八木莉可子:理想像は“スパイダーマン” 「First Love 初恋」で学び得たこと 「いまだ悩みの中」も「少しはつかめた」

「First Love 初恋」に出演する八木莉可子さん
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「First Love 初恋」に出演する八木莉可子さん

 動画配信サービス「Netflix」で11月24日から配信されるオリジナルドラマ「First Love 初恋」に出演している八木莉可子さん。本作では、満島ひかりさん演じる野口也英(のぐち・やえ)の若き日に扮(ふん)するという大役に挑戦し、今年はNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にも出演した八木さんは、今後さらなる飛躍が期待される注目の若手だ。理想像は「スパイダーマン」と明かす八木さんに、今作の撮影エピソードや現在の状況、理想の姿の真意などについて聞いた。

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 ◇満島ひかりから教わったこと

 ドラマは、宇多田ヒカルさんの1999年発表の楽曲「First Love」と2018年発表の「初恋」にインスパイアされたラブストーリーで、満島さんと佐藤健さんがダブル主演。1990年代後半と2000年代、現在の三つの時代が交錯し、20年余りにわたる忘れられない“初恋”の記憶をたどる一組の男女の物語だ。満島さんと八木さんが演じる野口也英は、キャビンアテンダントを目指すも不慮の事故で運命に翻弄(ほんろう)される……という役どころ。佐藤さんが航空自衛隊のパイロットになるも現在は別の道を進む、真っすぐな性格の並木晴道(なみき・はるみち)役で、晴道の若き日を木戸大聖さんが演じる。脚本・監督は寒竹ゆりさんが手がける。

 若き也英役はオーディションで勝ち取った。オーディション終了後の帰宅中に再び会場に呼び戻され、その日に合格が告げられた。「もちろんうれしかったんですけど、これまで、作品にたくさん出させていただいていたわけでもなかったので、『満島ひかりさんと同じ役、本当に大丈夫かな』『私で務まるだろうか』と不安も大きかったことを覚えています」と明かす八木さん。

 演じるうえで、同じく也英を演じる満島さんのこれまでの出演作を見て、実際に満島さんとも話をした。

 「撮影中にお話をさせていただいたり、ワークショップも開いていただいたり。監督にも、自分が想像している也英像について『私はこう思っていますが、どうでしょうか』と、監督のお話も聞かせてもらいつつ、いろいろとすり合わせさせていただいて、作品を進めていきました」

 満島さんには、難しいシーンでの満島さんの考えや也英像、役への向き合い方などを聞いた。特に印象に残っているのは、実際の現場で役を生きることの大切さだ。

 「私は台本をすごく読み込んで演じなきゃ、と思っていたんですが、ひかりさんとお話しさせていただいて『その場で生きることも大切だ』ということを教えていただいて。例えば、台本を読み込んで『こうだ』と思い込んで演じてしまうと、相手役との対話のシーンで、相手からちょっと違うニュアンスで返されても、それを無視して返事をすることになってしまい、全然会話にならない。準備は必要だけど、現場に行ったらその場で生きることが大切なんだと知って。私は也英らしさばかり考えていたので、それからは現場で感じることも大切にお芝居しようと心がけていました」

 ドラマは、宇多田さんの1999年発表の楽曲「First Love」と2018年発表の「初恋」にインスパイアされたストーリーになっている。八木さんは也英を演じる中で、これらの曲を「すごく意識していました」という。

 「出演が決まってから、宇多田さんを再度、すごく聴かせていただいていました。最初は役のために聴き始めたんですが、すごくハマって、宇多田さんばかり聴くようになって。ロケバスでの移動が長かったんですけど、その時もずっと聴きながら役に思いをはせていたので、歌に助けていただいた部分もあります」

 ◇撮影中は涙も…

 今作は、満島さん、佐藤さんをはじめ、也英の母親役で小泉今日子さん、父親役で井浦新さん、也英の人生に大きな関わりを持つ脳外科医役で向井理さん……と共演陣に豪華な顔が並ぶ。そんな環境で芝居をすること自体が八木さんにとって挑戦だったという。

 「出演していらっしゃるのがすばらしい方々ばかりなので、その中に交ざってお芝居させていただくこと自体が挑戦でした。たくさん経験があったわけでもないし、役作りも、自分とはまったく違うものとしてお芝居するのか、自分ごとのように捉えて自分として生きるのか、それも分からない状態だったので……これほど長期の作品に入らせていただくこと自体が、挑戦でした」

 挑戦する中で、役作りで悩みを抱え、撮影中は泣いてしまうこともあった。「すごく悩んで、撮影中に毎日泣いていたときもあって……。『撮影なのに目が腫れちゃって、明日どうしよう』と思いながら北海道にいました」と八木さん。だが、そう「悩むこと」自体が、今作を通して得たものでもあるという。

 「終盤もすごく悩んでいました。監督に怒られることもあったり、『あれ、思っていたのと違うな』というところがあったり……まだ、いまだに悩みの中にいます。でも、そのお芝居と向き合い“悩む”という経験をいただけたことがありがたいな、と思っています。ひかりさんに質問させていただくこともあって。どうやって役に向き合ったらいいかだったり、自分のお芝居の方法だったりを、少しは自分の中でつかめたんじゃないかなって思ってはいます」

 撮影中は、監督からの言葉が支えになっていた。

 「監督から、作品に入る前にお手紙をいただいて。私は自分が也英であることにすごく不安だったんですけど、監督からの手紙には『どんなにほかに達者な役者が現れようと、私は莉可子を選ぶと思います』ということが書かれていて……。監督に怒られたり、どう役と向き合えばいいか分からなかったりした時、それが励みになったというか、大丈夫なはずって思える砦(とりで)になっていて。それはずっと心にとどめて撮影に臨んでいました」

 ◇理想像はスパイダーマン

 2016年4月、当時14歳で大塚製薬「ポカリスエット」のCMヒロインに抜てきされ、注目を集めた八木さん。21歳となり、現役の大学生として学業と仕事を両立させながら、一歩ずつステップアップをしている最中だ。最近、大学の授業が対面になったことで、「お仕事とはまったく関係のない学校に強制的に連れ戻されることが、すごくありがたくて」と語っているが、その理由とは……。

 「オンライン授業のときは、家で授業を受けながら仕事のことを考えちゃうんです。でも学校に行けば、友達がどうでもいい話をしていて、それがすごく楽しくて、ありがたい。心の支えになり救われました。これは『ちょっと也英っぽいな』と思うんですが、私はマイナスの方に考えがちなんです。悲観的になっちゃうので、学校の友達がいてくれるのは、すごくありがたいです」

 そう語る八木さんの理想像は、「スパイダーマン」だ。

 「前から『スパイダーマンみたいな人になりたいな』と思っていて……(笑い)。ずっと人を少しでもプラスにしたり、幸せにしたり、なにかできる人になりたいな、という思いがあって。今まで自分がテレビを見て夢をもらったり、励ましてもらったり、しんどいときに笑わせてもらったりしてきたので、その立場になって夢を与えたり、楽しんでもらえる人になれたら……という思いで頑張っていて、それが俳優としての原動力になっています。スパイダーマンって、敵を倒すというより平和を守っているイメージなんです。自分が幸福度とかに興味があるのも、人を『幸せにしたい』という気持ちから。大学ではそういうことも勉強しているので、大学での学びも、俳優業も全部、つながっていると思います」

 そんな八木さんは、「まずは作品を通して、見てくださっている方に少しでも幸せな気持ちになってもらいたい。そういう作品を作る一員になれるよう、大学での4年間の学びを俳優像に生かせるようになればいいなと思います」とにっこりほほ笑んだ。

 ※クレジット(敬称略)

 ヘア:Tomoko Sato(mod’s hair)/メーク:NAO YOSHIDA(vow-vow)/スタイリスト:皆川 bon 美絵(the few)

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