーゴースト”に会おうとする……というストーリー。自身が望む人生に踏み出せない友也、居場所を見つけられないあおい、輝く未来が突然閉ざされた涼の思いが交錯する。島袋美由利さんがあおい、島崎信長さんが涼、川栄李奈さんがサマーゴーストと呼ばれる女性の幽霊、佐藤絢音をそれぞれ演じる。

 小林さんは、作品に対して「いい意味でアニメっぽくない。実写映画に近い人間ドラマ」と感じたという。

 「作品のテーマを分かりやすく伝えることがアニメならではの魅力の一つと思うのですが、『サマーゴースト』は、静かで淡々としていて、劇的な変化がないというところで、ちょっと変わった作品なのかなと。登場人物はそれぞれに悩みを抱えていて、終盤は気持ちは前向きに変わっていきますが、現状を変えられるわけではなくて。でも、劇的なことが描かれないからこそ、共感できることが多いんじゃないかと思いました」

 小林さんが演じる友也は、受験を控える高校3年生で、成績優秀で何事もそつなくこなすが、勉強以外を認めない親にうんざりしている。絵を描くことが大好きという思いも秘めている。小林さんは友也を「フラットに演じた」と話す。

 「最初は、絵を描くというやりたいことがあるけど、親から止められてできないもどかしさがあったり、もやもやしていたり、暗い部分が大きい子なのかなと思っていたんです。でも、いざアフレコをやってみて、友也はいろいろなことを受け入れて、割り切っているから、逆に暗くないんだなと。ディレクションでも暗さはなくていいと言われたので、本当の意味でフラットに演じました。相手の言葉に対して素のままで返すという。もちろん、何も考えていない、悩みがないわけではなくて、いろいろなことを受け入れているからこそのフラットさを意識しました」

 ◇自分の引き出しにはなかった表現 マイクに乗らないような音も…

 小林さんが「いい意味でアニメっぽくない」と表現した「サマーゴースト」は、収録もほかのアニメ作品とは異なる部分が多かったという。

 「例えば、ほかの作品では、キャラクターが振り向く時は『おっ』とか『あっ』とか声を発するようにディレクションを受けることが多いんです。でも、この作品に関しては、リアクションは全て息で表現するように音響監督に言われて、『あ……』と息をつくぐらいでいいと。普通であればマイクに乗らないぐらいのボリュームの音も音響の技術で拾ってくれて、それを拡大して使うようにしてくれていたんです。はっきりしゃべるとニュアンスが出すぎるから、口を閉じてしゃべるように指示されたこともありました。本当に繊細なもの、ほかの作品であれば、『それでは何を表現しているか分からない』と言われるようなことを求められて、それに応えていくという収録でした」

 「僕がこれまで出演してきた作品の中では、断トツにリアクションのリテークが多かった」といい、それほどまでに一つ一つに表現を追求できたことに喜び、楽しさも感じたという。

 「loundrawさんが思い描く友也らしさを表現するために、言い回しや言葉の使い方にこだわったことは、僕にとって挑戦だったと思います。求められることができていないから何回も録(と)り直すのではなくて、『こっちのほうがいいかも』『さっきのは忘れてこっちでやってみて』と、何回もいろいろなパターンでやる。僕自身も何十回と同じシーンを演じているから、どれが使われたのか覚えていないんですけど、声が入った映像を見ると、僕だけでは出せない表現がたくさんあると感じました。僕の引き出しになかったものを抽出してくださった」

 ◇求められる濃い役者に

 小林さんは「サマーゴースト」の収録で、「僕がこれまで見てきた洋画の吹き替えやアニメではなかったような表現」を経験し、「ただただ必死だった」という。

 「『サマーゴースト』はloundrawさんが原案、監督、キャラクターデザインをはじめ背景美術や作画などの実制作にも参加されているので、一人の人が答えを持っている。loundrawさんが思い描くものを僕が表現できるのかなと思っていたのですが、収録後には、『すごくよかったです』という言葉をいただけて、うれしかったです」

 小林さんは、「GREAT PRETENDER」の主人公・枝村真人役、「Sonny Boy」の朝風役など、さまざまな話題作で存在感ある演技を見せる人気声優だ。今後の目標は「求められる人になること」だという。

 「どの年齢になっても声優は、オーディションを受けて、役を勝ち取ることが大前提だと思うのですが、『このキャラクターは小林千晃にハマると思うからお願いしよう』『オーディションに呼ぼう』と、求められる役者になれたらなと。僕のことを唯一無二と思ってくださる人が増えれば増えるほど、役者としての価値も上がっていくと思うので、個性のある、濃い役者になれたらなと思います」

 声優として高みを目指す小林さん。「サマーゴースト」のこだわり抜いた繊細な演技に注目したい。

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