カムカムエヴリバディ:名ぜりふで振り返る100年の物語 安子編「どこの国とも自由に行き来できる」「I hate you」

上白石萌音さん
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上白石萌音さん

 女優の上白石萌音さん、深津絵里さん、川栄李奈さんが主演するNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「カムカムエヴリバディ」(総合、月~土曜午前8時ほか)が4月8日に最終回を迎える。「ひなたの道を歩きたい」「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」のおまじないなど、3世代をつなぐ名ぜりふの数々を生み出した同作だが、心に残るせりふはまだまだ数多く存在する。そんな名ぜりふをピックアップし、「安子編」「るい編」「ひなた編」に分けて100年の物語を追う。今回は上白石さんが初代ヒロイン・安子を演じた「安子編」(第1~38回)だ。

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 ◇「メイ・アイ・ライト・ア・レター・トゥ・ユー?(手紙を書いてもいいですか?)」

 「カムカムエヴリバディ」は2021年11月1日にスタート。安子は岡山の和菓子屋「たちばな」の家に1925年に誕生した。同年11月5日に放送された第5回では、ある日、安子とのちに夫となる稔(松村北斗さん)が2人で夏祭りに行くことに。しかし、稔の弟で幼なじみの勇(村上虹郎さん)から、社長の跡取りの稔と「あんころ屋の女では釣り合わん!」と言われてしまう。落ち込む安子は、稔の前から走り去ってしまう……。

 後日、勇から夏祭りの一件を謝罪され、夏休みを終えた稔が大阪に帰ることを告げられた安子は、稔に会うことを決心。翌朝、練習したばかりの自転車で駅に向かい、覚えたばかりのたどたどしい英語で「メイ・アイ・ライト・ア・レター・トゥ・ユー?(手紙を書いてもいいですか?)」と伝えると、稔は「Of course. I will write to you in return(もちろん。僕も返事を書くよ)」と約束し、大阪に戻っていった。

 ◇「何で泣いてるん?」

 同年11月10日に放送された第8回。戦争が始まると砂糖が配給制になり、「たちばな」の和菓子作りも打撃を受ける。そんな中、安子は父・金太(甲本雅裕さん)から砂糖会社の息子との見合い話を持ちかけられる。家族の幸せを願う気持ちと稔への思いとの間で、安子の心は大きく揺らぐ。翌朝、安子は置き手紙を残し、小さなかばん一つで始発の汽車に乗り込む。

 稔と大阪で再会した安子は、「配達で近くまでやって来た」といい、ひとときを過ごすも、結局思いを伝えることができぬまま岡山へ戻ろうとする。帰りの汽車の中で涙する安子の前に、別れたはずの稔が現れ、「そねん、小せえカバン一つで配達もねえじゃろう。何で泣いてるん? 安子ちゃん。何があったの?」と優しく声を掛ける。

 ◇「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける」

 同年11月22日に放送された第16回。稔と結婚した安子はるいを出産。るいという名前は、2人の思い出の曲「On the Sunny Side of the Street(オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート)」を歌うルイ・アームストロングから稔が命名した。「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。僕らの子供にゃあ、そんな世界を生きてほしい。ひなたの道を歩いてほしい」という思いが込められていた。だがそんな娘の姿を見ることなく、稔は戦死する。

 同せりふは、雉真繊維の製品を欧米と取引することを夢見ていた稔が、戦争の影響で外国との貿易が制限されてしまったことや、好きなジャズを自由に聴けなくなったことから出た言葉だ。2022年3月18日放送の第97回では、稔が“幻”となって再登場した際に、初めて出会った娘るい(深津さん)に、「どこの国とも自由に行き来できる、どこの国の音楽でも自由に聴ける、自由に演奏できる……。るい、お前はそんな世界を生きとるよ」と優しくほほ笑む場面もあった。

 ◇「雉真の家にお返ししようと」

 2021年12月8日放送の第28回。るいの傷の治療費を稼ぐため、おはぎを売り歩く商売を始めた安子は、千吉(段田安則さん)からるいを連れ歩くことを反対される。家に残されたるいは、女中の雪衣(岡田結実さん)に「何でお母さんと一緒におはぎを売ったらいけんの? 何でお母さんは私のことをここへ連れてきたん?」と聞く。雪衣は「安子さんはあきらめたんじゃと思います。女手一つでるいちゃんを育てることをあきらめて、雉真の家にお返ししようと決めたんじゃ思います」と話していた。この言葉は放送当時、“呪いの言葉”としてネットでも話題になったほか、安子とるいが離れ離れになる遠因ともなった。

 2022年4月1日放送の第107回では、晩年期の雪衣(多岐川裕美さん)が、安子(上白石さん)に対して長年抱き続けてきた思いを初めて告白。るいに「あのとき、寂しそうなるいちゃんの顔を見よるうちに、意地の悪い、どす黒え気持ちが腹の底から湧き上がってきた」「いたいけなるいちゃんに、ひでえこと言うてしもうた。私があげえなこと言わなんだら、もしかしたら安子さんとるいちゃんが、離れ離れになることもなかったかもしれん。ずっとそねえな気がしとった」と長年後悔していたことを語った。

 ◇「思いも寄らない場所まで連れていってくれますよ」

 2021年12月14日放送の第32回。安子と親しくなった進駐軍将校のロバート(村雨辰剛さん)が、岡山を離れることになった。おはぎを買いに来たロバートは、「英語の勉強、これからも続けてください。きっとあなたをどこかへ、思いも寄らない場所まで連れていってくれますよ」と告げて、去って行った。

 その後、るいから拒絶された安子は、ロバートとともに渡米し、姿をくらませてしまう。半世紀後、アニー・ヒラカワ(森山良子さん)となって来日した安子は、英語を勉強するひなた(川栄さん)に「きっとあなたをどこか、思いもよらない場所まで連れて行ってくれますよ」と励ました。

 ◇「I hate you(大嫌い)」

 2021年12月22日放送の第38回。安子は、失踪した兄・算太(濱田岳さん)を捜して、大阪の街を何日も歩き回り続け、雨の中に倒れこんでしまう。目を覚ますと、介抱していたのはロバートだった。ロバートが「I love you」と安子に告白し、米国へ共に渡ることを提案する。それを幼いるいが目撃。すぐさまその場を去った。

 安子はロバートに感謝の言葉を述べると同時に、どれほどるいを思っているのかを語り、渡米を断る。しかし、るいは安子とロバートの関係を誤解したまま、安子に額の傷を見せつけ「I hate you(大嫌い)」と告げる。

 2022年4月7日放送の第111回では、母娘が半世紀ぶりに再会。るいが安子にかけた言葉は「I love you(愛してる)」だった。安子編では最も衝撃的だった「I hate you」だが、物語の最終盤、るいに「I love you」と言わせるための壮大な伏線だったのだろう。

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