井浦新:「一度やったお芝居はやらない」俳優としてのスタンスと理想 48歳で望む“50代のエンジン”

「連続ドラマW 両刃の斧」で柴田恭兵さんとダブル主演を務める俳優の井浦新さん
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「連続ドラマW 両刃の斧」で柴田恭兵さんとダブル主演を務める俳優の井浦新さん

 11月13日からWOWOWで放送・配信がスタートする「連続ドラマW 両刃の斧」で柴田恭兵さんとダブル主演を務める俳優の井浦新さん(48)。ドラマは15年前に起きた未解決事件をめぐる刑事サスペンスで、井浦さんが演じるのは、柴田さん演じる元刑事・柴崎佐千夫のかつての後輩だった所轄刑事・川澄成克。柴崎を人生の師と仰ぎ、警察官としての誇りと意地をかけて事件解決に執念を燃やすという男だ。撮影前は柴田さんとの共演をモチベーションに日々を過ごしていたという井浦さんに、共演の感想や俳優としての“これから”への思いなどを聞いた。

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 ◇柴田恭兵の握りこぶしに圧倒された

 ドラマは、大門剛明さんの同名小説(中公文庫)が原作のサスペンス。井浦さんは刑事の川澄成克、柴田さんは川澄の先輩刑事・柴崎佐千夫を演じる。何者かに長女を殺害された捜査1課の刑事・柴崎は、川澄と共に事件の真相を追うが迷宮入りし、15年後、未解決事件の再捜査を専門とする「専従捜査班」が設置されたことで事態は動き始める……というストーリーだ。

 オファーを受け、最大の魅力に感じたのが柴田さんとの共演だった。自身が俳優になる以前から「かっこいいな、すてきだな」という印象だったと明かし、今作の撮影をモチベーションにしていたという。「ずっと最前線で走り続けている人生の大先輩と共演させていただけて、こんなに光栄なことはないと思いました。森義隆監督も、多作な監督ではなく何年かに1本、映画史に残るような作品を丁寧に作る監督。そんな森監督のもとで柴田恭兵さんと共演させていただけるのは、とにかくうれしかったです。お話をいただいてから、ずっとこの作品をモチベーションに『あと何作終わったら森組だ』と思いながら過ごしていました」
 
 柴田さんといえば、人気刑事ドラマシリーズ「あぶない刑事」などでも知られる。そんな柴田さんとの刑事役での共演に「きっと多くの方の心の中に残っている『あぶない刑事』は、僕自身もやっぱり心の中にある作品。柴田恭兵さんと刑事役で……というのは、本当にテンションが上がるなと思いました」と胸の内を明かす。

 柴田さんと共演し、特に印象に残っているエピソードがある。「川澄が、取り調べ室で恭兵さん演じる柴崎とテーブルを挟んで対峙(たいじ)し続けるシーンがあり、芝居の中で恭兵さんが一瞬、握りこぶしを出すときがあるんです。恭兵さんはシャープでスマートな方なんですけど、僕に語りかけながら出したその握りこぶしが、僕には僕の顔よりも大きく見えて、もう圧倒されていたんですよね。芝居というより、自分の魂を削り取って表現することってやっぱりすごいことなんだな、と思い知らされました」と井浦さんは熱く共演の思い出を語る。

 そんな柴田さんとの共演を含め、現場では「生きている実感」を得られるような充実した日々を過ごしていたという。「監督が中心となってぐいぐい引っ張っていくので、現場は毎日『早く撮影に行きたい』と思うぐらい、ものすごくクリエーティブでしたし、生きている実感を得られる現場でした。毎シーン毎シーン、難しいことに挑戦させてもらえるので、終わったころにはふらふらになるんですけど。うまくできなかったこともいっぱいあったけど、それでも生きてる実感を味わいながら、毎日過ごすことができる……そういういい現場でした」と振り返る。

 ドラマの見どころには、柴田さんの演技を挙げる。「『2022年の柴田恭兵さんの、最新のやべえ芝居を見てください』ということ。僕は思いっきりぶつかっていける、ありがたい役をいただけたので、共演者でもあり、目の前で柴田恭兵さんの芝居を楽しめる最前線の視聴者でもあったんです。『こんな恭兵さん、見たことない』と毎日思っていました。『もう頼みますから、芝居とはいえ、そんな目でこっちを見ないでください』と思うぐらい、本番中はものすごい形相で。ちょっと耐えられないというか……。目を背けちゃいけないけど背けてしまうぐらいのお芝居をされていると伝わってきました」と熱い思いを口にする。

 ◇アンバランスでいることを意識

 原作を台本と並行しながら読み、「重厚感があって、心をえぐられるようで。『この世界を生身の人間がやったら、どうなるんだろう』と正直ちょっと恐怖でしたね。大変なことになるなって思いました」と撮影前に感じていたという井浦さん。ページをめくりながら「どうなっていくんだろう、なんてことが起きてしまったんだ、どうなるんだこれ」と引き込まれたといい、「森監督のもとで、このキャストで作っていくからこそ、きっと価値があるんだと思いました」と語る。

 演じる川澄は、台本を読んでいる時から「すごく難しい役だ」と感じていた。

 「何かが起きると、視聴者と同じように驚く。いろんなことを視聴者が知るタイミングで川澄も知っていくんです。だからストーリーテラーでもあるんですけど、登場人物の中で川澄が一番、何も背負っていなくて、何も分かっていなくて、ただくたびれていったおじさん。でも、ただの馬鹿でもダメですし、川澄なりに背負っているものがいくつかある。『自分が事件を解決する』と大好きな先輩と約束していながら、15年たっても何も解決していないという負けた感じや、義理を果たせていない部分とか。そのどっちにも振り切れない場所にいる川澄をキープしながら演じる意識を持っていないと、すごくブレやすく見えてしまう。常にアンバランスでいることを、川澄を作っていくときに一番意識していました」

 ◇一度やったお芝居はやらない

 これまで数々の映画やドラマで幅広い役柄を演じてきた井浦さん。48歳になった今、残りの40代をどのように過ごしたいと考えているのか。

 「30代のころは、全部40代の糧になるようにやってきて、気がついたのは『その繰り返しなんだろうな』ということ。今40代を8年間やってこれたのは、30代のときに40代のエンジンを作れたからだろうな、と思ってもいるんです。だから結局、40代のうちにやっておきたいことというよりも、40代にやれるだけのことをやりまくっておいたら、50代になった時に、また50代のエンジンができているんじゃないのかなと思います」

 そんな井浦さんが望む“50代のエンジン”とはどのようなものなのか。

 「自分がどんなエンジンが欲しいか、ということだと思うんですよね。それは40代に出会った共演者や監督の方との経験から得てきたものからおのずと、50代に必要とする、使っていきたいエンジンができていくような気がしていて……。自分で調整していくより、一つひとつを丁寧にやっていった先に、『こんな形になっちゃった』となるのが理想なんじゃないかなと思っています。だから、40代のうちにやっておきたいことがもしあるとしたら、まだ40代も2、3年あるので、できることはとにかく全部やる、という感じです」

 今作の公式コメントでは「もうこれ以上何も出せませんという限界まですべてを絞り出しました」と明かしていた井浦さん。自分の限界に常に挑んでいく姿勢が糧になり、50代にまた新しいエンジンを作るのだろう。「常にチャレンジャーという感じです」と口にするように、役者としても難しい作品に挑むことを自身に課している。

 「もし『これはやらない』ということを決めているとしたら、『一度やったお芝居はやらない』ということ。僕、ラッキーなことにあまり『シーズンなんとか』という作品とはご縁がないんですよね。毎回完結させて、次に新しいことに挑戦できる。とにかく今、僕は新しいことをやりたい気持ちでいっぱいなんです。だから、自分が飽きてしまうような『得意な芝居』にはあまり持っていきたくない。どちらかと言うと、負荷がかかったり、やりづらかったりするお芝居や作品にやりがいを感じちゃう。『1回これやっているな』という気持ちでやっちゃうと、ただの力技、ただの仕事になってしまうので」と仕事へのスタンスを明かす井浦さん。「監督が求めているものに近づきながら、かつ自分自身が一番驚くような表現ができることが理想です。『うわ、こんなんできちゃった』みたいな」とほほ笑んで理想の姿を語っていた。

 「連続ドラマW 両刃の斧」は11月13日から毎週日曜午後10時にWOWOWプライム・WOWOW 4Kで放送、WOWOWオンデマンドで配信される。全6話で第1話は無料放送。

※ヘアメーク:NEMOTO(HITOME) スタイリング:上野健太郎

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