バブル:荒木哲郎監督の新境地 川村元気、虚淵玄ら豪華スタッフで見せる“新しい景色”

「バブル」のビジュアル(C)2022 「バブル」製作委員会
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「バブル」のビジュアル(C)2022 「バブル」製作委員会

 アニメ「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」などの荒木哲郎さんが監督を務め、「SPY×FAMILY」などのWIT STUDIOが制作する劇場版アニメ「バブル」が、5月13日に公開される。「魔法少女まどか☆マギカ」「Fate/Zero」などの「ニトロプラス」の虚淵玄(うろぶち・げん)さんが脚本を手がけ、「DEATH NOTE(デスノート)」「バクマン。」などの小畑健さんがキャラクターデザイン原案を担当するなど豪華スタッフが集結。荒木監督と言えば、ダークな世界観を想起するアニメファンも多いかもしれないが、何だか様子が違う。「バブル」のビジュアルを見ると、鮮やかな青空が広がっており、青春ラブストーリーなのだという。「新境地」になったという「バブル」について、荒木監督に聞いた。

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 ◇作品をより広く届けるために

 「バブル」は、世界に降り注いだ泡(バブル)により重力が壊れた東京を舞台に、主人公・ヒビキが、不思議な力を持つ少女・ウタと出会う……というストーリー。ヒビキたちが、ビルからビルへ駆け回るパルクールのチームバトルを繰り広げる。同作を企画、プロデュースしたのは、劇場版アニメ「君の名は。」(新海誠監督)などで知られる映画プロデューサーで小説家の川村元気さんだ。

 「最初に話し合い始めたのは2017年です。WIT STUDIOの(取締役の)中武哲也、(社長の)和田丈嗣さんと一緒に、川村元気さんに『自分たちの作品をより広く届けるために、一緒に映画を作ってもらえませんか?』とお願いしました。半年くらいは企画を考える時間があり、2018年くらいに『近未来の廃虚を舞台とした人魚姫』というコンセプトが固まりました。虚淵玄さんは元から『一緒にやりましょう』と言ってはいたのですが、企画が固まってから、入っていただきました。虚淵さんにプロットを固めていただき、ほぼ今の形になりました」

 ヒットメーカーである川村さんと一緒に作品を作ることで刺激を受けた。

 「映画のみならず、小説、音楽など広いフィールドで活躍されている方ですし、自分たちにはないセンス、経験があります。世の中の人が何を求めているか?という感覚を頼りにしていました。川村さんは自分のことを『心がOL』と言うんですね。妙にしおらしいところがあったり(笑い)。女性にも刺さる作品を……と考えていましたし、判断の物差しの重要な一つになっていました。今回のお客さんに対しては、どこを頑張るのが一番効果的なのか?と考える中で、川村さんの存在が大切でした。気がついたら、見当外れの方向で頑張っているということは誰しもありますから」

 「より多くの人に届く作品を」という思いから、川村さん以外にもスタッフの意見を積極的に取り入れた。

 「自分からみんなに意見を聞きまくり、コンテやシナリオを直しました。とにかく『極限まで強める』という気持ちでした。『甲鉄城のカバネリ 海門決戦』の時からやるようになったことなんです。ブレイントラストと言ってピクサーなど海外でやっていることなのですが、みんなで意見を出し合い、意見を反映して修正を加えていく。そうすることで、映画が強固になる。みんなの意見を自分が受けきるというのが今回の映画を作る上でのテーマでしたので。多くの人に届けたいと思っているんだったら、多くの人の意見を可能な限り吸収する。かつ、フィルムとしての筋を通そうとした。当たり前のことなのかもしれませんが」

 ◇虚淵玄が作り出す唯一無二の物語の構造

 荒木監督や虚淵さんら個性的なクリエーターが集まり、さらにさまざまな意見を集めたとなると、ブレてしまうことがあるのではないか?とも感じるが、そんなことはなかった。「バブル」は、“フィルムとしての筋”が通った作品に仕上がった。荒木監督や虚淵さんは、先鋭的なイメージもある。とがった部分がなくなったわけではなく、絶妙なバランスの作品に仕上がったようにも見える。

 「虚淵さんじゃなきゃいけない部分がありました。作品を決定づける唯一無二の物語の構造を発明するのは、ほかの人にはできない」

 メインビジュアルは、鮮やかな青空が印象的だ。

 「これまでデス、ブラッド……などという単語が付く作品が多かったのですが、違うことをやってみたかったし、やれると思っていた。川村さんは最初から『青空が広がるようなポスターの青春ラブストーリー』と言っていて、自分はハードなイメージがあるからこそ、イメージとは逆のものをやってみたかった。虚淵さんにしか出せないものもありますし、バランスがいいのかもしれません」

 ◇立体機動を進化させたアクション

 アクションも大きな見どころになっている。廃虚となった東京で、少年少女がビルからビルへ駆け回るパルクールを繰り広げる。「進撃の巨人」で、立体機動装置によるアクションを発明した荒木監督とWIT STUDIOだからできたことなのだろう。空を飛ぶようにジャンプし、駆け回るアクションが心地よい。

 「3Dと2Dのハイブリッドで見せるパルクールは、立体機動の技法を応用しています。とはいえ立体機動は、背景が流れてさえいれば、キャラは好きな動きをできるし、建物の凹凸に対して登ったり、立ったりはしないので、きっちり合わせなくてもいいのですが、パルクールは、厳密に合わせないといけません。より大変なのですが、立体機動を成功させたスタッフたちだからできた。一からはできないですね。ウタとヒビキが心を通わせて、パルクールを繰り広げるシーンは、パルクールと言いながら、ちょっとカメラを高くして、飛行シーンとして描いたところもあります。こういう映画ならば、空を飛ぶシーンがいるだろうと思ったんです」

 実在の街を舞台にしているが、水没していることもあり、普段見ている風景とは違って見える。現実とフィクションが入り交じったような独自の世界を作り上げた。

 「実際には本物の街をあんなにピョンピョンと上手には飛べない。動きに合わせて、ビルを都合のよい配置にしています。アニメだからできたことです。水没したという前提があるので、普段よりも視点が10メートル以上高い。知っている場所だけど、知らない場所という絶妙な異化効果があるのかもしれません。取材が大変でした。許可を取ってドローンで撮影した場所もありますが、難しい場合は、一番高いビルの屋上から写真を撮ったり」
 荒木監督は「甲鉄城のカバネリ」で“メイクアップアニメーター”という役職を作り、キャラクターに化粧をするような処理を施すことで、より美しく見せたことも話題になった。「バブル」も同様にキャラクターの表情の細部までこだわり抜いた。

 「ここぞというシーンのディテールを跳ね上げるための担当者をメイクアップアニメーターと呼んでいます。今回、(キャラクターデザイン原案の)小畑さんのデザインは、ハイディテールな『デスノート』路線というよりは『バクマン。』路線で、マンガらしい表現です。やりすぎると、浮きそうだったので、目元、髪に絞ってディテールアップしています。『カバネリ』の時の50%くらいのイメージですね。目をしっかり見せようとしました」

 立体軌道装置を発展させたアクションやメイクアップなどこれまでのノウハウを集結させつつ、新たな地平を切り開いた。

 荒木監督は「青春ラブストーリーの中でこれまでの技法を見せる。遠い世界だと思っていたものとクロスオーバーすることができました。新しい景色を見ることができました。最初の話に戻るのですが、やっぱり川村さんとご一緒できたからなんですよね」と自信を見せる。荒木監督ら豪華スタッフが作り出した“新しい景色”をぜひ堪能してほしい。

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