UFC280:寝技の頂上対決に? シャールズ・オリヴェイラ選手VSイスラム・マカチェフ選手 ライト級王座決定戦見どころは

絞め技を決めるシャールズ・オリヴェイラ選手 (C)GettyImages
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絞め技を決めるシャールズ・オリヴェイラ選手 (C)GettyImages

 10月23日(日本時間)にアラブ首長国連邦アブダビのエティハド・アリーナで開催される総合格闘技(MMA)イベント「UFC280」が、WOWOWで生中継・配信される。メインイベントは、シャールズ・オリヴェイラ選手とイスラム・マカチェフ選手のライト級王座決定戦。さらに、バンタム級王者アルジャメイン・スターリング選手が、元王者TJ・ディラショー選手を迎え撃つタイトルマッチも組まれている。WOWOW「UFC−究極格闘技−」解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛さんが「UFC280」の見どころを語った。

ウナギノボリ

 --「UFC280」アブダビ大会は豪華なカードがそろいました。

 えらいこっちゃですね(笑い)。メインイベント級のカードがズラリと並んでいます。

 --その中でメインイベントはシャールズ・オリヴェイラVSイスラム・マカチェフのライト級王座決定戦、まさに“頂上対決”と呼ぶにふさわしい一戦が実現します。

 オリヴェイラが11連勝中、マカチェフが10連勝中。どちらも負ける姿が想像できないですよね。そこをあえて全体的な試合の作りとかテクニック的なところで比べてみると、打撃に関してはオリヴェイラのほうがテクニック的にも豊富だし、至近距離のヒジなどMMAで有効な打撃も含めて、正直、上かなと思うんですよ。

 --オリヴェイラは、元ベラトール王者のマイケル・チャンドラーも“KO”していますし、試合を重ねるごとに打撃が向上していますよね。

 もともとオリヴェイラは寝技が得意で、寝技の展開が好きであるがゆえに、前半からガンガン極めにいって後半バテるというシーンが数年前まではあったんですよね。その反省もあって、近年は全体的な試合作りとして打撃にシフトしていったんじゃないかと思うんです。

 --トップ柔術家が打撃を一つの軸にしていくようになった、と。

 それによって、打撃にプラスして組んでからの寝技という必勝パターンができあがっていった。たとえば、打撃でプレッシャーをかけて、相手が嫌がって頭を下げたところにフロントチョークだったり。組んできてくれたら、そのままバックを獲(と)って後ろからチョークで絞めるとか、打撃を軸にしつつ最終的に極めて勝つという形ですね。ただ、その前段階である打撃がかなり向上しているので、打撃だけでもKOを奪えるくらいの実力を備えたのが、今の状態だと思います。

 --最強のグラップラーがKOできる打撃を身につけて、まさに「鬼に金棒」ですね。

 だからオリヴェイラの強さの根底にあるものは、やはり寝技なんですよ。“寝技になれば絶対に勝てる”という自信があるからこそ、打撃も思い切っていける。組まれたり、テークダウンされても下から極めればいい、という余裕があるから近い距離で積極的に打撃戦ができるんだと思います。

 --一方、マカチェフのほうはいかがですか?

 マカチェフもグラップラーですけど、オリヴェイラの柔術系の寝技とは違い、マカチェフは盟友ハビブ・ヌルマゴメドフと同じタイプですよね。組んで寝かせたらパウンドを落として、相手が嫌がって横を向いたらバックを獲って首を絞めるとか。どちらかというとフィジカル全開で、しかもスタミナは最終ラウンドまでもつというのが、彼らの寝技の特徴ですよね。

 --オイヴェイラが「柔」の寝技だとしたら、マカチェフは「剛」の寝技。

 そしてマカチェフは、打撃に関しては“仕留めるための打撃”というより、あくまでも“組むための打撃”という位置づけで練習してる、そんなにおいがするんですよ。だからおそらくマカチェフは打撃のやり合いは望んでいない。なので必然的に寝技のやり合いという形になったら、これはこれですごく見応えがある試合になると思います。

 --柔術ベースとサンボベースの異なる寝技のぶつかり合いになりますね。

 だからこれは進化した最新版の異種格闘技戦ですよ。両者ともにMMAにおけるトップのグラップラーでありながら、まったく種類の異なる組み技のルーツを持った者同士がタイトルを賭けて戦うという。これは寝技好きの人間からすると、たまらないマッチアップですね。

 --MMA黎明(れいめい)期からブラジリアン柔術とロシアのサンボは天敵みたいなライバル関係でしたけど、最新の頂上対決のようですね。

 そこがすごく興味深いですね。同じ“寝技”でも両者はやりたいことが全然違うんですよ。オリヴェイラはどちらかというとスクランブルを駆使するタイプ。足関節を獲るわ、首を獲るわ、腕を獲るわと、狙うところをバンバン変えて、対処しきれなくなった相手を極める感じですよね。逆にマカチェフのほうはそれをやらせず、潰して潰して制圧する寝技なので。

 --自ら動いて翻弄するオリヴェイラと、動きを封じて制圧するマカチェフ。まさに矛と盾ですね。

 だからこそどっちが強いの? という興味が尽きないですよね。ブラジリアン柔術とロシアのサンボ、どっちが上なのかというUFC始まって以来の命題の一つの決着をつけようということなので、ものすごいことが起こるんじゃないかと思います。

 --かつてのPRIDEヘビー級頂上対決、エメリヤーエンコ・ヒョードル選手VSアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ選手のように、マカチェフがパウンドで圧倒することも考えられますしね。

 そういうことですよね。オリヴェイラがいろいろ仕掛けようとするんですけど、マカチェフが「関係ねえよ!」ってフィジカルでボコボコにする展開もあるかもしれないし。逆にオリヴェイラが、そのパウンドをうまくすり抜けてバックを奪うかもしれない。

 --一つ懸念されるのはマカチェフは10連勝中ですけど、マッチメイクの関係でトップランカーとの対戦経験があまりないんですよね。そこがトップランカーを根こそぎ倒してきたオリヴェイラとの大きな違いかな、と。

 それはありますね。修羅場をくぐってきた数が違うという。やはり一瞬の状況判断ひとつとっても、トップランカーはほかの選手ができない動きや攻撃もしてくるんですよ。だから実際、オリヴェイラはジャスティン・ゲイジーやダスティン・ポワリエにダウンを奪われていますけど、そのピンチを乗り越えて勝ち続けてきたので。マカチェフに対して、「俺はこれだけの修羅場をくぐり抜けてきたぞ。お前はどうなんだ?」というところで、精神的なマウントを取る部分もあると思います。一方、マカチェフはタイトルコンテンダーとの戦いこそないものの、この10連勝中にピンチらしいピンチもほとんどないので、そこに幻想がありますよね。だから、精神的なプレッシャーの掛け合いという意味からも、戦いはすでに始まっている。非常に楽しみな一戦です。

 ◇

 --続いてセミ・メインイベントは、4月の「UFC273」でピョートル・ヤン選手を僅差の判定で破ってバンタム級統一王者になったスターリングが、復活してきた元王者TJ・ディラショーを迎え撃つバンタム級タイトル戦です。

 ディラショーは昨年7月のコーリー・サンドヘイゲン戦で競り勝ったものの試合中に膝の靱帯(じんたい)を負傷して手術してるんですよね。

 --そうですね。手術明けの1年3カ月ぶりの復帰戦が、いきなりタイトルマッチとなります。やはり、そこは懸念材料になりますか?

 当然そうなりますけど、ディラショー自身は「欠場明けだからタイトルマッチの前に、一試合挟みたい」みたいな気持ちはなかったと思うんですよ。若いイメージがありますけど現在36歳で、その前には薬物検査失格のペナルティーで2年という時間を棒に振ってますからね。チャンスは逃したくないでしょうから。

 --欠場明け、ブランクがある、などとは言ってられないと。

 ただ、本人はそんなにマイナス要素として捉えていないかもしれない。バンタム級王者時代にコーディ・ガーブラント選手に2連勝した時のイメージは自分の中でもちゃんと残っているだろうし、それ以前に積んできた経験を試合の中に落とし込んで、試合でやろうとしていることと身体がフィットしている感じは自分も見ていてすごくあるなと思っているので。

 --それがサンドヘイゲン戦でもうかがえたと。

 そうですね。ディラショーが今さら自分のスタイルを変えることはないと思うんですよ。どれだけ研究されても高速ステップで左右に構えを変えながらプレッシャーをどんどん掛けていって、それによって相手を削って、当てるべきところで打撃をしっかり当てにいくという戦いをすると思うので。

 --ただ、王者スターリングはグラップラーで、打ち合いを避けることが考えられますよね。前回もバックからの“四の字ロック”で動きを封じて確実にポイントを重ねるかたちで、ストライカーのピョートル・ヤン選手から判定勝ちを収めました。

 スターリングの一番の武器はバックコントロールで、そのためにもタックルに入りたいんですよ。スターリングはこの階級でトップのレスラーですけど、やるタックルは実はすごくシンプルで、真っすぐ入って片足を獲る片足タックル。ただし、左右どちらの足も獲れて、相手がスイッチする変わり際とかにすぐ入るので、タックルに入るためのセッティングに時間を取られずに、バンバン入っているように見える。そしてタックルに入ることで、リズム的にも気分的にも乗っていきやすいんだと思います。

 --タックルによってペースをつかんでいく、と。

 ただ、自分のタイミングでタックルが獲れたら乗っていける半面、自分の距離じゃないところでタックルに行かざるをえなかったり、打撃でプレッシャーをかけられると逆にタックルが鳴りを潜めるんで、実はそこがスターリングのウイークポイントでもあるんじゃないかなと思うんですよ。

 --ピョートル・ヤン戦では、プレッシャーをかけられて後手に回ってしまいましたからね。

 だからスターリングは自分のリズム、距離で戦えているときは爆発的に強いんだけど、リズム、歯車を狂わされたときに修正するのに時間がかかるタイプでもあると思いますね。サンドヘイゲン戦のように速攻でタックルからバックをとって、コントロールされるのが理想で、ヤンのようにお構いなしに前に出てプレッシャーをかけてくる相手とは相性が悪い。

 --それを考えると、ディラショーは相手が誰であろうと高速ステップでどんどんプレッシャーをかけていくタイプですよね。

 なので、おそらくディラショーはプレッシャーをかけて、うまく誘い出すようにスターリングに嫌々タックルに入らせて、そこを切ってから打撃をたたみかけるということをやりたいんじゃないかと思います。ディラショー自身、もともと「NCAAディヴィジョン1」レスラーで、タックル切るのもうまいですからね。

 --そうなるとスターリングは、いかに自分からプレッシャーをかけられるかがポイントになりますか?

 そうですね。どちらが最初に主導権を握れるかによって、相当差が出てくると思います。ディラショーも慎重にいくタイプというより、自分からリスクを取ってでも攻めていくタイプだから。そのディラショーの仕掛けの対応にスターリングが追われるようになったら、どんどん削られていってしまう。だからスターリングの方は、ディラショーの動きに惑わされず、前回のヤンとの試合のように、自分から仕掛けて組みにいきたい。そしてバックを奪えたら、ここからはスターリングは無敵の強さを発揮するので一本取れなくても、しっかりラウンドのポイントは奪うことができる。そこの強みがあるので、タイトルマッチの5ラウンドの中、獲るラウンドは獲る、捨てるラウンドは捨てる、という戦略も必要になってくるかもしれないですね。

 --判定勝負になったら、スターリング優位に傾いていく可能性が高い、と。

 一方、序盤からKOできる爆発力をディラショーは持っているので、どちらにしても最初の1~2ラウンドでどちらが主導権を握るかが重要になってくる。本当に試合開始直後から一時も目が離せないような試合になると思います。

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 試合の模様は、10月23日午前3時からWOWOWプライムで生中継。WOWOWオンデマンドでも同時配信される。解説を高阪さん、堀江ガンツさん、実況を高柳謙一さんが務める。27日午前8時からはWOWOWライブ・WOWOWオンデマンドでリピート放送・配信する。


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