小野憲史のゲーム時評:KADOKAWAの社史から見えるゲーム事業の展望

「KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展」
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「KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展」

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、話題を呼んでいるKADOKAWAの社史と同社のゲーム事業について考えます。

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 「KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展」を読了した。PCゲーム雑誌「コンプティーク」の創刊編集長を振り出しに、角川グループホールディングス代表取締役社長などを務めた佐藤辰男氏による、KADOKAWA3冊目の社史だ。当初は関係者のみに配布されたが、内容の充実ぶりに要望が殺到し、電子書籍版が期間限定で無償公開された経緯がある。電子書籍の理想的なあり方だと感心させられた。

 内容面では1980年代以降の躍進が「サブカルチャー」「メディアミックス」「上場」で説明される。サブカルチャーへの注力で読者目線のIPを育てる。メディアミックスでIPの価値を最大化させる。上場益でM&Aを推進し、メディアミックスの環境整備を進める。これらを通して、不易流行(時代に左右されない本質的な価値の創造)を目指すというわけだ。本書を通して自社のビジョンについて再確認できた社員も多かったのではないだろうか。

 ただ、一つ疑問点がある。ゲーム事業に関する記述が非常に少ないのだ。映画事業に関する記述と比べると、その差は歴然としている。

 同社は前身の角川書店時代から、家庭用ゲームのサードパーティという側面も持つ。スーパーファミコン期から参入し、現在までに数十タイトルを発売済みだ。しかし、本書ではそうした下りが省略され、2009年に設立された角川ゲームスが「艦隊これくしょん -艦これ-」「ロリポップチェーンソー」を出したことや、2014年に傘下となったフロム・ソフトウェアが「SEKIRO:SHADOWS DIE TWICE」でヒットを記録したことなどにとどまっている。当時を知る者として寂しく感じられた。

 もっとも、多くの出版社がゲーム業界に参入し、撤退していった中で、現在までゲーム事業を続けている点は評価したい。そのうえで本書では、「これからは(コミック=アニメ=ゲーム)のネットワークの中にアニメ事業を位置づける」という、アニメ事業局局長の発言が紹介されている。中国市場でアニメ(A)、コミック(C)、ゲーム(G)が娯楽をけん引していることを受けての発言だろう。素人目にも三者は相性が良さそうに感じられる。

 ただし、ことはそう単純ではない。アニメ、コミックに比べて、ゲームの開発原価が巨大になりすぎたからだ。中国miHoYoが開発・運営し、日本でもヒット中のスマホゲーム「原神」では、開発費と初期マーケティング費用をあわせて100億円以上を投入したとされる。国産タイトルでは、開発に3年をかけたCygamesの「ウマ娘 プリティダービー」も同様だ。今や5億~15億円の案件が撃沈を重ねる中で、これらの向こうを張るタイトルを創り出すのは、容易ではないだろう。

 家庭用ゲームも同様で、今や中途半端な完成度では目の肥えたユーザーを満足させることはできない。「SEKIRO」の開発と販売に米大手のアクティビジョンが名を連ねた一方で、KADOKAWAの関与が乏しかった点は一例だ。成長著しいインディーゲーム分野も、作家性が強くメディアミックス戦略にのりにくい。実際に講談社や小学館がインディゲーム支援に乗り出す一方で、同社の動きは鈍いように思える。結果的に同社にとって、ゲーム事業は現状維持が最適解となる。

 一方でゲームをとりまく環境は急速に変化を続けている。米国の大手動画配信サービス「Netflix」がゲーム事業に乗り出したのは好例だ。メタバースやDX(デジタル・トランスフォーメーション)といった注目トピックも、ゲームの開発技術と親和性が高い。既存の価値観に囚(とら)われず、ユーザーファーストの姿勢を貫くことが重要で、これは同社の成功体験にもつながる。今後、出版されるであろう4冊目の社史には、ゲーム事業が相応の厚みをもって記述されることを期待したい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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