呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変
第36話「鈍刀」
11月14日(木)放送分
ピクサー・アニメーション・スタジオでアートディレクターを務めた堤大介さんが監督を務めるオリジナルアニメ「ONI~神々山のおなり」。堤監督は、米国を中心に活躍しており、2015年に短編アニメ「ダム・キーパー」でアカデミー賞にノミネートされたことでも知られている。「ONI」は、日米のスタッフによるCGアニメで、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」などの岡田麿里さんが脚本を手がけたことも話題になっている。「日本でしかできないCG」の表現を目指したという堤監督に、制作の裏側を聞いた。
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「ONI」の舞台は、八百万(やおよろず)の神々や妖怪たちが住む神々山。おてんば娘のおなりは、伝説の英雄“グレートヒーロー”に憧れ、新たな英雄を目指していた。古くから山の神々が恐れる“ONI”の脅威が数カ月後に迫る中、神々たちは山を守るため技に磨きをかけるが、おなりには特別な力が一向に現れない。理想と現実の間で葛藤するおなりに、新たな真実が立ちはだかることになる。Netflixで配信中。
堤監督は東京出身で高校卒業後、1993年に渡米。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業後、ルーカス・ラーニングやブルースカイ・スタジオをへて、2007年にピクサー・アニメーション・スタジオに入社。アートディレクターとして「トイ・ストーリー3」「モンスターズ・ユニバーシティ」などを手がけた。2014年にピクサーを去り、ピクサーの同僚ロバート・コンドウさんと共にトンコハウスを設立した。
米国を中心に活躍しているが、「ONI」は日本のスタッフとも一緒に制作した。
「制作の半分くらいは、日本のパートナースタジオさんと一緒に作りました。日本の方と一緒に作りたいという思いがあったんです。MEGALIS VFXさん、マーザ・アニメーションプラネットさん、アニマさんとパートナーシップを組ませていただきました。日本の方が見ても違和感がないように気をつけていて、日本のスタッフと一緒に作ることにこだわりました」
「ONI」では日本の風景が描かれている。海外のスタッフが日本風のアニメを作り、違和感を覚えることもあるかもしれないが、「ONI」にはそれがない。
「日本人として米国のアニメーション業界でずっとやってきた経緯の中で、本当の意味でちゃんと日本を描けているハリウッド作品がありません。いつかチャンスをいただけたら、日本の民話、昔話を題材にしたお話を作ってみたかった。僕たちがトンコハウスを設立した時、想像で作るのではなく、自分が経験したことをしっかり描くことを哲学、軸にしようとしました」
自身の米国での経験が「ONI」の大きなヒントになった。
「鬼、天狗(てんぐ)は、日本人が外国人を見て、びっくりして、あれはモンスターに違いない!と言い出したことから生まれたという話もあります。僕は米国で外国人、マイノリティーとして映画業界でやってきた中で、そういう経験をしてきました。見た目、言葉、文化が違う人を怖がり、それが暴走することもある。人間誰もが持ってる習性、闇ですよね。昔話だけではなく、今の世の中も変わらず人間社会はそういう闇を抱えています。鬼をテーマにして、アニメを作ろうとしました」
「ONI」は、ストップモーション(コマ撮り)風の映像も印象的だ。
「元々、全部コマ撮りで作る予定だったんです。日本の八百万、全てのものに魂が宿るというのがすてきだと昔から思っていまして、人形、物に命を吹き込むコマ撮りは、そういう表現ができると考えていました。日本のドワーフさんという最高のコマ撮りスタジオと一緒に初めて、パイロット映像も作りました。すごくすてきな映像になったのですが、ストーリーのスケールが思ったよりも大きくなり、プロデューサーから『このお話をコマ撮りで作るのは難しい』という話がありました。トンコハウスのメンバーはピクサー出身ですし、自分たちが一番慣れ親しんでいる手法でやろう……という判断で、CGにスイッチすることになりました。ドワーフさんと一緒に作ったルック、世界観を大事にしていて、それを指標にしてCGを作らせていただきました」
日本のスタッフと一緒に作ることで、米国、日本の技法をミックスしながら、日本ならではの表現も目指した。
「日本ではCGはまだ少数派です。日本でCGを作るとしたら、ピクサーやディズニーのような滑らかな動きを目指す必要はないんじゃないか?と思っていました。参考にしたのは、1980年代の日本のアニメなんです。日本の80年代のアニメは、予算が少なくてもスケジュールが厳しくてもすごい技術で動きを見せていて、日本独特のアニメの動きを作っていました。分析してみると、一つ一つの画の力がすごいんです。今回、フレーム数を落としましたが、一つ一つのポーズにすごく気を遣いました。日本でしかできないCGとは?と考えた時、80年代のアニメを原点として捉えて、みんなで一緒に考えました。日本のクリエーターはそれができると思っていましたし」
岡田さんが脚本を手がけたことも話題になっている。堤さんは、岡田さんが手がけた作品が大好きだったといい、面識はなかったが、自らオファーした。
「岡田さんはキャラクターの内面、闇を書ける方です。僕らもキャラクターの闇をテーマに今まで作ってきました。どうしても連絡が取りたくて、日本脚本家連盟のウェブの伝言板に『岡田麿里さんと連絡を取りたいのですが』と書き込んだんです。僕はしつこい性格でして、会いたい人にいつまでも連絡するという悪い癖がありまして(笑い)。そうしたら岡田さんから連絡をいただきました。最初は『ONI』に参加していただくとは考えていませんでした。脚本家を決めないといけないタイミングでしたし。ただ、企画をシェアしたところ、岡田さんから『ぜひやらせていただきたい』と言っていただけたんです。信じられませんでした」
「ONI」は世界190の国と地域で配信されている。英語版を先に作り、その後に日本語吹き替え版を制作した。最終脚本は英語で、言葉の壁があった。
「最初はみんなにみんなに反対されました。それでも『米国で岡田麿里レベルの脚本家なんか絶対雇えない』と説得しました。翻訳家の方もいますが、どうしてもニュアンスが伝わりにくいところもあるので、脚本を英語にする時、岡田さんのことを無視できません。毎日のように相談しながら、進めました。絵コンテも岡田さんに見ていただき、全ての工程でずっと二人三脚でやっていました。日本語吹き替え版は、翻訳家の方も素晴らしい仕事をしていただきましたが、オリジナルの意図を守るため、岡田さんと僕でせりふをたくさん書き直しています。この作品には、岡田麿里DNAが入っていて、それはなくてはならないものなんです」
岡田さんとの仕事で大きな刺激を受けた。
「大御所の方ですし、難しい方なのかな?という印象もあったのですが、そんなことはなかったです。いいものを作るためだったらためらわずに進む方です。けんかもよくしましたし、いい意味で遠慮しないでやれました。お互いにいいものを作りたいというハングリーさがあります。奇跡的なマッチングだったと思います」
「ONI」は子供が楽しめるのはもちろん、大人もハッとさせられるような作品に仕上がった。
「そこは目指していたところでもあります。僕には10歳の息子がいて、まずは息子に向けて作ったところもあります。息子くらいの年齢の子供に楽しんでいただきたかったし、そこがうまくいかなかったら失敗だと思っていました。ただ、子供をちゃんと描いた作品は大人も楽しめるだろうと岡田さんとも話し合っていました。自分たちの目線を子供の目線に合わせて、本当に苦しんでる子供の姿を描かないといけない。上から大人のエゴを押しつけるようなことはしないようにしました」
「ONI」は、キャラクターの内面を描きつつ、社会もしっかり描いている。今後も同様にキャラクターの内面を描いていきたという。
「キャラクターの内面をしっかり描くというテーマは今後も変わらないと思います。内面を描くことで、外も描ける。自分の内面で解決しないと、外のことも解決できない。それが常にテーマになっていくと思っています」
子供、大人の両方が楽しめる作品を作ることは容易ではないはず。今後も堤監督、トンコハウスの挑戦は続く。
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