鋼の錬金術師:色あせない魅力 ブレない軸 「最初から結末は決まっていた」

映画「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成」のビジュアル
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映画「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成」のビジュアル

 荒川弘さんの人気マンガ「鋼の錬金術師(ハガレン)」が原作で、人気グループ「Hey! Say! JUMP」の山田涼介さんが主演を務める実写映画シリーズの完結編が、「鋼の錬金術師 完結編 復讐(ふくしゅう)者スカー/最後の錬成」(曽利文彦監督、5月20日・6月24日公開)として2カ月連続で公開される。連載が始まったのは約21年前で、連載を終了してから約12年もたつ。マンガの表現が進化する中、「鋼の錬金術師」は色あせない魅力がある。だからこそ、2022年に実写映画が公開されることになったのだろう。「鋼の錬金術師」の担当編集だったスクウェア・エニックスの下村裕一さんに、同作の普遍的な魅力について聞いた。

 ◇連載秘話 新人離れしたセンス

 「鋼の錬金術師」は、錬金術が科学のように発達した世界を舞台に、エドとアルの兄弟が、失った体を取り戻すため、賢者の石を探す旅に出る……というストーリー。2001~10年に「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス)で連載され、アニメ化もされ人気を博し、2017年には1作目の実写映画が公開された。

 「鋼の錬金術師」は、荒川さんの初連載作だった。下村さんは、連載前から新人離れしたセンスを感じたという。

 「荒川先生の誌面デビューは、弊社マンガ賞で大賞を受賞した投稿作だったのですが、その頃からすでにずば抜けた技術を持った新人さんでした。次いで新たな読み切り作品をと『鋼の錬金術師』のネームがあがってきたのですが、あまりにも完成度が高く、急きょ連載作品として作り直してもらうことになったんです」

 「鋼の錬金術師」は、軸がブレない作品だ。「家族」の物語であり、何かを得るために、何かを失う「等価交換」というテーマが一貫している。コミックスは全27巻で、完全版で全18巻と長すぎず、無駄がない。「連載開始時にラストが決まっていた」という話を聞いたこともある。

 「連載中に生まれたエピソードももちろんありますが、連載当初からラストまでの大筋はほぼ固まっていました。人気連載作品は、その人気がゆえに編集部側から連載期間を延ばすようマンガ家さんにお願いすることもあるのですが、『鋼の錬金術師』に関しては、荒川先生が練り上げた世界観、ストーリーを薄めず、最後まで描き切っていただくために、そうはしませんでした。月刊連載というのもよかったのかもしれません。どちらがいいというわけではないのですが、週刊連載とは見せ方が違いますし、1話分のボリュームも違う。一貫した深いテーマを描くにはページ数の多い月刊連載が合っていたのかもしれませんね」

 ◇深いけど読みやすい 優れたバランス感覚

 「分かりやすさ」も大きな魅力となっている。本来は難しいはずのテーマもくどくどと説明することなく、伝わってくる。テンポもよく、作品の世界に引き込まれていく。言葉、画の力の強さによるところも大きいのだろう。

 「家族の死があり、それをよみがえらせようとする。直接的な言葉はないですが、死生観が描かれていて共感しやすいところがあったのかもしれません。重いテーマではありますが、荒川先生は中学生ぐらいの読者が読んでも伝わるように……とせりふを選び、せりふの量を考えていたようでした。それが“分かりやすさ”につながっているのかもしれませんね。『名ぜりふが多い』と言っていただけることもありますが、荒川先生は本当に言葉選びのセンスがすごい。凝った演出や画面のバランス、キャラの配置もそうですし、マンガとしてとにかく読みやすいので新人のマンガ家さんが苦戦している時『鋼の錬金術師』を参考にしてもらうこともあります」

 下村さんは「『鋼の錬金術師』は独創的ですが、王道の少年マンガでもあります。少年マンガらしい外連味(けれんみ)、気持ちよさがあるんです」とも話す。王道ではあるが、強い敵、さらなる強い敵……と敵がどんどん強くなって、主人公もどんどん強くなるという、バトルマンガにありがちなハイパーインフレが起きなかった。主人公のエドは強いキャラクターではあるが、最強ではない。

 「主人公のエドは天才で、いきなりレベル100から物語が始まるような設定です。でも、自分の弱さを自覚し、弱音も吐くという人間らしさもしっかり描かれています。強い者には立ち向かい、弱い者には寄り添うエドのキャラクターも共感しやすい部分なのかもしれませんね」

 テーマは深いが、エンターテインメントとして成立している。読者の年齢、状況などによっても感じることが変わってくるかもしれない。10年以上たって、読み返すと、新たな発見もある。

 「重厚なストーリー展開の中にコメディー要素がひょっこり入っていたりという緩急のある演出や独特な間、シリアス一辺倒ではないエンタメ性が『鋼の錬金術師』の魅力の一つかもしれません。荒川先生はご自身が経験し感じたものを自分の中に取り込んで、作品として昇華してしまう方なんですよね。一本でも大変なのに、それを何本もやってきている。本当にすごい方だと思います」

 ◇スタッフ、キャストの“ハガレン愛”

 「鋼の錬金術師」の実写映画シリーズの完結編は、連載20周年を記念した新プロジェクトとして公開されることになった。実写映画化にあたり「先生から『必ずこうしてほしい』というお話は特にありませんでした」といい、スタッフ、キャストの“ハガレン愛”を感じていたという。

 「マンガとは異なる、実写にしかできない表現が必ずあると思っていたので、そこを大事にしてほしいという思いはありました。特に近年はCGがすごく進化していますし、マンガにはない迫力が見られるのだろうなと。実際出来上がった作品を見ると、監督が『鋼の錬金術師』をすごく愛してくださっていることが伝わってきますし、山田さんをはじめとしたキャストの皆さんのたたずまいもキャラクターそのもので。ちょっとした動き、ポーズすらも完璧だなと映画の世界に没入してしまいました」

 荒川さんは「鋼の錬金術師」の連載終了後、テレビアニメ、実写映画化もされた「銀の匙 Silver Spoon」、田中芳樹さんの小説をマンガ化した「アルスラーン戦記」といったヒット作を生み出してきた。昨年12月には、「鋼の錬金術師」が連載された「月刊少年ガンガン」で新連載「黄泉(よみ)のツガイ」をスタート。下村さんは、新連載で再び荒川さんの作品を担当することになった。

 「ほかのスタッフとも一緒にやっていますが、立ち上げで参加しています。久しぶりに荒川先生とお仕事すると、お互いちょっと新鮮ですね。先生は、新しいものを作ることにすごくワクワクしているようです」

 新連載でも抜群のバランス感覚で独自の世界を表現している。今後の展開も期待される。

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