小野憲史のゲーム時評:E3中止に見るビジネスモデルの変化

2016年のE3の様子
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2016年のE3の様子

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲーム業界の流通の歴史を振り返ります。
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 ゲーム業界の6月はE3(エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ)の季節だ。大手ゲームパブリッシャーがE3にあわせて新作タイトルや新型ゲーム機を発表するのが常で、全世界からゲーム業界関係者が開催地の米ロサンゼルスに集まった。筆者が出版社勤めからフリーランスになったのも、自由に海外取材をしたかったからだ。中でもE3は憧れのイベントで、2001年に初取材した際は、その圧倒的なスケール感に驚かされた。

 もっとも、こうしたエピソードも徐々に過去の話になろうとしている。E3を主催する米ゲーム業界団体、エンタテインメントソフトウェア協会(ESA)は3月31日、オンラインでの対面開催に続いて、オフライン開催も取りやめる発表を行った。2023年にオンライン・オフラインのハイブリッド開催を行うため、リソースを集中させるのが狙いだという。2021年はオンライン開催が行われたE3だが、2022年は2020年に続いて完全中止となった。

 しかし、同じゲーム業界イベントのGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)が、3月に米サンフランシスコで対面開催を行っている。他にPAX(ペニー・アーケード・エキスポ)をはじめ、ゲームイベントの対面開催は増えつつある。こうした中、この中止理由は説得力に乏しい。ESA側に続ける意思があれば、形はどうあれ、オンラインイベントは開催できていただろう。そこには本コラムでも何度か触れたとおり、ゲーム業界における構造的な問題があると考えられる。

 実際、コロナ禍の前からE3の地盤沈下は明らかだった。家庭用ゲームの大作化と、年間販売本数の減少。自社カンファレンスの開催。動画配信やSNSの活用といったデジタル・マーケティングの増加。デジタル流通やモバイルゲーム市場の拡大などだ。これに対してE3も2017年から一般ユーザーの入場を解禁するなど、対抗策を打ち出していたが、コロナ禍でとどめをさされた。かりにコロナ禍がなくても、早晩行き詰まっていただろう。

 家庭用ゲームのビジネスモデルも変化を迎えている。ソニーが5月10日にオンラインで開催した2022年度の決算発表会でも、興味深いデータがみられた。PS4(2013年11月~2015年3月)とPS5(2020年11月~2022年3月)における接続コンソール1台あたりの平均支出額で、フルゲームの割合が21%減少したのに対して、アドオン(追加コンテンツ)の割合が247%上昇したのだ。

 このように、ゲームをデジタル・プラットフォームととらえ、追加コンテンツで収益を上げるやり方は、家庭用ゲームでも主流になりつつある。年末商戦に新作ゲームを集中投下するやり方は、過去のものになろうとしているのだ。こうした時代では、ゲーム見本市の役割も見直さざるを得ないのは明らかだろう。E3の「新作ゲームの流通向け商談会」と「メディア向けの発表会」という目的自体が、時代とそぐわなくなってきているのだ。

 もっとも、E3のようなゲーム見本市には、イベントを開催することでメディアの耳目を集め、存在感をアピールする「業界ショーケース」としての役割もある。全世界のゲーム業界関係者が一堂に会する、コミュニティ育成の場としても重要だ。実際、オフラインでのE3の開催中止が続いていることで、これらの役割も失われたままになっている。来年度以降、ESAがE3というブランドをどのように復活させるか注目していきたい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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